夏が終わり、冬の気配が少しずつ近づいてくるのを感じていた。こうなったらもう遊んでばかりじゃいられない。冬ごもりの準備をしなくては。
夏のお洋服を全て丁寧に洗濯して屋根裏に上げたり、お野菜を酢漬けにして瓶に詰めたり、家の補修をしたり。
そして今日は編み上げたばかりの柔らかな毛糸のマフラー(調子に乗って少し長く作りすぎてしまった)を巻いて、籠と図鑑を片手に森へ向かう。
今日はきのこをたくさん摘んできて乾燥させる日にするつもりだった。冬につくるきのこたっぷりの温かなスープが大好きなのだ。今年もたくさんそれを飲むためにたくさんきのこを摘むぞと昨夜寝る前から意気込んでいた。
しかし、だ。今年は雨が少なかったからか、困ったことになかなかきのこがとれない。いつまで経ってもすっからかんの籠にほとほと嫌気がさして木の根に座り込んだ。
あのきのこのスープが飲めないなんて今年の冬を乗り切れる気がしない!小さなため息をつく。

「レディー!」

その時だった。後ろからわたしを呼ぶかわいい声がして振り向いた。同じく片手に籠を提げたアリサがすごい速さで駆け寄ってくるのが見える。

「アリサ、久しぶり!元気だった?」
「うん、覚えることがたくさんでちょっと大変だけど」
「すごい、魔女修行進んでるんだねえ」

少し忙しいと彼女が言うので、今年の夏はあまり会えていなかった。横にアリサが座るスペースをつくって、その分を取り返すようにいろいろな世間話に興じた。もう少ししたら修行と冬ごもりの準備が落ち着くからムーミンたちが冬眠する前にみんなで遊びに来てね、だとかたくさん作った酢漬けの瓶詰めとコケモモのジャムを交換しようねだとか。

「ところでレディ、どうしてこの森に?」
「きのこ狩りよ。でも今年は全然ダメね。諦めて帰ろうと思っていたところ」
「ああ、いけない!わたしもおばあちゃんに籠いっぱいのきのこをとってくるように言われてたんだわ!」

そしてそう言うとアリサは籠をもってバネ仕掛けの人形のように勢いよく立ち上がった。

「レディ、来て!」
「どうしたの?」

それから彼女は到底食べられそうにないほど小さなきのこを見つけるとそのすぐ側にしゃがみこんでわたしを呼び、見ててねといたずらっぽい笑みを浮かべた。そして小さな声で呪文を唱え始める。なんだか不思議でおかしなおまじないの言葉。
なんだろう?とみているうちにアリサの目の前の小さな小さなきのこが見る間に成長をし始めた。小ぶりなサイズ、普通サイズ、大ぶりなサイズ。しかしそれを通り過ぎてもアリサは口を閉じなかった。きのこは呪文につられるようにどんどん大きくなっていきやがてはわたしやアリサの身長とほとんど変わらないサイズになる。そこで彼女はようやく呪文を止めてきのこに触れた。

「さあ、これを半分こしましょう!」
「あはは、すごい!ありがとう!」

こんな大きなアンズ茸は初めて見た。2人がかりで何とかそれをもぎ取って2等分した。籠には到底入らない。

「ちょっと大きくしすぎたかしら?」
「大丈夫よ、春までたくさんきのこのスープが食べられるなんて夢みたい」

そう言うとアリサはまあそうね、と笑ってきのこの片割れを背負った。わたしも大きなきのこを抱えあげる。

「それじゃあ、近いうちに!」
「うん、つぎは一日中遊ぼうね」

そしてそう前向きな別れを告げて帰路に着いた。さあ、はやく冬ごもりの準備を終えなければ。冬に向けてたくさん遊んでおかなければいけないのだから。大きなお土産と次の楽しみが出来たのが嬉しくて、半ばスキップをするように肌寒い森の中を歩くのだった。

prev next

back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -