秋も終わりかけ、冬眠する種族の多いムーミン谷は1年の終わりの挨拶や備蓄のための準備でほんの少し慌ただしい。
わたしも今年初めてのムーミン谷での越冬のために厚手のコートや手袋を縫ったりするのに忙しかった。それでも一通りをなんとかこなし、冬眠前のムーミン一家に挨拶をしようと久しぶりにムーミン屋敷へ向かうとムーミンが陽だまりの落ち葉の上でお昼寝しているのが見えた。
冬毛のムーミン族はふわふわで暖かい。誘惑に耐えられずそっと後ろから忍び寄るとがばりとムーミンに抱きついた。
「うわあ!だれ!」
「ふふふっ」
「ああっ!その声はレディだな!」
柔らかな背中に頬擦りをする。陽だまりと落ち葉の香り。切ない秋の香り。そして彼がくすぐったそうに身をよじったので解放してあげると彼は笑いながらも一応は怒ったような声音でレディ、ともう一度名前を呼んだ。
「ごめん、柔らかくて気持ちがいいんだもん」
「もう!びっくりするじゃないか」
謝るとムーミンは文句を言いつつ立ち上がり、その次の瞬間には機嫌を直してくれていてムーミン屋敷を指さした。
「おいでよ。ママが木苺のジュースを沢山作ってくれているから少し持っていくといいよ。今年はムーミン谷で冬を越すんだろ」
「うん、水浴び小屋を借りるわね。楽しみだなあ」
「いいな、僕も起きれたら行くからね」
また神さまのいたずらで起きられるかもしれない。ムーミンがいれば憂鬱な冬も楽しい冬になるはず。
2人で屋敷に向かって歩きながらそう思った。
「それにしてもどうして旅を止めちゃったの、勿体ないな」
「旅というか里帰りだけど、わたしには向いてなかったみたい。怖い目にあうのはもうこりごり」
「ふうん、そっか」
ムーミン谷の外は治安の悪いところもあるし、冬の自然の猛威も恐ろしい。
スナフキンを尊敬するわ。そう言うとムーミンは途端に寂しそうにしっぽを垂らした。本当にこの子はスナフキンがだいすきなんだ。ムーミンのことを思うと心臓が痛くなる。
「スナフキンは強いから、大丈夫よ。また来年の春に帰ってきてくれるわ」
「そうだけど、やっぱり寂しいものは寂しいもの」
慰めるように背中をぽんぽんとさすった。
冬が来る、冬は苦手。不安になるから。落ち込むムーミンに無責任に大丈夫、と繰り返すことしか出来ない自分が嫌になった。

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