家のそばの畑からハーブを摘み取っていく。魚料理に欠かせないディル、レモンバームにレモングラス、これはハーブティーに。それからローズマリー、ペパーミント。ざるいっぱいにとったそれを、今度は乾燥させるべく適当な日陰に並べていたそのときだった。

「やあ、レディ」

知ってる声。振り向くと深緑のポンチョに山高帽に鷹の羽を差したあのひと。

「あらスナフキン久しぶり」

彼はまたいつもの曖昧な笑顔で後ろに立っていた。こちらも笑顔を返して向き直る。
狙っているのかいないのか、いいタイミングで来たなと思った。

「ちょうど仕事が終わったとこなの。ハーブティー飲んでいかない?」
「それじゃあいただこうかな」

そして近くに出していた簡易テーブルの上で蒸らしていた摘みたてのハーブで淹れたお茶をカップに注いだ。誰かしら遊びに来るだろうと思って多めにカップを用意しておいてよかった。
珍しく思惑通りに行ったので満足して人知れずほくそ笑みながら近くに転がっている丸太に腰掛ける。スナフキンも同じ丸太に腰かけてハーブティーを一口飲んでおいしいと言ってくれた。それならよかった。
それからスナフキンはポケットをごそごそとやるとそこから小さな麻袋を取り出して言う。

「レディ、面白いものあげるよ」
「なあに?」

スナフキンが面白いだなんて、なんなんだろう。小首を傾げながらそれを受け取った。なにか小さなものがたくさん入ってる感触が手のひらに。
ハーブティーのカップを置いてその袋を開いた。なにかの種子みたいなものがたくさん入っている。ひとつを取り出してまじまじと観察した。

「なんの種だろう」
「夏至の日の前日に撒くんだよ」

彼がいたずらっぽく笑う。ああ、さすがのわたしもわかった。むかし聞いたことがある。

「ニョロニョロのたね!」
「そうだよ、珍しいだろ」

ニョロニョロは、ちょっぴり苦手。正解を言い当てたものの苦笑いで持っていたたねを袋に戻して口をきっちりと縛った。なにかの弾みで孵化されたら怖いし。せっかく貰ったものの早くも持て余している。
それでもスナフキンにお礼を言いつつ、ティーカップの脇にその袋を恐る恐る置いた。そして少し冷めたハーブティーのカップを再び手にする。そのハーブティーの透き通った緑を見て、ふと思いついた。

「ところで、たねって食べられるかな。ミルクティーとかに入れたらおいしかったりして」

思った言葉が頭を通さずぽろりと口に出た。それを聞いたスナフキンは目をまん丸にさせて驚いた、それからいままで見たことがないくらいに笑いだしてしまったのだ。

「そんなこと言うひと、初めてだよ」

そんなに笑わなくていいじゃない。ちょっぴり恥ずかしくなって、丸太に小さく座り直すと恥ずかしさを押し流すように残りのハーブティーをごくんと飲み込んだ。

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