ここのところ、ずっと海に浮かべっぱなしだったボートをレディとムーミンは力を合わせて砂浜に引き上げた。さすがに重い。しかし休んでる暇はなかった。
よくよく冷やしたレディお手製のハーブウォーターをお互いひとくち飲むと、ヘラを手にして気合を入れる。
今日はついついサボっていた船底掃除をすると決めたのだ。しかしこの春は特に暖かだったからか、想像以上に牡蠣やフジツボが付着している船底を見てレディはみるみるとやる気を萎えさせた。しかしそれとは裏腹にムーミンは瞳をきらきらとさせながら船底にへらを立てる。

「ねえ、レディ。船の掃除を手伝ったら本当にぼくが船長になってもいいの?」
「うん、ちゃんとムーミン谷に戻ってこれるところだったらどこに行ってもいいよ」
「やった、ぼく頑張る」

そう、ふたりはそんな約束を交わしたのだ。
再度約束を確認すると、ムーミンは濁った海水が顔に飛ぶのも気にせずガリガリと一心不乱に船底を綺麗にし始めた。レディはそんなムーミンを微笑ましく思い、思わず笑いを漏らすと負けちゃいられないとばかりに自分も掃除を始めた。
しかしうんざりするような面倒な掃除のあいだも、ムーミンがまたあの灯台を見に行きたいだとか、新しい島を見つけて自分の名前をつけるだとか、そんな夢を嬉しそうにたくさん話してくれたおかげで気がつけばあっという間に掃除を終えてしまったのだった。

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