1日目の雨。今日は外に遊びに行けないので、家の大掃除をした。2日目の雨。たくさんのジャムやジュース、保存食を山ほど作っていつもより丁寧に書いたラベルを貼った瓶に入れて地下室にしまった。
3日目の雨、さすがにやることがなくなってしまったのでシンプルなワンピースといろとりどりの刺繍糸を持って出かけることにした。



「あらレディ、いらっしゃい」
スノークの家を訪ねるとフローレンが迎えてくれた。
連日の雨で退屈ね、なんて話しながら家に入る。今日は彼女の家で刺繍でもしながら甘酸っぱい話をしようと思ったのだ。
「おや、レディ。来てたのか」
「スノーク、こんにちは。研究はどう?」
「いまは船の改良をしてるんだ、まあ順調だよ。今度飛ぶ時はレディも一緒に行こうよ」
正直、高所恐怖症なのだ。しかしながら無下に断るのも嫌なのでとりあえずは微笑んで頷いた。
その真意を見抜いたのか否か、フローレンが早く始めましょうと私を急かして背中を押した。



「雨が上がったらお花畑に行って、みんなでダンスパーティーをしましょう」
「素敵、そのドレスぜひ着てね。きっととても綺麗だから」
フローレンはアンティークのパーティードレスの胸元に花の刺繍をいれていた。爽やかな色合いのドレス。きっとその花畑で作った花冠と合わせれば彼女によく似合うドレスになるだろうと思った。
かく言う私はワンピースに入れる図案を決めあぐぬて彼女から借りたデザインの本をぱらぱらとめくってはまた最初のページに戻っていた。
これは私服なので、シンプルで飽きのこないデザインがいいと思ってはいる。
「ミイはきっと1人で踊るから私はスニフと踊るわ」
「もう足を踏まずに踊れるかしら」
「うーん、いちおう木靴を履いていこうかな」
そういうとフローレンはふふっと笑った。
「じゃあスナフキンと踊ってみれば、きっと彼ダンスも上手いわ」
「どうかしら、女の子と踊ったことあるのかな」
決めた、小花と蔦を組み合わせたデザインにしよう。薄紙にその図案を鉛筆で写していく。
その作業に手一杯でフローレンの話は半分しか入ってこなかった。彼女には悪いがきっと刺繍の手が止まらない彼女も深く考えずに話してるに違いないと思った。これはたわいない話。
「でも楽器がうまいんだからリズム感覚はあるわね」
「それになんでとそつなくこなしちゃうもんねえ」
きっとすぐに感覚を掴んでステップを踏み出すだろう。図案を写し終えると、針を手に取り糸を選んだ。まずは緑色。彼の色。
私も彼も怯えている。このだいすきなムーミン谷にいられなくなる日のことを考えて。誰も私たちを追い出すわけではないのに。ここは優しくて温かすぎるのだ。
それにきっとここの人たちは去る私たちを惜しんでも引き止め押し留めることはしない。
時が過ぎなければいいと思った。誰も変わらなけれいい。いくら針を進めても彼女や私の刺繍が完成しなければ、この雨がやまなければ、スノークの飛行船が完成しなければ。
この谷にそぐわない人だと十分にわかっている。沈むわたしの手元を、窓から差し込んだ雨上がりの太陽光が照らした。

prev next

back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -