2年前のある日のことだ。家の前に見慣れない植物が生えていたので、ヘムレンさんを捕まえてきてこれはなにかと訊ねた。
連れてこられるまでは新種かもとうきうきしていたヘムレンさんだったが、その植物を見た途端につまらなさそうに踵を返した。

「それはぜんぜん珍しくもない木だよ」
「なんだ、残念。それで、なんていう植物なんですか?」
「育てて見ればわかるよ、はいこれ育て方」

ヘムレンさんは紙に育てかたや注意事項をびっちりと書き込んでわたしにくれた。なんだか頑張って成長している姿を見て引っこ抜くには忍びなかったところなので、ヘムレンさんの言う通り育ててみることにした。



5月になったある日、だいぶ成長したその木を見るときれいな花が咲いていた。しばらく鑑賞し楽しんだあと、花を切り落とす。葉っぱの成長の妨げになるそうだ。かわいそうだが仕方がない。
切り落としたピンクの花は押し花にしてみた。なんの花だろう。トマトの花に似ているような気がしたが、花を切っては実にならない。成長を続けるその木の前で首を傾げた。



「ねーえ、レディ。この葉っぱ傘にしていいでしょ?」
「ダメよ、ミイ。少ししかないんだから」

6月のまたある日。大きく育った葉っぱを切り取っているとミイがやってきて葉で遊び出した。50cmはゆうにあるその大きな葉はたしかにミイの傘にぴったりで微笑ましかったがそれは返してもらった。ついでにそれを乾燥させるため葉を並べるのを手伝ってもらう。

「ところで、葉っぱ乾燥させてどうなるの?」
「よくわかんないけど、ヘムレンさんがこうやるんだって言ってたからさ」

干物のように吊るされた葉っぱを前に、今度はミイと一緒に頭をひねった。



ミイと干した葉っぱが乾いたようなのでヘムレンさんの指示書の通りに少しの水分を加えて熱し、最後に葉脈と葉肉に分けていた。

「やあレディ、料理かい?味見してあげるよ」
「食べちゃダメよ、スニフ」

途中でスニフがやってきてしばらく作業を眺めていたが飽きてしまったようで戸棚のクッキーを漁りだした。

「手伝ってくれないのね」
「だってそんなぼろぼろの葉っぱじゃ食べ物にもお金にならなそうなんだもの」

確かにスニフの言う通りだ。本当にこれでいいのか、何回も読み直した指示書をまたまた読み直した。



それからその葉っぱを混ぜたり水分を加えたり乾燥させたりを繰り返し、1年寝かせて今日、取り出してみた。

「まえからレディが何かやってたやつだね」

ムーミンが完成したその葉っぱを覗き込んだ。

「そうなの、でもなにかよく分からなくて」

ただの水分を加えたり乾燥させたり刻んだりを繰り返したただのくたびれたぼろぼろの葉っぱにしか見えなかった。しかしだ、ムーミンはそれをみてあっと声を上げた。

「ぼくこれ知ってる!」



「いやー、レディありがとう。おいしいよ」

その刻み葉っぱは全てムーミンパパにあげた。おかげでパパは上機嫌。ミイは机の前に置かれた その葉っぱの山を見て呆れたように言った。

「あれはたばこの葉っぱだったのね」

そう、あの木はたばこの木だったのだ。ヘムレンさんの言う通りの工程を繰り返したその葉はパパのパイプに詰められてぷかぷかと白い煙を出している。
「わたしはこの2年なにをやらされていたのかしら」
パパが喜んでくれたのなら、まあ、いいのかなあ。たぶん。
なんだか釈然とせずにむくれて1日を過ごしたのだった。

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