いつもの日用品に加えて、何着分かの服を作るための布とカーテンにでもしようと決めた反物と交換してもまだ物々交換のためにと用意した魚の干物や野菜が余ってしまったので普段あまり飲まないウイスキーを貰ってみた。消費を焦らなくてもいいし味に飽きれば果実や氷砂糖をつければいい。
貰ってきた物を所定の場所に片付けながらそう考えた。そして件のウイスキーを床下に収めたが思い立って机の上に残す。
そしてそのままお夕飯を作ろうとキッチンへと向かった。



お夕飯で使ったお皿を洗って窓の外を見るととっぷりと日が暮れ空には星がまたたいていた。街灯のないムーミン谷はぽつんぽつんと近所の家の灯りがあるだけで闇に包まれている。
玄関脇にあるランタンを手に取ると中の蝋燭が十分にあることを確認してマッチで火を灯す。そしてそれを手に取ると先程残したウイスキーの瓶とナッツの缶を入れたバスケットを手に外に出た。もう春とはいえ森の奥には少し雪も残っている気温。少しひやりとする。ほんの少しの恐怖と冒険を前にしたわくわくを胸に、歩きなれた道へと1歩を踏み出した。



「スナフキン、いるかしら」
「レディかい、どうしたんだい、夜遅くに」
目的地はムーミン屋敷の傍のスナフキンのテントだった。焚き火のおかげでそこは少し明るかった。
「いいもの持ってきたのよ、ムーミンたちには内緒」
バスケットからそれを覗かせるとスナフキンは少し笑った。座る位置を少しずれて丸太の上にもうひとり座れるスペースを作ってくれる。
そこへそっと座るとバスケットから木のコップを取り出してスナフキンに渡してウイスキーの封を開けた。甘くスモーキーな木の香り。長く樽のなかで熟成された琥珀。
「いいものだね」
「うん」
彼に注いであげると、今度はスナフキンがウイスキーの瓶を持って私のコップに注いでくれた。
そして軽く乾杯しそれを少し舐めるように飲んだ。度数の高いそれですこし喉が焼けるような感覚がしたがとても美味しい。
ぱちぱちと火が爆ぜる音と言葉数は多くないがなんとなく上機嫌が伝わるスナフキンの横はとても落ち着いて、昔ムーミンが拾ってきた小さな龍が彼にとても懐いていたのを思い出しまた納得した。
「わざわざありがとう、レディ」
しばらくしその琥珀のお酒を飲み終わると、スナフキンはそう言ってコップを置いて立ち上がった。
「よろこんでくれてよかったわ」
「お礼にあげたいものがあるんだ、ちょっと待っててくれるかい」
その声に頷けば彼はテントに戻り、しばらくすると後ろ手にして帰ってきた。
「なあに?」
「なんだろうね」
少しいたずらっぽい声。珍しい。私の背後にスナフキンが立つ。
そのまま彼は私の首の周りに手を回すとふわりと嗅ぎたばこの香りがした。しかしそれもつかの間、すぐに匂いは遠のいてそこには首に巻かれた細いチェーンの感触が残るだけだ。
「この前の冬に南へ出かけたときに手に入れたんだ。もらってくれよ」
ネックレス。ペンダントトップに触れてみると台座に収まる小さな石の感触がした。
「よく見たいわ、外していい? 」
「家に帰って鏡で見てみるといい。お守りになるそうだからあまり外さない方がいいんじゃないかな」
振り向くと微笑むスナフキン。
「どうもありがとう、大事にする」
「こちらこそ。さあもう寝る時間だ、送っていくよ」
そう言った彼がランタンを手に取った。家から持ってきたものを簡単にバスケットに詰めて立ち上がる。
その姿を見たスナフキンは満足そうにやっぱり似合ってるよと言ってまた少し微笑んだ。

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