「スニフ追いかけなくていいの?」
「大丈夫だよ、たぶん」
さっさとガーネットの谷へ向かったスニフを追わずに先程の岩場でまったりしていた。しかしその時、スニフの悲鳴が轟いてくる。
「スニフだわ!」
ミイがそう言い、その声にわたし達は慌てて立ち上がりすぐそこにあるガーネットの谷へ走った。そして崖の縁で立ち止まると下を覗き込んだ。
谷底一面に輝く真紅のガーネット。その中でスニフが大トカゲに追われているのが見えた。
いやはや、それにしても綺麗な光景だ。
「まあ!綺麗なガーネット!」
「レディ、あんた結構太いわね」
別に、何度も谷底へ落とされそうになったことや宝石に振り回される現金なスニフに対してぜんぜん怒ってなどいない。ただ思ったことがつい口に出てしまっただけだ、一応心配している。
「スニフ!そんなものほっとけ!早く上がってこい!トカゲに食べられたいのか!」
そしてやさしいムーミンが叫んだ。するとスニフは当然駄々をこねる。
「ぼくは絶対に諦めない!」
「じゃあガーネットをこっちに投げるといい!それならあんたが食べられても諦めがつくわ」
あらあら。ミイの方がひどいわ、そういうと彼女はお互い様ねと笑った。
するとスニフが谷底近くで怒った顔をして言う。
「わかった!もう誰の助けもいらない!ぼく一人で持って上がるさ!」
そしてガーネットのつまったリュックを背負ってスニフが崖を這い上がり始めた。しかしリュックには大トカゲが噛み付いている。
大丈夫かな、とわたし達4人は文字通りの高みの見物をしていた。
どきどきする。その時だった。スニフがとうとう大トカゲを振り切って崖を駆け登り始めた。
「やったあ!」
思わずムーミン、ミイと一緒に歓喜の声をあげる。しかしよく見ると大トカゲに食いちぎられて破れたリュックの底から食べ物やロープが転がり落ちていた。
あーあ、とうとうガーネットすら転がり落ちる。ガーネットがひとつ、ふたつ、みっつ。最後に小さなガーネットすらも大トカゲの待つ谷底へと帰って行った。
「欲を出すとろくなことにならないってことさ」
「身をもって教えてくれたわね」
「わたしも気をつけよう、ねえムーミン」
「うん」
なにもかも失ったことに気づかず大喜びしているスニフを見つめながらわたし達は人生においてとても大切なことを学んでいた。
「元気出せよ、スニフ」
「トカゲに食べられなかっただけマシだと思いなさい」
「チョコレート一欠片あげるから元気出して」
「はあ・・・ガーネット・・・」
「チョコレートいらないの?」
「いる・・・」
肩を落として空のリュックを背負い歩くスニフに銀紙に包まれたチョコレートを一欠片折ってあげた。
虚ろな目で彼はそれを口に含む。
ダメだこりゃ、後ろを振り向いてムーミンたちと顔を見合わせた。
するとさすがのスナフキンも励まそうとしたのかスニフを諭す。
「なんでも持って帰ろうとすると、難しいものだよ。ぼくはどんなにいいものでも見るだけにしてるんだ。そして立ち去るとき、そいつを頭のなかにしまっておくのさ」
「ただ見るだけのと、手に持って自分のものだと思うのは全然違うのに・・・あぁガーネット・・・」
しかしこの男には全然響かない。スニフの傷は時間に癒してもらうことにして、わたし達はもうそれ以上ガーネットの話題を出すことなくただ足を進めた。
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