夕飯のおかずが決まらないと嘆いていれば彼は釣りすぎたからと言いながら釣りたての魚をたくさん持ってきたし、塀のペンキ塗りにほとほと疲れ果てていればいつのまにかそばに居て手伝うよとペンキ缶を手にしていた。
今日は行商から貰いすぎてしまった荷物にひいひい言いながら野を超え丘を越え一心に家へ向かう。誰かに手伝ってもらいたいのに、今日に限ってだれにもすれ違うことがなかった。
ほとほと困り果てながら3度目の休憩を挟むために荷物を置いて道のそばの手頃な岩に腰掛ける。
あと15分ほどであろうか。ふうとため息を着いた時だった。
「レディ」
天の助け。振り向くと分かっているという風な顔つきのスナフキンが立っていた。
手ぶらでひとりこんなところ、何をしていたのやら。
荷物を半分彼に持ってもらうとわたしはあとひと息と立ち上がった。
「いつもありがとう、スナフキン」
「いいんだよ」
そしてこの後、家に着けば彼は当然のように椅子に腰掛けお酒をねだるのだ。今回は少し上等なものに切り替えた新しいウイスキーの瓶と珍しいワインが帆布のトートバッグの中に入っている。
スナフキンは相変わらず仕事を手伝ってくれている間も、報酬をたしなんでいる時も、口数が少ない。それでもそれを飲んでいる時
に伝わってくる上機嫌な雰囲気が好きだった。
短い会話をぽつり、ぽつりとしながら歩くとあっという間に家だ。家に招き入れ、机の上にバッグを置くように促すと彼はそれを置く。夕飯は食べていくかしら。とりあえずお酒は飲んでいくだろう。準備をしようとバッグを開けた。
しかし彼は背を向け、それじゃあと帰ろうとしていた。
「スナフキン、もう帰るの?」
「あんまり頻繁に飲んでいたら君も迷惑じゃないか」
がつんと殴られたようだった。そもそも孤独を好む彼が私とウイスキーを楽しむわけがない。それでも上機嫌そうだったのはきっとこれが好きだったからだ。
「それじゃあ、瓶ごとあげるわ。いつもありがとう」
「いいよ、これはそれ目当てじゃない」
どういうこと、さっさと立ち去ろうとするスナフキンのポンチョの裾を引いた。
「いつも困っているときに助けてくれて、本当に感謝してるわ。それにあなたがここで飲んでいくことも迷惑じゃない。とても幸せな時間だった」
むしろわたしは、彼が来るのが楽しみで、いつも心のどこかで期待していた。
「本当かい?レディ」
「嘘なんてつかないわ」
だから、行かないで。心のどこかで思ったが口にはしなかった。
すると彼はうっすらと口角をあげてなんとなく定位置になっている窓際の安楽椅子に腰掛ける。
「それじゃあ貰おうか」
「準備するわ、お夕飯は食べていく?」
彼はゆっくりと頷いた。さっき心の中で思った行かないのでの言葉が聞こえてしまっていたのではないか僅かながらに心配になって少し恥ずかしくなり赤く染った顔を、バッグの中を漁るふりをして俯き誤魔化した。

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