レディ、レディ。名前を呼ぶ声に目を開けた。
ムーミンが私の顔を覗き込んでいる。そうだ、私たちはピクニックに出たのだ。
各自たくさんのお菓子やサンドイッチ、ジュースを持ち寄っていつも遊ぶところよりほんの少しだけ遠くに来た。
そしておいしいものをたくさん食べて、いろんな話をして、スナフキンのハーモニカをきいて、そんなうちに寝てしまったみたい。
「そろそろ帰らないと」
上半身を起こして辺りを寝惚け眼で見るとフローレンがミイを、スナフキンがスニフを起こそうとしていた。
「うーん、ありがとうムーミン」
「結構寝ちゃったね」
のびをひとつ。まだ少し眠い目を擦った。さてと片付けをしないと。ムーミンとふたりで草っ原に敷いていたシート代わりの布を畳んだ。その脇で目を覚ましたミイがスナフキンに代わってスニフを叩き起こしている。ムーミンは笑ってミイの応援に行った。
そんな様子を見つつふと思ったことを口に出た。
「探検とかもしたかったのに寝ちゃったねえ」
「また来ればいいよ」
独り言のつもりだったのに、スナフキンがそう言って食器を持ってきてくれた。ふたりでバスケットに詰める。
「家に飾る花も摘みたかったし、見たことない景色も探したかったし、それから」
「大丈夫、夏もまだ来ていないんだ。もし今年中にやれなくてもまた来年やればいい。きみもまだムーミン谷を離れる気はないんだろう」
その問に曖昧に微笑んだ。私は以前暮らしていた街が大好きだったが、ふと飛び出したくなりそのまま出てきてしまった。いつまたそうなるかもわからない。
前の街に帰りたいとは思わないがあそこに置いてきた景色や人、わずかなものと家に寂しさも覚えている。それほどの愛着があったにもかかわらずあの街を捨てた私はいつここの谷を置いて行くのかもわからない。それに、この旅人のスナフキンだって。旅に出た先でムーミン谷に変える理由をなくしてしまえばきっと彼はもう二度とここに帰ってくることはないのだろう。
以前服の上から彼に貰ったネックレスを握った。彼が遠い南の島で手に入れたという透明で7色に輝く石のついたネックレス。
これをどこでどう手に入れたのか聞いた事はなかった。旅の話を聞きたがるムーミンとは違って、わたしはあまりここを離れた時の話を聞きたくなかった。
「やっと起きたわ、スニフのやつ。ほんと困っちゃう」
そこへミイと叩かれた頭を擦りながらスニフが駆け寄ってくる。
「おまたせ、何の話をしていたの?」
そこへムーミンと残りのものをリュックに詰め終えたフローレンも寄ってきた。
「たいしたことじゃないのよ、フローレン。ただ明日はなにをしようか話していただけ」
そう言うと、みんなはあれこれとしたいことを口にした。かくれんぼ、おにごっこ、ターザンロープに宝探し。今度はこことは反対方向にピクニックに行ってもいい。
そうだ、もしわたしがムーミン谷を離れるときが来たらきっとそれは彼らの口から次にやりたいことが出てこなくなったときだ。きっと彼もそうだ。そう思うとほんの少し心が軽くなった気がした。

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