Dependant 2/2
※常に暗い




駄目だよ、もう絶対に。

左近は何度も何度もそう言った。言いながら腕にガーゼを貼ってくれた。こんなに易しく手当てしてれくれるならもう一回腕切ってやろうかなと思ったが、左近との約束を破るわけにはいかないのでやめておくことにする。

泣き終わった後、左近はまた茉優の腕を見て驚愕した。リビングにずるずると引っ張られ、丁寧に血の跡を拭かれて薬も塗ってガーゼを貼った。ありがとう、とお礼を言うと、俯きながら照れられる。かわいいなあ、とついいじめたくなってしまうのは仕方ないことだと思うのだ。
でも朝になったら左近がいつものようになっていたらどうしようと思ってしまう。朝になったら、睨まれて会話もろくにできず気まずくなってしまったら。それでも左近のことは見捨てられないけど。悲しいところだ。

二人ともしゃべらず、百均で買った時計の針の音がいやに響く。会話しなきゃと何か会話の種になりそうなものを探してみるがなにもない。微妙な空気が広がると、左近が口を開いた。

「メイク落としてきたら? 顔洗ってきたほうがさっぱりするよ」

そういえばそうだ、と慌てて立ち上がって頷く。洗面所に行きながら左近があんなに優しく喋ってくれることに感動した。本当にしがらみがなくなったんだ。
顔を洗って鏡を見ると泣きじゃくった証拠として瞼が腫れぼったくなっていた。まああんなに泣けばこうはなる…と無理やり納得した。前髪をなおして目を隠してみるが、うまくごまかせているだろうか。
リビングに顔を出すと左近が顔を見て笑ってきたので、うわ誤魔化せてないんだと俯く。だが左近は立ってこちらに向かい、頭を撫でてまた笑った。

「俺とおそろい。俺も瞼こすりすぎていてえし」

そう言われてみれば左近の目も少し赤い。でもきっとそう言ってくれたのは左近の優しさなので、その優しさがくすぐったく感じる。
ありがとう、と照れ臭いが口にすると左近が嬉しそうに手を握ってきたのでその手を見て、手も大きくなったなあと思った。小さい頃は握りつぶしてしまいそうなほど小さかったのに。そういえば背だって全然璃依瑠より大きくなっている。少し見上げなければならないくらいだ。肩だってがっしりしてるし。
昔は体が小さかったから一緒に寝ていたけど、中学に上がってからは一緒に寝るなんて一回もしたことがない。もう同じベッドに入ることはできないのだろうか。
時計を見ればもう12時を指している。もう寝てもいい時間だ。

「ねえ、左近」
「ん? どうした?」
「一緒に寝よ……」

本当に眠くなってきて、絞るような声が出た。だけど左近はあたふたし始めて、やっぱりもう一緒に寝れないのかと諦めたとき、左近が顔を真っ赤にしてこちらを見た。

「……いいの?」
「え、こちらこそいいの…?」
「う、ん。俺はもちろんいいんだけど」

恥ずかしそうに目線をきょろきょろとさせる左近に、ははあそうか、恥ずかしいのか。と気づいた。確かに一つ上の姉と寝るのは恥ずかしいことなのかもしれない。でも左近はいいって言ってくれたから大丈夫だろう。
茉優は左近の手を握り返して、微笑みながら部屋に向かった。




やはりシングルのベッドに二人で寝るのは少しきつい。足だって当たってるし、一定の距離なんて取れない。それでも茉優は左近と寝たかった。この暖かさを逃したくなかった。
左近のほうを見れば長いまつげが伏せられて、形のいい唇は閉じられている。常々思ってきたことだがやはり左近と茉優は顔が似ていない。造形自体がかなり違うのだ。けど茉優はそこまで気にしていなかった。
ふわふわの左近の頭を撫でれば、左近は目を開けて恥ずかしそうに見上げる。少し足を絡ませれば恥ずかしそうに身を捩る。可愛らしいその姿に思わず笑みをこぼせば、左近は口元を歪ませて拗ねる。
小さなころもこうやって拗ねてたっけ。かわいい、とこぼせば左近は小さく首を横に振った。
うとうととし始めて、でもこの時間をもっと大切にしたくて目を閉じるのを我慢していたら、左近が頬を撫ぜて「おやすみ」と言った。茉優もおやすみと返して、やっと目を閉じた。




朝目が覚めたとき、隣に温かいぬくもりがなかった。起き上がってみると左近の姿はなく、隣はもぬけの殻だったのだ。まあ、いつもすぐにいなくなってしまうし今日もそれかな、と納得した。少し寂しかったけど。
その日左近は帰ってこなくてせっかく仲良くなれたのにな、と悲しくなった。
だけど次の日も帰ってこなくて、その次の日もその次の日も。だんだんと悲しみが不安に変わっていき、左近が一週間も家を空けることなんてまずないことに気が付く。
左近に連絡しようにも連絡先を知らないし、いつも左近がどこに行くのかも知らない。自分が本当に役に立たなくて殺したくなった。町中探してみようと思ったけど、そんなことをされたら左近が嫌かもしれないと、そう踏みとどんでしまう。
不安が茉優の心をどんどん削っていって、どうしようもなくなる。ご飯だってもともと食べれないのにもっと食べれなくなり、学校にだって行けてない。学校に行っている間に左近が帰ってきたら、そしてまたいなくなったら、と思ってしまうからだ。
泣いても意味はないのに毎日涙が流れるし、動くこともできない。強いて風呂にはいれるぐらいだ。


その日もベッドの中でぐすぐすと泣いていたらチャイムが鳴った。左近だ!と思ったのだが左近がチャイムを鳴らすはずがない。鍵だって持っているし。じゃあ誰だ、と頭を働かせたら父さんの顔が思い浮かんだ。あの人だって鍵を持っているが、いやがらせでチャイムを鳴らしてからはいってくることもあり得る。
そう思うと体が震えあがって、動けなくなった。ろくに食べもせず、ろくに眠りもせず、ずっと左近のことばかりを考えていたのだからまともな思考が働くはずがない。
ガチャガチャ、とドアノブを乱暴に揺らす音がして震えが止まらなくなった。

「いないのか?」

かすかだがドア越しから聞いたことのある声がした。大好きで、だけど聞きたくない声。
毛布を離して、ベッドからゆっくり降りた。ゆっくり、ゆっくり、ドアに近づく。ドアの向こうにもしかしたらいるのかもしれない。会いたくなかった石田君が。
鍵を開けゆっくりドアを開けると、やはりそこには石田君がいた。太陽がまぶしくて顔をしかめればなぜか知らないけど謝られた。顔をちゃんと見ることが怖くて俯く。

「何もしない。もう…何もしないから、顔を上げてくれ」

静かな声がそんな言葉を言った。
信用してないわけじゃない。信用できないのは茉優だ。なのに石田くんは自分を責めるような口調で喋る。それがまた苦しい。
茉優は顔を上げることができなかった。首を横に振って、震える手を誤魔化すように握る。違う、って、石田君が悪いんじゃない、って言いたいのに声がうまく出ない。

「島、………、今日は様子を見に来ただけだ。もう帰るから…。ちゃんと食べて寝るんだぞ、私が言えた義理ではないが。…これ、プリントを」

鞄から出されたプリントも受け取ることができず、石田君が言った言葉になんでかショックを受け、もうどうしようもない。今すぐに後ろに駆け出して家に閉じこもってしまいたい。左近もいない、石田君にも見捨てられそうだ。どうやって生きていったらいいんだろう。
じわじわと涙が出てきて、頬を伝うことなく地面に落ちた。地面にしみこむ涙を見てまた泣いてしまったと悔しくなる。
大きく息を吐いて、息を吸うことしかできず止まることなく流れる涙も何の意味もなさない。せめて、誤解を解かなければ。それしかできそうにない。

「ご、ごめんね、……、ごめんなさい、ちがうから…」
「島、おい、…茉優。触れてもいいか」

驚きより戸惑いのほうが大きくて、はじけるように顔を上げた。茉優の心の痛みを分けたかのように苦しそうな顔でこちらを見ている石田君に、今度こそ驚いて首を傾げる。あなたが苦しそうな顔をする必要はないのに、と思った。優しい人間は卑しい人間の苦しい心までわかってしまうのだろうか。
ただ茫然と石田君を見上げていると、ゆっくりと手が伸びてきて肩を掴まれた。そのまま頬を伝っている涙にも触れられ、頭を撫でられた。まるで貴重品を扱うみたいに優しくて、それにもまた戸惑う。なんでそんなに優しいんだろう。
手を両手で握られ、まっすぐ見つめられる。いい匂いがすぐそこでして、臭いであろう自分の体が恥ずかしくなった。

「私は、お前の味方だ。言いたくないのなら言わなくていい。だが言わなければ何も解決はしない。茉優、言ってくれ。解決させてやるから。頼む…」

一つ一つの言葉が進撃で、心にのしかかってくる。絶対に迷惑なのに何でこんなことを言えるのだろうか。けど、その優しさがうれしくて縋りたくなるのも事実。浅ましい自分でさえ、石田君の前なら大丈夫かもと思えてしまうのが怖い。

「さ、左近が、いなくなっちゃって、」
「左近が? 普段から家に帰ってこないのではないのか。」
「こんなに家を空けることはないよ、帰ってこないかもしれない、いなくなっちゃったから」

自分で言葉にするとまた涙がじわじわと溢れ出てきた。左近はいないのだ。その現実が石田君によって薄れていた。
石田君は難しい顔をして手を握りなおした。

「そうか…学校にも姿を見せていないな。情報も入ってきていないが…私も探してみる、だからそんなに気に病むな」

微笑みながら手を握り締めてくれる石田君にまた胸が高鳴る。どうしようもなく心臓がうるさくて、こんな状況だというのにときめいてる。
もうこうなってくると自分が怖い。

「ありがとう、石田君…」
「ああ、気にするな。私はもう帰るが…必要ならまだいるぞ」
「大丈夫。ごめんなさい、こんなとこまで来てくれて。」

涙を拭いて謝ると、石田君は首を横に振った。そして先ほどのプリントをもう一度出して渡してくれたので今度こそ受け取る。
もう一度ありがとう、と言うと石田君は手を離してまた首を横に振った。じゃあ、と石田君が呟いたので、笑って手を振ると顔を真っ赤にして出ていってしまった。今のどこに顔を赤くする必要があったんだろうと思うが、可愛かったのでよしとする。

プリントを握って、ドアを閉める。リビングのテーブルに受け取ったプリントを置いて、椅子に座った。はあ、とため息をついて疲労感に襲われないよう俯くのをやめ、プリントに目を通した。今まで休んできた分の連絡事項がプリントには記載されており、明日はしっかり学校に行かなきゃなと思った。左近のせいにして逃げてはいけない。

石田君がしっかりご飯を食べろと言っていたので、晩ごはんの準備をしようと立ち上がったその時、玄関が開いた音がした。
石田君、何か言い忘れたのかなと顔を上げたら、あの日のように廊下にふらふらと父さんが立っていた。体が硬直し、次の瞬間には震えている。また逃げられない、左近もいない、どうしよう。父さんはにやにやと笑ってこちらに近づいている。
腕をつかまれ、テーブルに押し倒された。ひんやりとしたテーブルが背中に張り付いたようでますます震え上がる。どうしたの? なんて、聞ける状態ではない。何しに来たのかわかっているのだから。
服の中を弄られ、胸を揉まれて気持ち悪い感覚に陥った。父さんの顔も見れなくて顔をそらす。抵抗しようものなら殴られるのだろう。娘の体を何だと思っているのだろうか。ひどい、もう嫌だ、死んでおけばよかった。
父さんも気づかず、茉優も気づかなかったのだが、また玄関が開く音がした。そして、部屋に入ってきた人物はずかずかと璃依瑠たちに歩み寄り、父さんの顔をぶん殴った。茉優は何が起きたのかわからず、閉じた目を開けると鼻血を出して倒れている父さんの胸ぐらを掴み玄関に引きずっている左近がいた。
そして玄関先から人間を殴る痛々しい音がする。ありえない音がしているのだが、見に行く勇気もない。玄関が開き、閉じた音がしてまた静かになったので二人は出ていってしまったのだろうかと思った。
服の乱れを直して、ゆっくりテーブルから降りる。
父さんを引きずっていた左近の顔が、あまりにも無表情で一瞬だけ怖いと思ってしまった。なんであんなに怒っているのだろうか。今追いかけなければまたいなくなってしまうかもしれない。だけど、立ち尽くしたままそこから動けなかった。
また玄関が開き、廊下から左近がぬらりと現れた。右手は血まみれで、また無表情でリビングに入ってきた。

「左近、……」
「親父は、階段から落としておいたから…安心して」
「な、死んじゃった、の?」
「知らないけど……まあいいよ、捕まるのは俺なんだし」

とんでもないことを言っている左近にまた恐怖を感じた。なんで自分のことをそんな風に無下に扱えるのだろう。こんなに左近のことを大事に思っている人間がいるというのに。
茉優はティッシュを取って、左近の右手を拭いた。優しく丁寧に、前左近が手当てしてくれた時のように。汚れたティッシュを捨てて、左近を見上げる。なんて声をかければいいんだろう。
もうやめて? もうどこにも行かないで? そんなことしちゃだめだよ? わからない。こんな駄目な姉から離れたくなるのも、当然と言えば当然なのかもしれない。
だが左近は茉優の手を握って微笑んだ。こんな状況でなんで笑えるの、と思ったが口には出せない。少し左近は言い淀んだあと、口を開いた。

「聞いてほしい話があるんだよね」
「うん…?」
「これ、見てみて」

尻ポケットから出された紙を押し付けられたので慌てて受け取る。何の紙かわからず首をひねった。だけど少し嫌な予感がして開けるのに躊躇ってしまう。何が書かれているんだろう。
左近を見上げると、はやく見てと急かされる。左近の態度からすると、悪いことではないのだろうか。そうだといいんだけど…。
茉優はその紙を開けて、中身を見た。中身は茉優の名前や家族の名前、住所などが書いてある戸籍謄本のようだった。なぜこれを、ともう一度見上げると左近は泣いていた。どうしたのと声をかけても、いいからはやく見てと言われる。この紙に目を通して左近を泣き止ませなきゃと戸籍謄本に目を落とした。
そこで、ありえないものを見つけてしまった。
違う父親の名前が書かれていたのだ。それはすなわち…、とそこでもう一枚紙が重なっていることに気が付いた。それも見ると、この紙は左近の戸籍謄本のようだ。慌てて親の名前の部分を見る。左近は、母親の名前が違っていた。そこから導き出される答えは一つだ。
だけどそれを理解してしまったらもう二度と左近の顔が見れない気がする。左近が泣いているのは、これがあるからだ。この事実が。茉優は体の芯が熱くなっていく感覚に気が付いた。そして涙が流れる。ぽたぽた、と涙が紙に垂れ滲んでいく。
何でこんなことになっているのだろう。左近が、弟ではない? 何を、いっているのだろうか。
茉優はふらふらと歩いて、紙を床に落とした。そのままキッチンに向かい、包丁を出した。前の傷もまだ癒えていないがもうどうでもいい。腕に包丁を押し当て切ろうとしたら、左近が駆け寄ってきて包丁を掴んだ。そしてそのまま奥に投げてしまった。

「なに、してんだよ」

感情が追い付かない茉優は涙を流しながら怒っている左近を見ることができなかった。
だって、今まで信じてきたものが、今まで縋ってきたものが、全て嘘だった。顔が似ていないというのは、そういうことだ。なんで気づかなかったんだろう。絶対に気づくヒントはそこらじゅうにあったはずだ。
茉優は吐き気がして、口を押さえた。そして、そのまま蹲る。もうだめだ、本当に生きていくことができない。誰も味方なんていない。茉優は一人だ。なんで、こんなことに。

「茉優」

先ほどもあの人に、石田君に呼ばれた名。左近に呼ばれたことなんてなかった。
返事をすることもできず、怯えていると左近が茉優を抱きしめた。覆いかぶさるように腕の中に抱かれて、その温かさが怖くて優しい。突き放せばいいのに、そしたら死ねるのにと思った。だが左近は優しく頭を撫でて背中をぽんぽんとたたいてくれる。泣きじゃくることもうまくできていないのに、なんで左近はこんなに…。

「ねえ、話、聞いてほしいって言ったっしょ?」

うん、と小さく頷くと左近はふふ、と笑った気がした。もう何と言われても平気だ。先ほどの事実より怖いものなんてない。
熱い胸板に重心を預けて、茉優は床に膝をついた。そしてゆるく左近を抱きしめ返す。左近の体が一瞬だけ震えて、顔を覗き込まれた。きっとひどい顔をしているのだから、見ないでほしいと目を逸らせば笑われた。そして、顔がどんどん近くなる。身を引いたが、左近が体を押し付けるように近づいてきて、唇を押し当てられた。
また頭の中が凍ったように動かなくなる。唇が離されたときに、また左近が微笑んでゆっくり口を開いた。茉優は呆然と左近を見つめる。

「俺さ、茉優のことが、大好きだよ」

そしてそのまま抱きしめられる。茉優は耳が壊れたのかと思った。何を言っているのかわからない。どういう意味かなんて聞かないでもわかる。だからこそ理解できない。何を言いたいの。言いたいことはいっぱいあった、だが口は開くことなく、また口づけをされる。
まるで、言ってはだめだと封をされたように。この気持ちも、封をしなければいけないのだろうか。







・・・







げえ、俺、それ嫌い…。抹茶美味しくないじゃん…、え?日本の風情?知らねーよ、そんなの。絶対モンブランのほうがおいしい、ああ、わかったわかった。そんなに怒らないでよ!
話していいの?ん、わかった。声でかくなってたら言ってね。自分じゃ気づかねーから。

親父がDVばっかしてたのは言ったよね?そう、そんで、母親がそれに耐えきれなくなって家から出て行ったんだ。俺が…小2、だったかな。そんくらいで、出ていっちゃって。親父と、姉ちゃんと、俺だけで過ごしてた。
姉ちゃんは必死に俺の面倒を見てくれたし、金は母親が送ってくれてたしそれには困らなかったんだけど、親父の暴力は全く終わらなかった。小さい時の俺は、なんで母さんはいっしょにつれていってくれなかったんだろう、そればっかり考えてた。学校では浮きまくるし、居場所なんて姉ちゃんのところしかなかったんだ。
俺が荒れ始めて今みたいになったのが…中学生の時。そのときから親父が家に戻らなくなって、俺のリミッターがぶっ壊れたんだよね。押し付けるものがなくなったから。気に食わない奴ぼこぼこにして、先輩に喧嘩売られても勝ったよ。そりゃ毎日殴られたり蹴られたり根性焼きとか、なんか色々...されてたわけだから、暴力には自信があった。
姉ちゃんはそんな俺をずっと心配してた。それが、悲しくて仕方なかったんだ。なんでこんなクズを心配するの?って…。見捨ててくれたほうが割り切れるのに。たぶん、俺はそのときから、姉ちゃんに恋してたんだと思う。ほかの女が好きだって寄ってきても、流れでやっても、何にも心は満たされない。一瞬たりともなかった。姉ちゃんとやったら満たされんのかな、とか思ってた。そんなこと、できっこなかったけど。
姉ちゃんと離れたいのに、離れたくなくて、俺は高校を追いかけた。俺、馬鹿じゃなかったから受験も簡単だったし。迷惑そうな顔…してたな、姉ちゃんは。それでいいんだ、って思いながら喧嘩ばっかしてた。その時にお前と会ったんだよね!いやあ、あの高校入っていいことなんてそれぐらいしかなかったよ、いやマジ。
あ、そんで。そのときにさ、石田って奴が現れたんだよね。姉ちゃんの隣を奪いやがって、いつも幸せそうだった。手出しちゃいけない、ってわかってたのに、どんどんイライラしちゃって、つい石田に手出しちゃったんだよ。
でも返り討ちされて。あんなにほっせーのに力はあんのな!あんときはマジ痛かった。初めて負けたのかなあ。「島に迷惑をかけるのならもう学校に来なくていい」って、捨て台詞まで、吐いていきやがって!許せなかった。殺してやろうと、思った。でも姉ちゃんの幸せそうな顔見るたび苦しくなって、できなかった。わかってたよ、俺なんかといるより石田の隣にいたほうが幸せなんだって。
姉ちゃんとの接し方がわからなくなって、つい暴言吐いたりとかしちゃったんだけど、やっぱり好きだった。泣きそうな、苦しそうな顔見るたび、支配欲…が満たされて、幸せだった。姉ちゃんは俺のこと見てんだなーって。

ああ、薄々は気づいてたよ。本当の姉弟じゃないって。だって、姉ちゃんは綺麗な黒髪なのに俺だけきたねえ茶髪だったり、姉ちゃんは母親に似て目尻が下がってんのに、俺はつりあがってたり。唇だって、姉ちゃんはあんなにおいしそうだろ? あ、関係ない?そう…。まあ気づいてたんだ。あんなごちゃごちゃした家庭だし、血がつながってないなんてこともなくはない。
だから確かめようと思った。え?なんで、って?いや、そりゃあ…血がつながってなかったら離れるかくっつくかしかないじゃん。どっちか選ばせようと思ったんだよ。
会いたくもねえ親父に会いに行って、戸籍謄本?だっけ。それも取りに行って。その日は夜中さあ、町ふらふらしてずっと泣いてたんだよね。ああーお前の家行きゃよかった!めっちゃ寒かったし。ほんとに姉弟じゃないんだって思うと涙止まらなくって。俺にもまだピュアな心がさ…。あ、続き?わかったよ…。
んで、クソ親父が何度も姉ちゃんのこと襲おうとするから、ぶん殴って階段から落とした。死んだかどうかは、知らない。悪運強いから生きてんじゃねーの。まあ、邪魔者もいなくなったわけだし、姉ちゃんにも本当のこと教えようか、ってあの紙見せたの。
そしたら姉ちゃんただ泣いて、包丁腕に刺そうとしてさ!慌てて止めたよね。そういえばあの人自傷癖があるんだよ…。まだ好きだとも言ってないのに、一緒にいられるかも決めてないのに、死なれたら困る。姉ちゃんが死んだら俺も死ぬけど。
落ち着かせたあと、好きだって言ったの。大好きだって。姉ちゃん、すんげーびっくりしてた。まん丸の目がこぼれちゃいそうなほど目かっ開いてさ、はは、そう、めっちゃかわいかった。
俺のこと嫌い?って、一緒にいたくない?って聞いたら、首は横に振るんだけどまだ茫然としてて。俺のこと好き?って聞いたら、姉ちゃん頷いたんだ。これってもう両想いってことじゃん!? だから、俺も大好きって言って、そのまま台所でやった。
「俺たち姉弟じゃないんだよ」って「だからこんなことしても大丈夫なんだよ」って言ってやるたびに、中締め付けてきてさあ、あんなに気持ちいーセックスはないね…、え、聞きたくない?まあそっか…。
そんで、そのあとにこれからのことを話したわけ。俺はもう高校行く気なかったし、このまま姉ちゃんと遠いとこに行きたかったんだけど、姉ちゃんが高校はちゃんと通いたいって言うからまだ石田の野郎といてえのかよって怒ったら、違うって言われたんだ。高卒とったら就職しやすいでしょ、って左近が高卒取らないならわたしがとるって、そういうことかって落ち着いたけど。
だから、姉ちゃんが高校卒業したら俺たち、どっか引っ越すんだあ。石田にも会わないようなとこ。お前には教えるからね、遊びに来てよ?お前に会えなくなるなんてつらいわー。俺の大親友だもん。

ね、勝家? え、会えなくても別に…? ひっでーなお前!左近ちゃんが離れちゃうんですよー!これ以上寂しいことなんてないっしょ! あ、声でかい。ごめん。

ま。こんな感じかな。うん、めでたくハッピーエンド。はあ、何年も我慢してきた甲斐があったわあ…。好きな人と結ばれるってこんなに嬉しいんだね? ほんっと幸せ。
でさ、勝家は? なんだっけ…魔王先輩の妹さんには由緒正しい許嫁がいるのに勝家君はその妹さんに恋しちゃったんだよね…? あはっ、かなりドロドロじゃん。ウケる。
笑い事じゃねえ?うわっ、そんな怒るなよ! 今度は勝家の番〜、俺聞くから…。




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(勝家君友情出演)

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