▼ ▲ ▼



執務室を出て、その足で演習場へ向かう。
三代目から上忍試験は一週間後に行うってことと、相手は当日発表すると言われたから、その一週間で私は実戦の勘を取り戻さなきゃならない。

たかが一週間。されど、一週間。
そのうちに、自分の力を出し切れるようにしないと。

綱手様直伝の桜花衝、そして私が元々得意としてる火遁忍術。この二つをうまく使いこなせれば、私は大切なものを全て守れるようになったって胸を張って言えるようになる。


無茶かもしれない。無謀かもしれない。でも、やらなきゃ何もはじまんない。
私は、こんな私を仲間だと言って笑ってくれるみんなを、私を育て上げてくれた師を、何が何でも守りたい。そのために必死の思いで修業をした、何度もくじけそうになった心を奮い立たせた。


あの日、カカシとした約束を守るために。



がむしゃらに修行をしてたら、気づけばてっぺんにあった太陽は傾き始めている。
今日はこの辺にしておこうか、とふーっと息を吐いて額に滲んだ汗を拭うと、ふと後ろに感じた気配。その方をそっと見ると、木陰から黄色い髪に青い瞳を持った男の子が、じっと私を見ていた。

見覚えのある見た目。なんだかミナト先生みたいだな、懐かしいなぁ、なんて思ってるとふとある存在を思い出す。

…そうか、あの子がナルトか。ミナト先生とクシナさんの息子の。…九尾の、人柱力。


「どうした?」


気付けば、自分でも驚くほど自然に声をかけていた。
だって、なんだか初めて会う気がしなくて。あの日生まれたあの子がもうこんなに大きくなってんだ。…それもそうか。

そんな風に年寄り染みた考えに苦笑していると、私の声にぴくりと肩を震わせたナルトが恐る恐る滲みよってくる。


「…姉ちゃん、忍なのか?」
「ん、まぁね」
「……俺のこと、なんとも思わねぇの…?」
「!」


ナルトのそんな言葉に思わず目を見開いた。
寂しそうな目。人を信じたくてたまらないけど、信じ切ることはできないそんな目だ。

…孤独なんだ、ナルトは。考えてみればそうかもしれない。
ナルトが生まれてすぐ、ミナト先生とクシナさんは、九尾からこの里を守って亡くなった。見たかっただろうな、ナルトが立派になってく姿を。誰よりも一番そばで、見守りたかったに違いない。

ミナト先生はきっと、里のみんなにナルトのことを“九尾から里を守った英雄”として見てもらいたかったんだろうけど、みんなはそうは見なかった。“うずまきナルト”っていうたったひとりの人間を、人柱力だからって“九尾の妖狐”としてしか見なくて、ナルトという存在を迫害していった。

里にそれが蔓延してしまったいつかの三代目の悲しそうな、悔しそうな顔が忘れられない。“自分は無力だ”と、そう言って唇をかむ姿が今も脳裏に焼き付いて離れない。そんな風に思い悩むほどナルトのことを想っている三代目は、里長としてナルトだけに目を向けるわけにはいかない。


だったら、私がナルトを支えなきゃ。
ミナト班の三人が私にしてくれたように。私がこの子に教えなきゃ。


「思うわけないじゃん。私はあんたのこと、好きだよ」
「!」


私はそう言って笑って、驚きに目を見開くナルトに近づいてぐしゃっと頭を撫でた。
寂しかったんだよね、お父さんもお母さんもいなくて、ずっとひとりで。家に帰っても誰もいない。“おかえり”と笑って迎えてくれる人も、“ただいま”と笑顔で伝えられる人も。私も家族を失ったからわかる。それは寂しくて悲しくて、とても、辛い。

ナルトの大きな瞳にみるみる涙が溜まっていく。その姿にギュッと胸が締め付けられて、思わず抱きしめていた。


「!」
「…辛かったんだよね、寂しかったんだよね」
「…」
「泣けばいいよ。思いっきり、気のすむまで泣けばいい」
「…っ」
「今までひとりで、よく頑張ったね」


ナルトの小さな手が、私の服をきゅっと握った。
今までずっと我慢してきたんだもんね。本当によく頑張った。でも、もう我慢しないでいいんだよ。思ってることを全部吐き出してもいいんだよ。

そんな私の気持ちが伝わったのか、ナルトはぽつぽつと言葉を紡ぐ。


「…里のみんな、俺のことをのけもんにすんだ。俺ってば、なんもしてねぇのに」
「うん」
「…大人たちは俺のこと見てひそひそ話すし。化け物だから、近づいちゃダメだって言うし」
「…うん」
「…なんで、なんで俺ってば父ちゃんも母ちゃんもいねぇんだって…なんで友達もできねぇんだって、」
「…うん」
「……ひとりぼっちは、もうやだってばよ」


私のお腹に顔を埋めて声を押し殺して泣くナルトの震える背中を、私は黙って優しく撫でた。
泣けばいい。好きなだけ、気のすむまで泣いていいんだよ。人ってのは泣いて強くなるんだから。

大丈夫。ナルトなら、誰よりも強くなれる。


「大丈夫、もうあんたはひとりじゃないよ。私がいる」
「…ねえ、ちゃんが…?」
「そ。私、ユウナっていうの。今日から私があんたの友達だよ、ナルト」
「! なんで、俺の名前…」
「ん?…あぁ、私ってば天才だから何でも知ってんの。すごいでしょ?」


真っ赤に腫らした目を丸くして私を見つめるナルトに冗談めかしてにっと笑うと、まだ溢れる涙をごしごしと拭ったナルトは太陽みたいに笑った。

そのあと「修行つけてくれってばよ!」とうるさいナルトに陽が暮れるまで付き合って、終わるころにはもうへなぁ、と地面に寝転がってゼーハー言うナルトに思い切り笑った。


「なっ、なに笑ってんだってばよ!俺ってばすっげー頑張ったじゃんよ!!」
「ま、頑張ってはいたかな?クナイも手裏剣もへたっぴだったけど」
「ムキーッ!!」


寝転がったままじたばたともがいて怒る姿にまた笑った。なんでこの子はこんなに明るいんだろう。まるでみんなを照らす太陽みたいだなあ。

そんな風に思ってひとしきり笑った後、ナルトは突然起き上がった。


「あのさ、あのさ!ユウナの姉ちゃん!」
「ん?」
「俺ってば夢があんだ!」
「夢?」
「そう!火影を越して、里のやつら全員に俺のこと認めさしてやんだ!それが俺の夢!」
「!」


そう言ってにかっ、と笑うナルトに落ちてきた夕日が重なって、なんだかとても神々しく輝いて見えた。
立派な夢じゃん。あんたなら絶対叶えられるよ、私が保証する。だれよりも辛い思いをしてきたあんたなら、人の痛みをわかるあんたなら。いつかみんなにわかってもらえる日が、必ず来るよ。


「そんでさ、それにひとつ追加!」
「ん?」
「ユウナの姉ちゃんは俺が守る!一生の約束だってばよ!」
「!」
「ユウナの姉ちゃんの友達だからな、俺ってば!」
「はは、ありがとう。約束ね」
「おうよ!」


そう言って笑いあって繋いだ小指は、なんだかとても、温かかった。




新しい出会い




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -