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「ユウナさん!!」


そんな声とともに拾い上げられ、上へと連れてこられた。
痛みに歪む視界をどうにか堪え私を運び上げた人を見る。


「…サクラちゃん、」
「すぐに治療します、そこに寝てください!」
「サクラちゃん」


創造再生があっても治りきらなかった傷からじわじわと血が出る。まだまだ本物には程遠いか、所詮ニセモノだもんなぁ。やっぱりまだ綱手様は遠いや。そんなことを思いながら、患部にかざし治そうとしてくれるサクラちゃんの手をぎゅっと掴む。


「!ユウナさん、」
「…私のことはいいから、それより綱手様は?」
「…」


言葉に詰まって苦しそうに俯くサクラちゃんの後ろに、ぐたりと横になった、先ほどとは違う師の姿があって。

やっぱり相当な無茶を…あなたはバカですか。
あなたがそんな姿になってしまったら里の人たちが不安になるじゃないですか。あなたは火影なんですよ、しっかりしてくださいこの馬鹿師匠。

心の中でならいくらでも悪態つけるのに、痛みに悲鳴を上げる体は半ば這いずるように近づいていってて。


「起きて、くださいよ…綱手様」
「…」
「私の、ことを殴ってくださいよ。さっきみたいに、馬鹿弟子って怒鳴ってください…」
「…」
「ユウナさん…」
「っお願いです綱手様!目を開けてください!」
「…」
「綱手様っ!!」


何度呼んでも起きない綱手様に、冷たくなった自来也様やカカシの姿が重なって。叫ぶように声を荒げ何度も何度も地面に叩きつけた拳からはじわじわと血がにじむ。

綱手様は、火影として里の人たちのために自分の命を賭す覚悟があった。だからこそ今、こうして昏睡状態になってる。

…なら、その弟子の…綱手様のことを誰よりもわかってる私が何もしないなんてそんなこと、できるわけないじゃん。

痛む身体を騙して起こして印を結んで、湿骨林にいるカツユ様を一部、口寄せする。
サクラちゃんは何をするんだと言いたげな顔で私を見てるけど、知らなければそう思って当然か。ま、見てなさい妹弟子。これでやっと、初めて姉弟子としての私を見せてあげられる。


「ユウナさん!帰ってこられたのですね!」
「はい、ご心配おかけしてすみませんでした。早速ですがカツユ様、今の里の人たちの負傷状況を教えて頂けますか?」
「それはもちろんですが…ユウナさん、あなたも相当の深傷を…」
「私のことはいいんです、百豪のチャクラを入れ直せばすぐ治ります。それより今は里の人たちをひとりでも多く助けることの方が先決です。カツユ様から見て重症だと思われる人から順に教えてください。それからチャクラの経由をお願いします」
「…わかりました」


胡座をかいて両手を合わせて目を閉じる。
残りのチャクラは全量のおおよそ半分、その全部を里の人たちの治療に回そう。
正直言えば、残りのチャクラ量からして全員を治療しきるのは難しい。さっきのペインとの戦闘で怒りのあまりチャクラを使いすぎたのがダメだった。

だけど、この里の長は私の師だ。その師が動けない今、弟子である私がその役目を担う時。
一度は裏切ってしまった私にできる、この里へのせめてもの恩返しの時だと思うから。

カツユ様を通して負傷者にチャクラが送られていくのがわかる。同時に体から力は徐々に抜けていって、どうにか気力で持ちこたえているところ。額に滲む汗も気にせずに遠隔治療に集中する。

ただでさえ緻密なチャクラコントロールが必要になる医療忍術の中でもこの術は特に神経を使う。直接自分の目で負傷者を見てるわけじゃないし怪我もどの程度かわからない。カツユ様を通して伝わってくる感覚と言葉だけで正確に診断し適切な治療をする。綱手様についた十年間の修行のうち、一番厳しかった修行がこれだ。


「!…サクラちゃん」
「ユウナさん、私にもやらせてください。私も綱手様の弟子で、そしてあなたの妹弟子ですから」
「…っ、ありがとう」


私の肩に手を添え笑いかけて隣に同じように胡座をかいたサクラちゃん。
三年前よりも逞しくなってて、ずいぶん綱手様にしごかれたように見える。そんな凛々しいサクラちゃんの横顔にふっ、と笑いかけて再び目を閉じた。

里の人たちは、師に変わって私たちが守る。
そう心に誓った途端、大きな咆哮が耳を貫いた。





ありがとうを二度告げる




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