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「綱手様っ!!」


這いずるように綱手様に近づいてそう叫ぶユウナさん。
満身創痍なはずなのに、もう意識を保つことも難しいはずなのに、そんなことを気にも留めず必死に声をかけるユウナさんの姿を見て、いかに綱手様のことが大切かがよくわかって。


“ユウナさんが自分を犠牲にしてでも守りたかったもの、それが木ノ葉と綱手様”


そう聞いたとき、全てが繋がった気がした。
ユウナさんは綱手様の一番弟子で私の姉弟子。綱手様から見ても自分の後継者にしてもいいと思えるほど優秀な医療忍者だそうだ。

綱手様が火影に就任するために木ノ葉に帰ってこられたときカカシ先生がユウナさんの里抜けを伝えると、綱手様は即座にカカシ先生の胸ぐらを掴んで声を荒げた。


『…ユウナが里抜けしただと?言っていい冗談と悪い冗談があるぞカカシ』
『…俺もそう思いたいですが、』
『そんなわけあるか!あいつがどれだけ木ノ葉のことが大切かお前なら知っているだろう!』
『…もちろんです』
『それなら何故そんなでたらめを言う!いくらお前でも承知せんぞ!!』


信じたくない、嘘だと言ってくれ。綱手様はそんな想いでいっぱいだったんだろうなと今なら思う。
ユウナさんは綱手様にとって初めての弟子。その分私やシズネ先輩よりも思い入れが強いんだろう。昔カカシ先生から聞いたユウナさんの話でも綱手様から聞いた修行中の話でも、お互いに想い合っているのが手に取るようにわかった。だからこそ綱手様は、我が子同然に可愛がっていた弟子が里抜けした大罪人になっているなんて信じたくなかったんだろうなって。

その後の綱手様の行動は早かった。
火影という立場をフルに利用して、カカシ先生やアスマ先生、紅先生にガイ先生などユウナさんと関わりの深かった人たちを通常任務の他に次々と捜索や情報収集の任務を作ってそれに就かせた。綱手様をはじめカカシ先生やその任務に就いていた人みんな口を揃えて、“ユウナが意味なく里を裏切るわけがない”と断言していた。

ユウナさんは木ノ葉のみんなに愛されていた。

私も短い時間だったけどユウナさんと一緒にいて、たしかに彼女の魅力は感じた。綺麗で格好良くて、それでいて温かさも優しさもある。こんなくノ一になりたいなぁって初めて会ったその日に思ったほどだった。

でもそのすぐ後、サスケくんが里を抜けた。
私は自分がとても無力に感じた。忍術も平凡、体術も平凡、少し得意なのは幻術とチャクラコントロールくらい。そんな私にも何か出来ることはないかって。無茶ばかりするナルトやサスケくんを助けられる力が何かあるんじゃないかって。

そう思った時に浮かんだのがユウナさんの顔だった。

ユウナさんのようなくノ一になりたい。だから私は、ユウナさんの後を追うように綱手様の弟子になった。

綱手様との修行は過酷を極めた。医療忍術の基礎中の基礎になるチャクラコントロールの修行に加え、綱手様直伝の桜花衝。手加減という言葉を知らない綱手様に何度心が折れそうになったかわからない。

それでも私がずっとあの方についていけたのは、ユウナさんの存在があったから。
カカシ先生やナルト、木ノ葉にいた多くの人が彼女の1日でも早い帰還を待ち望んでいたから。


“ユウナさんは必ず連れて帰る”


もちろん、私もみんなと同じ気持ちだった。
綱手様に自分の跡を継がせてもいいとそこまで言わせる存在のユウナさん。そんな偉大な姉弟子を、私も救いたかった。だからどんなに厳しい修行にも耐えられた。


「!…サクラちゃん」
「ユウナさん、私にもやらせてください。私も綱手様の弟子で、そしてあなたの妹弟子ですから」
「…っ、ありがとう」


ユウナさんのように心まで強いくノ一になれるかはわからない。
もしかしたら、そんなことは高望みしすぎているのかもしれない。
だけど、いつの日も私の目標はユウナさんだから。
自分を犠牲にして木ノ葉と綱手様を守ろうとした私の中の英雄を、少しでも助けたい。
そんなことを思いながら私も目を閉じて意識を集中する。

その瞬間、いつの日か聞いたような巨大な咆哮が耳を貫いた。





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