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「…オビト、リン。ユウナはもう大丈夫だよ」


あいつが去った後の慰霊碑に、そう声をかけた。


十年ぶりに木ノ葉に帰ってきたあいつは、綱手様の愛弟子ってだけあって元々強かった力が桁違いに強くなってて驚いたけど、それ以上に、にじみ出てたのが心の強さ。


俺がユウナを初めて見たのはアカデミーの入学式。
父さんと一緒に行ったアカデミーの校庭に、ひとりでぽつんといたのがユウナだった。父さんはユウナのご両親とお兄さんが亡くなったことを知っていて、その原因となった任務に一緒に出ていたらしい。家族の訃報を伝えに来た父さんに、幼いあいつは涙ひとつ流さず、「教えてくれてありがとうございます」と頭を下げたそうだ。

だから俺がそう思うのか、寂しそうに、周りの家族連れを羨むように見て、でもそれを必死に見せないように、見かけ平然と立つユウナを呆然と見る俺に、父さんは言った。


『いいか、カカシ。今あの子はひとりで孤独と戦っている。それはとても悲しくて、そして辛いことだ。だからあの子が本当の意味で独りにならないように、遠くからでもいいから、見守っていてあげなさい。そしていつか時が来たら、おまえがあの子を支えてあげるんだよ』


そんな父さんの言葉の意味がその時は分からなかったけど、あいつと同じように大切なものを失った今の俺ならわかる。

“ひとりがいいけど独りにはなりたくない”

俺も今、そう思うから。


だからと言って、入学してから俺がユウナに声をかけたのは、父さんの言葉があったからってだけじゃない。
ひとり教室の隅にいるあいつを見てたら目が離せなくて、なぜは放っておけなくて、あいつをひとりでいさせたくなくて。気づけば俺と同じように思っていたオビトとリンと一緒に声をかけていた。

最初は「私に関わらないで」って突っぱねられたけど、でもその目は「ありがとう」って言ってて。だからずっと、懲りずに声をかけ続けた。

“大丈夫、ユウナは独りじゃない”。そう伝えるために。


すこしずつ時間をかけて、ユウナの心をやっと溶かせたそんな時だった。


第三次忍界大戦で、俺はオビトとリンを失った。


オビトは左目を失って岩の下敷きになりそうになった俺を庇い、リンは、俺の手で殺した。
仲間を救えなかった、仲間を手にかけた。オビトが最期に命を懸けて教えてくれたことを、俺は守れなかった。

俺はただ廃れていった。闇に飲み込まれて行った。自分は無力だと打ちひしがれ、悲劇の主人公にでもなったつもりだった。

そんな俺を闇の連鎖から断ち切るように、救い出すように手を差し伸べてくれたのが、ユウナだった。


『カカシ、我慢しないで。泣いてもいいんだよ』


そう言って俺の背中を優しく叩くユウナの温かさに、優しさに、ずっと我慢していたものが溢れて止まらなくなった。
ユウナに縋りついて肩に顔を埋めて声を上げて泣いた。抑えようもないほどに泣いた。そんな情けない俺の背中を、ユウナは嫌な顔一つせず、ずっと摩り続けてくれた。

“俺は独りじゃない”

涙が溢れながら、そんな思いに胸がいっぱいになった。それと同時に気付いた。俺はユウナが好きなんだ、と。


それから数年後、ユウナが綱手様に弟子入りして、修行のために里を離れると言い出した。
俺はその時すでに暗部に入っていて会う機会なんてほとんどなかったけど、それでもやっぱり寂しかった。近くにいてほしかった。

そんな情けない俺をあいつは真っすぐに見て、「大切なものを守れるだけ強くなりたい」と、凛とした瞳で言った。頑固なユウナだから、今から俺が引き留めたところで行くのをやめないだろうと背中を押してやることにした。だけどやっぱり情けない俺は、俺と言う存在を忘れてほしくなくて、別れ際にこう言った。


『強くなって、そんで俺のところに帰ってきて』


その当時の俺の、精一杯の告白だった。
だけど悲しいことにちょっぴりバカなあいつは、俺の言葉に隠された意味に気付くことなく、「うん!」と満開の笑みと一緒に元気に返事をして走り去っていって、その背中を見ながら思わず笑っちゃったんだっけ。



あの日からもう十年。
約束通り俺のところに帰ってきたユウナは、昔よりも逞しく、そして綺麗になっていた。そんなあいつを見て、やっぱり好きだなぁ、なんて再認識したわけで。三十路間近のいい年した男が、思春期の少年みたいに好きだ、なんてこっぱずかしいけど思てしまうものは仕方ない、なんて思うわけだ。


「…俺もそろそろ、覚悟決めるか」


あいつに想いを伝えよう。
おまえが好きだ、と言葉にしよう。
ちょっぴりバカなあいつだから、きっと真っすぐ言葉にしないと伝わらないだろうしね。

そう決意して空を見上げれば、「がんばれ」ってオビトとリンに背中を押された気がして笑った。




思い出と決意




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