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「…久しぶりだね、みんな」


そう声をかけながら跪いて、道中に買った花を供えるのは、木ノ葉のために散っていった英雄の慰霊碑。ここには私の大切な人たちの名が刻まれている。

父さん、母さん、兄ちゃんに…それから、


「ずっと来られなくてごめんね…オビト、リン」


大切な、“友達”の名が。


うちはオビトと、のはらリン。二人はもうずいぶん前になる、第三次忍界大戦のときに殉職した。
アカデミーに入る直前に家族を一気に失った私は塞ぎ込んでいて、ひとりでいたいと思ってた。友達や仲間なんて自分には必要ないって、そう勝手に決めつけて、自分にとって大切なものができないように壁を作ってた。

だけど、それはちがうと、その壁を壊してくれたのがミナト班の三人だった。私なんてただの同期ってだけなのに、あの三人だけは、私がどんなに突っぱねても気にかけてくれた。


おまえはひとりじゃねぇ、って肩を叩いて励ましてくれたオビト。
わたしはユウナの友達だよ、って微笑みかけてくれたリンに、
同じような境遇だからわかる、って、心を支えてくれたカカシ。


ミナト班の三人がいたから、今の私がいる。そう断言できるほどにこの三人は私の中で大きな存在だ。
でも、私はオビトとリンを救えなくて、カカシにまた辛い思いをさせてしまった。だからもう、私の大切な人が悲しむのを見たくなくて、もう誰も失いたくなくて、失わせたくなくて、たとえすこしでも助けられるようにと綱手様に弟子入りした。

そしてこの十年間、綱手様の元で死に物狂いで修業した。


“大切なものを守りたい”。その、一心で。


「…ねぇオビト、リン。私、強くなれたかな」


大切な里を、大切な人を守れるように。もう誰も、何も失わないように。未来を生きていく子供たちに私のような思いをさせないように。
その願いがかなえられるほど、私は強くなれたのかな。

決して返ってくることのない答えを求めて、石碑に問いかける。
ふわりと吹く風に交じって揺れる木の葉に、みんなが“大丈夫だ”と微笑みかけてくれた気がして、思わず口元が緩んだ。


「おかえり、ユウナ」


里を出る前に聞いた声よりもずいぶんと低くなって、でもやる気のない感じはそのまま。少しの間会わなかっただけのように話しかけてくれるのは、今を生きる数少ない私の友達。


「…ただいま、カカシ」


いつの間にか私の隣にいたカカシに、そう言って笑った。
顔のほとんどを隠してるから相変わらず表情が読みにくいけど、それでも私の帰還を喜んでくれているように感じるのは思い上がりかな。


「十年ぶりだね、元気だった?」
「ま、そこそこね。相変わらず休みなく働かされてますよ」
「はは。優秀だからね、カカシは」
「たまには労ってほしいもんだよ本当」
「…ね、なんか雰囲気丸くなった?」
「そう?そんなつもりなんだけどな」
「なんかトゲがなくなったっていうか角が取れたっていうか…うん、なんか優しい雰囲気になった」
「…ま、あれからずいぶん経ったからね。落ち着いたのかも」
「…そうだね」


十年という月日は、人の醸し出す雰囲気をも変えてしまうらしい。
それもそうか。私だって十年前里を出たあの頃の私とは違うはずだし。良い意味でも悪い意味でも、人ってのは変わっていく生き物だから。


「そういうユウナはあれだね、女になったね」
「……は?私は元から女ですけど。なに、喧嘩売ってんの?」
「…え?あ、や、そういう意味じゃなくて…」
「じゃあどういう意味よ!」


失礼な物言いにちょっぴりムカついてカカシのこめかみをぐりぐりすれば、「痛いから!」なんて腕をぺしぺし叩かれた。何年経っても中身はかわってないわこいつ。

でも、こうやって何年経っても気を遣わず、素の自分でいられる存在ってのは本当に大きいもので。昔から何一つ変わらないこういう関係も、なんだかくすぐったくて、でも嬉しい。


「…力はバカみたいに強くなってるけど、中身は変わってなくて安心したよ」
「そっちこそね」


そんな憎まれ口を叩きながら、私の方を向いてにこっと微笑むカカシにまた変わらないな、なんてつられて笑った。



懐かしい顔




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