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アジトを出てすぐヨクを口寄せしてその背に飛び乗った。
木ノ葉へ向かう道中で事情を話すとヨクの体が強張るのがわかった。
「お前があんなとこで三年以上も耐えたのは全くの無意味だったってことかよ」
「ヨク…」
「…どこまでもバカにしやがってクソ」
悔しそうに怒りに満ちたようにそう呟くヨク。
あんたは優しいね。いつも私に寄り添ってくれる。私のことをただ真っ直ぐに想ってくれて、心配してくれる。それがまるで、カカシにそう言ってもらえてる気がして。
「ね、ヨク」
「あ?」
「ほんっとにありがとね」
「…んだよかしこまって気持ち悪ィ」
「飛ばすからしっかり掴まっとけ」
怒ってたのなんかどっかいって照れ隠しにそういうヨクにぎゅっと抱きついた。
* * *
「…なに、これ」
一日経って木ノ葉に着いた。
ヨクがいつも以上に飛ばしてくれたおかげで思ってたよりも早く着いてほっとしたのもつかの間。やっと帰ってこられたそこには、ずっと見たかったあのあったかい光景はどこにもなくて。
「…ここ、本当に木ノ葉?」
「…そうみたいだ」
そういうヨクの視線を辿ると、私が里を出た時よりもひとつ増えた顔岩がたしかにあった。
「……ペイン」
私の大切な故郷を、よくも。待ってろペイン。今に引っ張り出して捻り潰してやる。
拳を握り締め制止するヨクを振り切ってすっかり姿を変えてしまった里に降り立った。
「…許さない」
瓦礫でいっぱいになった里をひた走る。
私の心は柄にもなく復讐心で溢れかえってるだろうな。今ならサスケの気持ちが前よりもよくわかる。大切なものを壊される気持ちが。
「!」
ペインの姿を探しながら里を走っていると、アスマと換金所で会った大柄な男の子が何かにしがみついているのが見えた。アスマやっぱり無事だったんだ、よかった。足早にその方に近寄る。
「アスマ!!」
「!…ユウナ、」
「!!」
その近くで足を止めた瞬間に体が凍りついた。
無事でよかった、とかペインはどこだ、とか聞きたいことはいっぱいあった。でも言葉なんて出てこなかった。
「……カカ、シ…?」
目の前で、私の大切な人が目を閉じてたから。
「…どういう、こと?」
「…カカシ先生は僕を助けてくれたんだ、ペインが僕を後ろから襲おうとしたのを止めてくれたんだ、それで…それでカカシ先生は…っ」
「…」
泣きながらそういう男の子の声が途中から聞こえなくて。だんだん体から力が抜けていった。
すとん、とカカシのそばに膝をつく。アスマが苦しそうにこっちを見てるけど今はそれどころじゃない。溢れそうになる涙をそのままにカカシの体を揺する。
「カカシ、なにしてんの。ほら、帰ってきたよ。早く起きてよ」
「…」
「っ、目ぇ開けてよ。おかえりって言ってよ。お願いだから、カカシ…!」
「…」
「カカシ!!」
何度揺すっても何度名前を叫んでも返事がない。
やだ、そんなのやだよ。あんまりだよ。
「…ななみ、カカシは…」
「…す」
「…?」
「…絶対許さない。殺してやる」
「!!」
私の大切な人を、よくも。
捻り潰すだけじゃ収まらない。やっと、やっと帰ってきたのに。一番におかえりって言ってほしい人に、ただいまという私の声はもう届かない。それが悔しくて、悲しくて。そして間に合わなかった自分が、泣いてばかりの自分が…情けない。
ペインを早く見つけ出そうとふらりと立ち上がる。そんな私の肩が掴まれた。
「落ち着け、ユウナ」
「…離してアスマ」
「お前がそんな顔するなんてカカシは望んでねぇ、それは俺もだ。お前にそんな顔は似合わねぇよ」
「…ごめん、でも早くペインを見つけないとこれだけじゃすまないんだよ」
「…」
「カカシの命は絶対に無駄にしない。だってカカシは…私の大好きな人だから」
「!ユウナ、お前…」
「だからアスマ、」
「カカシを頼んだよ」
にっ、と笑って掴まれた肩をそっと離し上空に見えたヨクにまた飛び乗った。
カカシ。
守れなくてごめん。カカシの無念は、きっと晴らすから。
遠くに聞こえたアスマの声に、ごめんとありがとうを伝えた。
壊れるわたしガラス張り