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「…エロ仙人が五代目火影になってたら!綱手のばあちゃんにこんな無茶はさせなかった…絶対ぇ」


妙木山のフカサク様から、自来也が戦死したと伝えられた。

あいつほどの実力を持つ男がやられるとは、暁のリーダーは一体どんな力を持ってるんだ。そう思いながらもナルトにフカサク様から事を伝えていただくとそう言われ、まだ事実を受け入れきれないナルトはあたしを睨みつけた後出ていった。


ナルトの気持ちは痛いほどわかる。
あたしだってあいつをひとりで行かせたくなんてなかった。火影という立場でなければ共に行っていた。こういうときほどこんな立場でもつくづく無力だと痛感させられることはない。

何が三忍だ、何が火影だ。…情けない。


「…綱手ちゃん」
「…綱手様、」


気遣うようなフカサク様とシズネの声が聞こえる。

ゆっくりと目を向けると、やはり心配そうな顔がそこにはあって。私情を挟むわけにはいかないと頭ではわかっている。しかしそれでもやっぱり悔しいし、悲しい。


「!…あれは、」


そんな事を考えていると聞こえてきた驚いたようなカカシの声。
その視線の先を追うとそこには数年ぶりに見る愛弟子の口寄せ獣の姿があった。


「…ヨク、か?」


執務室に残っていた皆で屋上へ駆け上がると「久しぶりだな、綱手の姉さん」というヨク。その背中に見慣れた、しかしもう見ることはないと思っていた姿があって。


「…自来也…なのか?」


震えてしまった声でそう問えば、苦しそうに視線を下げたヨク。
それは言うまでもなく肯定を意味していて。しかしフカサク様からの話によれば自来也は雨隠れの海に沈んだはず。そう思えばヨクが重そうに口を開いた。


「…ユウナが、綱手の姉さんならどうにかなるかもしれねぇって俺を呼んだんだが、多分、たいつも…」
「…ユウナが、か」


まったく。つくづく優しいやつだよお前は。おおかた海の底に沈みかけた自来也を救い上げてくれて、あたしに別れをちゃんとしろとでも言いたいんだろう。
そんな事を思いながらヨクの背から冷たくなってしまったその体をゆっくりと下ろしその場に寝かせた。

硬直がすでに始まってしまっていて、肌は髪の色と同化するように真っ白で。それなのにこいつの顔ときたら安心したようにほっとしたように笑ってやがる。人の気も知らずに相変わらず呑気なやつだよ、お前は。

そっとその顔に手を触れる。
いつの間にか一緒にいたはずのカカシもサクラもシズネもヨクもフカサク様も、誰の姿もその場にはなくて。気づけば自来也とふたりきり。


「あたしの賭けは、外れるんだがな」
「…」
「…っ、だから無茶するなとあれほど…っ」


ずっと堪えていた熱い涙が頬を伝う。
言いたいことは山のようにあるのに不思議と言葉に詰まって出てこなくて。その分出るのは止めどない涙。


『わしらの役目は、次の世代のために手本となり手助けをすること。そのためなら笑って命を懸ける。それが年寄りの格好良さというものだろうのォ』


最後に会った時ににっ、と笑ってそういった自来也。
あたしはお前ほど強くはいられないらしい。こんな歳になるまで気づけなかったことが山ほどあるんだからな。


「…馬鹿野郎」


こいつを死なせてしまった悔しさからまだまだ涙は止まってくれない。
溢れてくる涙の裏で思い出されるのは幼い頃からのこいつの顔で。


下忍になって組んだフォーマンセルの班、それが自来也と大蛇丸だった。


『はじめましてだな。俺ァ自来也ってんだ。ラブレターは後でいいぜ!よろしく!』


初対面でそう言ってにっ、と笑って手を差し出したんだったな、お前は。

お調子者でバカの自来也と冷静というか淡白な大蛇丸、そして男か女かわからなかったあたし。猿飛先生には何度扱かれたかわからない。「まな板綱手」と言われるたびに殴り飛ばしていたがそれでも懲りずにあたしをからかい続けた自来也、それを苦笑いで見つめるふたり。そんな温かい班だった。

第三次忍界大戦のころから、あたしたちは“木ノ葉の三忍”と呼ばれるようになり、そしてあたしは大切な人をふたり失った。悲しみに明け暮れ自暴自棄になったそんな時に、ずっとそばにいてくれたのが自来也だった。
こいつがいたからあたしは前を向けた、ふたりの死を受け入れられた。でもこいつの前では強がってばかりで結局最後まで感謝を言うことはなかったが、こいつのことだからそんなことはお見通しだっただろう。


「…木ノ葉とナルトのことは任せろ」


だが、いつまでも泣いたままではいられない。
あたしは五代目火影だ。この里を守っていく義務と責任がある。その役目をあたしに託したお前に、そっちへいってから笑われたくはないからな。


「安らかに眠れ、自来也」


涙を拭ってその冷たい額に触れるだけのキスを落とした。

今はそっちで可愛い姉ちゃんのケツでも追っかけておけばいいさ。いずれあたしもそっちへいく。その時にまたお前のでれでれした顔を殴り飛ばしてやらなきゃならんからな。

それに、お前にはまだ伝えていないことがたくさんある。


「ユウナ、ありがとう」


最後に別れを言わせてくれた愛弟子を想い晴れ渡った空に向けてそう呟いた。相変わらずあたしの気持ちをわかってるよお前は。最高の弟子だ。

待っているから、早く、


「早く帰って来い」



遠くの弟子よ




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