▼ ▲ ▼
暁としての新たな任務は、リーダーのペインと小南とともに雨隠れに向かうことだった。
いつもなら億劫になってもいいところだけど、私の心はちょっとだけ晴れやかだった。
カカシに助けてと言ったことに後悔はしてない。あれはまぎれもない本心だった。3年間ひた隠しにしてきた気持ちをあぁもあっさりと口にさせたカカシにはやっぱり感謝してる。
もう少しで木ノ葉に帰れるかもしれない。そう思える今の私に一寸の迷いもない。
ただ少し気がかりなのは、サスケのことだった。
脅しとまではいかないまでも、サスケにはきちんと私の気持ちを伝えた。その上で彼がどんな道を選ぶのか、私の心にはその点で少しの不安が残ってる。
「ユウナ」
「…」
「もうすぐ自来也が来る」
「!」
物思いに耽る私の耳に、ペインから思いもよらない言葉が飛び込んできた。
自来也様がここに来る?なんで?
意味のわからないその言葉に私の眉間に皺が寄った。
「奴が俺の居場所を掴んだ。ここにいることもわかっている」
「…」
「情報収集のために来たんだろうが、奴とここで一戦交えることになるかもしれん」
そんな言葉の後ろで、からからと下駄の音が響く。その音を捉えたペインは隠れるようにその場を去った。
もう最後に聞いたのが三年以上も前になるその音が近づくたび私の心臓は早くなる。
「…久しぶりだのォ」
ひっそりと、でも隠れる様子もないその姿が私の目に飛び込んできた。
「ユウナ」
「…自来也、様」
真っ直ぐ射抜くように私に向けられる自来也様の視線。
いつになく真剣な眼差しを向ける自来也様から目を反らせなかった。
「綱手が心配しとったぞ。木ノ葉を出るなら文のひとつでも出さんかバカモンが」
「…」
「…だが、無事でよかった」
「…っ」
そう言ってきっ、と口角を上げる自来也様にあっという間に涙が溜まった。
なんてあったかいんだろうこの人は。この状況で私なんかを心配してくれるなんて。涙が流れないように必死で堪えていると、小南が自来也様に襲いかかった。
「…っと、しかし今は再会を懐かしむ時間もなさそうだのォ」
「…」
「キレも良くなっとるし、何よりいい女になったなァ、…小南」
「!」
少し嬉しそうな顔をして小南を見る自来也様。
なんか親しげな様子だけど、なんだろうこの感じは。
「ずいぶん会っとらん間にこんなことになっとるとはのォ。わしの教え子であるお前が」
「!!」
小南が、自来也様の教え子…?どういうこと?
「戯れ言はいい。あんたにはここで死んでもらう。それが神からの命令だ」
「神…のォ」
「ユウナ、お前は下がっていろ」
「…」
この二人の関係とか気になることは山ほどあるけど、小南と自来也様が本気でやりあえばこの場所もただではすまないのがわかったから大人しくその場を後にする。
すると背後で「ユウナ」と私を呼ぶ自来也様の声がして足を止めて振り返った。
「わしはお前を信じとる。お前は優しい子だ。綱手と同じでちょびっと頑固なところもあるがの」
「…自来也様、」
「…綱手を頼むぞ、ユウナ」
「っ!」
優しい顔でそう言う自来也様は、まるで何かを覚悟したように見えて全身を嫌な予感が駆け巡る。
やだ、そんなの絶対やだ。
やっと、やっと木ノ葉に帰れるのに。自来也様にもたくさん謝りたいのに。
激しい戦闘が始まった。
自来也様が小南を追い詰めると、途端に現れたペイン。苦戦を強いられる自来也様の姿を遠目からしか見ることができない自分が情けない。
ありがとう、自来也様。どうか、ご無事で。
そう思いながら身を隠した。
震える懐疑心