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「…痛っ」


トビ、もといマダラに放り投げられて打った腰を摩りながら辺りを見回す。
おそらくここはこの世の次元じゃない場所。マダラの時空間忍術の中なんだろうと想像する。

ああ。ついにカカシに言っちゃった。
こんなはずじゃなかったのになぁ。まさか知ってるとは思わなかった。墓場まで持って行くつもりだったのに。

そう自己嫌悪に浸っていると背後から呻き声が聞こえて振り向けばそこにはサスケが横たわっていた。
慌てて横に行って診ると、命に別状はない程度の外傷とチャクラ切れ寸前で眠っているだけのように見えた。生きているという安心からほっ、と肩をなでおろしてサスケにチャクラを流し込む。


「…にい、さん」
「!」


苦しげに眉を寄せてうわ言のようにイタチくんを呼ぶサスケに胸が締め付けられた。

少し時間が経ったことで、私もほんのちょっとだけ整理が出来た。
イタチくんは、やっぱり私が思った通り悪人なんかじゃなかったこと。ただ木ノ葉が、何よりサスケのことが大切。それだけだった。兄として、弟だけは何に代えてでも助けたかっただけだった。
たとえそれが、犯罪だと言われることだとしても。

いや、だからこそ苦しい枷を背負わせてしまったサスケの手にかかりたかったのかもしれない。それでサスケの気持ちが晴れるならって。彼は誰よりも何よりもサスケが大好きだから。

するとサスケの目がゆっくりと開いて、私に目だけを向ける。


「…ユウナ、か」
「うん、気がついてよかったよ」
「…ここは」
「たぶんマダラの時空間忍術の中だと思う」


顔をしかめながら起き上がろうとするサスケに慌てて手を貸す。


「こら。チャクラ切れ寸前なんだから無理しないの」
「…あいつは、本当にあのうちはマダラなのか」
「…わかんない。でもあれだけ名の通った忍だもん、あながち嘘とは言い切れないよ」
「気がついたか、サスケ」
「!」


突然目の前に音もなく現れたマダラに無意識に体が強張る。どうやら隣にいるサスケもそうらしい。そう固くなるな、とため息をつく。


「サスケ、瞳力の使いすぎだ。そんな戦い方をしていては命がいくつあっても足りんぞ」
「…」
「それから、ユウナ。お前が先ほどはたけカカシに言ったことは、ペインには黙っておいてやろう」
「!」
「お前ほど優秀な医療忍者をみすみす逃す手はあるまい。しかし二度目はないと思え」
「…」
「あと、サスケ。お前には暁に入ってもらう」
「!」


…え?今こいつ、なんて言った?私の聞き間違いだよね?
私のそんな頭の中に気づかない様子のマダラは続ける。


「イタチの遺志を継げるのはお前しかいない。そうは思わないか?サスケよ」
「…」
「まぁ、急ぐ話でもないからな。ゆっくり考えればいい。色よい返事を期待している。さて、サスケももう動けるなら戻るとしよう」
「!」


私とサスケの返事を聞く前にまた飛ばされて元の世界に戻された。
マダラはその後何を言うでもなくまた消えた。ぽつんと2人で取り残される。その場を嫌な沈黙が流れる。


「…サスケ」
「なんだ」
「……暁に、入るの?」


恐る恐るそう聞けば、サスケは考え込むように目を閉じた。
しばらくの間、再び沈黙に包まれる。でも急かしてはいけないとサスケが口を開くのを待った。
すると、ゆっくりと開いたサスケの目にはまだ迷いが残ってるように見えて。


「…わからん。だがあいつの言うことも一理ある」
「…どういうこと?」
「イタチの遺志を継げるのは俺しかいない、ということだ。だからといってあいつの言う通り暁に入るのか、それとも俺は俺の道を進むのか。今はまだ、はっきりとその答えは出せない」
「…そっか。まぁ、ゆっくり考えればいいよ」
「…そういうあんたは、これからどうするんだ」


サスケにそう問われて言葉を探す。でも、頭に浮かんでくるのはくっきりとしたその想いだけで。
自嘲気味に笑いながらふーっ、と息を吐いて雨の上がった空を見上げる。


「…本音、言ってもいい?」
「…あぁ」
「今すぐ木ノ葉に帰りたい」
「…」
「どんなに懲罰になってもいいから、みんなのそばにいたい」
「…」
「私にとって木ノ葉は大切な故郷だし、何があっても守りたい大切な場所なんだ。…だから、サスケ」
「…なんだ」
「木ノ葉に手ぇ出すっていうなら、私が黙ってないよ」
「!」


いつになく低い声で殺気を剥き出しにして睨みつけると、そんな私にサスケが小さく息を飲むのがわかった。

サスケの心が木ノ葉への復讐に傾いているのは薄々感じてた。
サスケの気持ちはわかる。兄を殺した木ノ葉に復讐したいと、私もサスケと同じ立場ならきっとそう思うから。でも、イタチくんはそんなことを望んでない。そのためにサスケを生かしたわけでも想い守り続けたわけでもきっとない。


「あんたがイタチくんの遺志を継ぐっていうなら、ちゃんと向き合わないとダメでしょ」
「…」
「イタチくんがどんな想いで一族を手にかけたのか、あんたを生かしたのか。なんのために無理矢理にでも命を長引かせてまであんたと戦ったのか。それがわかんないあんたじゃないんだから」
「…」
「ちゃんと逃げずに向き合って。迷って迷って、考えて考えて考え抜いて。その上で出る答えが、きっとイタチくんの遺志だと思う」
「…あぁ」
「私はあんたを信じてるよ、サスケ」
「!」


そう言ってにっ、と笑いかけてサスケの頭をくしゃっと撫でて背を向ける。

やっと整理がついて迷っているところだろう。
でも、あんたならきっと正しい答えを見つけられるはず。焦らなくてもいい。じっくり考えてイタチくんの遺志を継いであげて。


そう願いながらその場を後にした。





足掻け、少年




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