▼ ▲ ▼


俺たちがサスケの居場所に着いたときにはすでにサスケの姿はなかった。
なにか大きなものが暴れたような跡はあったが、そのほかに手がかりとなるものも一切残っていなかった。


「…クソっ。手がかりなしかよ」


悔しそうに拳を握るナルト。
お前はいつだって、サスケの事を想ってるもんな。ずっと独りだったナルトにやっとできた繋がり、それがサスケだ。こうなってしまうのも仕方ない。そっとナルトの肩に手を添える。


「サスケは、ここにはもういないよ」
「!」


突然背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはユウナがいた。
悔しそうに顔を歪めて立ち竦む姿に俺は疑念を抱いた。


「ユウナ、なんでここに…」
「…イタチくんは死んだ」
「!」


俺の声に被せるように俯くユウナがぼそりと呟いた。
その言葉にナルトははっ、とユウナを見る。


「なら、サスケは木ノ葉に帰ってくるんだよな!?」
「…帰らないよ」
「っなんでだってばよ!イタチがいねぇならもう…」
「そんな簡単な話じゃない」


そう言って顔を上げたユウナの瞳には大粒の涙が溜まっていた。
なんで、なんでそんな苦しそうな顔をするんだ。一体何が…。


「…サスケが木ノ葉に帰らない理由は、今はまだ話せない」
「どういうことだってばよ、ユウナの姉ちゃん!」
「私自身も整理がついてないし、サスケも同じだと思う」
「…何があったんだ?」
「…イタチくんを殺したのはサスケじゃない」
「!?」
「……木ノ葉の里だよ」


そう言ったユウナの頬を一筋の涙が伝った。

ああ、そうか。だからユウナがこんなにも苦しそうな顔をしているのか。
おそらく、イタチの里抜けには何かが隠されているんだろう。ユウナはその一部始終を聞いた。そしてイタチを殺したのは木ノ葉だとそう結論付いて、里を大切に想ってるユウナは苦しんでるんだ。


「ナルト、サクラちゃん」
「…」
「…サスケのことは、もう忘れて」
「っ!」
「なっ、なんでだってばよ!意味わかんねぇよ!」
「あの子は今、混乱の中にいる。復讐の対象が変わるかもしれない」
「…どういう、ことですか」


ずっと黙っていたサクラが重そうに口を開いた。
ユウナはサクラの方を見ると、また苦しそうに眉を寄せた。


「…サスケは、木ノ葉を潰しに行くかもしれない」
「「「!!」」」


重く呟かれたユウナの言葉に、皆驚きで言葉を失った。


「…今のサスケは、木ノ葉にいた頃のサスケじゃない。闇の中でもがいて、あがいて、苦しんでる。何を信じればいいのかもわからない、自分がどうあればいいのかもわからない。明るい未来も将来も何もない」
「…」
「そんなサスケを、あんたたちは本当に救えるっていうの」


ユウナは想いを図るような眼差しでナルトとサクラを見た。
2人は少し時間をおいて、でもきりりとした顔を向けてはっきりと言った。


「サスケは木ノ葉の…俺たちの大切な仲間だ、友達だ。絶対にどんなことしても、引き摺ってでも連れて帰るってばよ」
「私たちだって軽い気持ちでこうしているわけじゃありません。いつだって覚悟は出来てます」
「…そう、」


二人の言葉を聞いたユウナはふっ、と息を吐き、少し嬉しそうな顔をした。
その顔が優しくてあったかくて、俺はやっぱりユウナが好きだと思った。そして、連れ戻す絶好のチャンスが今この瞬間だとそう思った。


「ユウナ」
「…」
「一緒に帰ろう、木ノ葉に」
「…帰れない」


前と同じ返答。思った通りだ。


「それは、木ノ葉が潰されるからか?綱手様が殺されるからか?」
「!?」


俺がそう言うと、ユウナは驚いた顔をして俺を見た。
俺がその事を知っているのが予想外だったんだろう。


「お前が木ノ葉に帰って来られない理由は知ってるよ。自来也様の情報でな」
「…」
「それから、このことは綱手様も知ってる」
「!」
「…悔しそうにされてたよ。お前に重荷を背負わせてしまったってな」
「…っ」
「ユウナ。お前はどんな想いでアスマを助けたんだ。木ノ葉が、仲間が大切だからじゃないのか」


俺がそう言うと、ユウナはがたがたと震えだした。
途端、崩れ落ちるように膝を地面について自分自身を抱き締めた。


「大切だから、守りたいから!だから私は木ノ葉に帰れないんだよ!!」
「…ユウナ、」
「私が木ノ葉に戻ったら綱手様は殺される、木ノ葉は潰される!だから私が耐えるしかないんだよ!それでも、やっぱりアスマが…仲間が目の前で死ぬのをただ見てるなんて出来なかった…っ!」


涙をぽろぽろと零しながら叫ぶように言うユウナ。
ナルトもサクラも苦しそうな表情でその姿を見ていた。


「私が耐えれば木ノ葉も綱手様も無事でいられる!私が暁にいれば大切なものを守れる!もう誰も失いたくなかったから、誰にも私みたいな想いをしてほしくなかったから!!」
「…やっと言ったな」
「!」


俺がそう言うと、ユウナは弾かれたように涙でぐちゃぐちゃの顔で俺を見た。


「お前がそう思ってることはわかってたよ。何年お前のこと見てたと思ってんの」
「…カカ、シ…」
「ユウナ。お前の言葉で言ってくれ。助けてって、連れて帰ってって」
「…っ」


俺の言葉を聞いたユウナはふるふると首を横に振った。相変わらず頑固だな。…ま、そんなとこもユウナらしいけど。
と、ユウナの本音を聞いた俺の心には微かな余裕が生まれた。

その時だった。


「べらべらと喋りすぎだ、ユウナ」
「!」


ユウナの隣に音もなく現れたのは、先ほどまで対峙していた暁の面の男。


「トビ、サスケは!?」
「安心しろ。今は休ませている」
「おいてめぇ!サスケをどこにやった!!」


ユウナの言葉に男が返すとナルトが男に噛み付いた。
すると男はひとつため息をついて面越しにナルトを見据えた。


「うずまきナルト…九尾の人柱力だな。お前もいずれ俺たちの元へ来ることになる。そう遠くはない話だろう」
「俺が聞いてんのはそんなことじゃねぇ!サスケはどこだって聞いてんだってばよ!!」
「そんなことよりユウナ、サスケの治療をしろ」
「…っ」
「! 待て!!」


男の小脇に抱えられるユウナは縋るような視線を俺に向けた。
その瞬間男に向かって飛びかかったが、一歩遅く伸ばした手は空を切った。

だが、俺の心は少しばかり晴れやかだった。
面の男と消える瞬間、ユウナの小さな声がはっきりと俺たちの耳に届いたから。



──カカシ、助けて



頑固なあいつが、やっと本心を口にした。
ひどく長い間苦しんだだろう、辛かっただろう。3年もの間誰にもこのことを話さずひとり胸の内に抱えていたユウナを思うと胸が張り裂けそうに痛かった。


「…カカシ先生」
「…なんだ、ナルト」
「ユウナの姉ちゃんは、俺の友達でもあるし姉ちゃんでもあるんだ」
「…あぁ」
「サスケのことも兄弟みたいに思ってるし、俺は二人とも助けたい。…それってば、我が儘かな」


そう言ってユウナの消えた跡を見つめるナルト。
すっかり逞しくなったその背中に、これからの明るい未来を見せられた気がした。


「…そんなことないさ」
「…」
「ユウナもサスケも、二人とも必ず助けよう。そしたらまたみんなで、ユウナの飯食おうよ」
「…おっす!」


そう言って笑いかけると負けじとにっ、と笑ったナルト。
続いて見たサクラも、安心したように笑っている。


俺は諦めないから。
いつか、またいつかきっと。
みんなで笑いあえるその日が来るまで。



やっと聞けたよ




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -