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「イタチくん!!」


大きな雷が落ちたうちはの跡地。
雨が降り出す中、倒れるイタチくんに呆然とするサスケがいた。

助けられるか、彼をまだ救えるのか。そう思いながら倒れたイタチくんの横に跪いて心臓に耳を当てると微かに鼓動がする。

これならまだ間に合う。
心臓めがけてチャクラを流しながら必死で声をかける。


「イタチくん!死んじゃダメだよ!あんたは死んでいい人じゃない!!」
「…」
「サスケに言いたいことがまだあるんでしょ!言ってないことがあるんでしょ!」
「…」
「お願いだから!目を開けて…!」


必死でイタチくんにチャクラを流す私をサスケの手が止めた。


「…もういい」
「なんでよ!あんたはイタチくんのことを誤解してる!このまま会えなくなっていいわけないでしょ!?」
「……もう、やめてくれ」
「!」


私をぎゅっと掴むサスケの手は震えていた。
呆然とサスケを見ると、彼は力なくへたり込む。


「…イタチが、最期に笑った」
「!」
「“許せ、サスケ。これで最後だ”と」
「…」
「…ユウナ、あんたはイタチの何を知ってる」
「!」


そう言って私を睨むサスケに息を飲んだ。
最後に会った時より確かに復讐の色が濃くなってるけど、今はそれが不安に揺れてる。それもそうだろう。サスケが混乱と憎しみを抱えて生きていくことになったのも、その結果イタチくんと戦わなければならなくなったことも本当なら起こりえなかったこと。

私は、覚悟を決めてサスケを見た。


「…イタチくんの体は、病に侵されてた」
「!」


驚愕に目を見開くサスケから目をそらした。
イタチくんの病気は、私が暁に入ったころにはすでに手の施しようがないぐらいに進行していた。きっと薬がなかったら耐えられていないほどの痛みを伴うものだったはず。普通の人ならもう、楽になりたいと思うほどの。

だけどイタチくんは生きることを望んだ。頼みがあるとそう言われて聞かされた話がこの病気のことだった。その当時の私にはわからなかったけど、さっきのイタチくんの話を聞いて今までわからなかったことが繋がったような気がした。イタチくんが生きることを望んだ理由。それは、

自分を憎み殺そうとしている、サスケの手にかかるため。


「私が暁に入ったときに、イタチくんに言われたことがあるの」
「…」
「”サスケは元気にやってるか”」
「!」
「自分はあいつに辛い思いばかりさせてきたダメな兄貴だ、だけどあいつには本当の意味で幸せになってほしい…って」
「…っ」


そう言いながら、冷たくなり始めたイタチくんの頭をなでる。
誰よりも弟思いで、強くて優しい人だった。そして今まで誰よりも苦しい思いも辛い思いもしてきただろう。それでも彼は、真っすぐに弟を想い続けた。

”唯一無二のたったひとりの大切な弟”そう言ったイタチくんの儚い横顔が今も脳裏に張り付いて離れない。


「イタチくんは誰よりもあんたを想ってた。自分を憎むことでサスケが強くなれるならそれでいいって。途中でそのやり方が間違ってるって気づいたみたいだけどね」
「…」
「…それから、あの事件の真相を聞いた」
「!?」


サスケに、あの事件の本当のことを話そうと思った。イタチくんは心のうちに秘めろとそう言ったけど、でも今サスケにこのことを私が話すことが、彼が最期に私に会いにきた理由だと思ったから。


「…私もついさっき聞いたばっかりだから整理はついてないけど、それでも聞く?」


真っ直ぐサスケを見つめてそう問うと、彼がふーっと息を吐いて小さく頷いたのを見て自分自身でも整理しながら話した。


私が話し終わると、サスケは軽いパニックを起こしていた。
それもそうだろう。ずっと一族を殺した復讐の対象として追い続けて来た兄が、実は全く逆で心と体を苦しめながらも尚里を、自分を守っていた。

“サスケには、うちは一族であることを誇りに思ってほしかった”
そう言ったイタチくんの言葉には一片の嘘もないことなんてバカな私でもすぐにわかった。イタチくんはただサスケのことが大切で。自分が犯罪者として生きることになってでも守りたかったもの、それがサスケ。

だからこそ、イタチくんの最期の言葉を聞いた私からサスケに伝えなきゃならないことがある。

ふーっと息を吐いて立ち上がった。
雨はまだ、収まらない。


「サスケ」
「…」
「イタチくんがあの事件であんたを殺せなかったのは、あんたの命が里よりも重かったから。大切だったからだよ。だからあんたは間違ったことをしちゃいけない。もう復讐なんてする意味も必要もないでしょ」
「…」
「イタチくんにとってサスケ、あんたはたったひとりの大切な弟なんだよ。あんたにとってのイタチくんはどうなの?」


私がそう問いかけるとサスケは俯きながら声を震わせながら噛み締めるように、こう言葉を紡いだ。


「…大切な、兄貴だった」


そう言ったサスケの頬を伝うものは決して雨ではないだろう。
苦しそうにがたがたと震えるサスケを優しく抱きしめた。

イタチくんと戦って、彼のいう“復讐”は今日幕を閉じた。
そうすれば、もう彼がここにいる理由はない。


「…サスケ、あんたは木ノ葉に帰りな」
「!」
「あんたには大切な仲間がいるじゃん。里抜けしたあんたを、それでも信じて迎えに来てくれる仲間が。今ならまだ間に合う」
「…あんたこそ」


いるよ。こんな私を追いかけてくるほどバカで、大切な仲間が。
だけど私は帰れない。私のこの命には、何人もの数え切れないほどの大切なものの命が乗っかってるから。


「…私のことはいいの。サスケ、あんたはまだ人生をやり直せる。でも間違っても木ノ葉を恨んじゃダメだよ」
「…頭ではわかってる。だが、心がそれを許さない」
「サスケ…」
「…イタチが里を、俺を大切に想ってくれていたのと同じように、俺もイタチが大切だった。あんたの話では木ノ葉の命でイタチは一族を、両親を殺して里を抜けたんだろ。なら、なんでイタチがそれを全部背負わなきゃならなかったんだ」


最もだ。サスケの言ってることは正しい。もし私がサスケの立場でも同じことを思うだろう。
でも、サスケがそんな風に思うことをイタチくんはきっと望んでない。サスケにも自分と同じように里のことを想っててほしいと思ってるはずだ。だからこそ、表向きは大罪人である自分を殺すことでサスケが木ノ葉に帰りやすいように、そう思ったんだろう。
そのことをどう伝えようか迷っているとサスケはふらりと立ち上がった。


「俺は木ノ葉には戻らない」
「…」
「あんな平和ボケした生温い里の奴らとよろしくやるつもりはない」
「……そっか、」
「!」


私がそう言うと、サスケは驚いたような顔でこちらを見た。
私が叱り飛ばすとでも思ってたんだろう。そんなこと言うなと。でも、イタチくんの話とサスケの気持ちを聞いて、私に止める権利なんてないと思った。

ちらりとサスケを見た後、降り続ける雨空を見上げる。


「無理に帰れとは言わないよ。私もあんたと同じ抜け忍だし」
「…」
「ただサスケ、これだけは覚えてて」
「…」
「あんたは独りじゃない」
「!」


そう言って笑うと、サスケは目を瞬いた。


「あんたのことが心配で心配でたまんないのはイタチくんだけじゃない。私もそうだし、きっとナルトやサクラちゃん、…カカシも、そうだと思う」


するとサスケは苦しそうに眉を寄せて俯いた。

いっぱいいっぱいなんだよね、今サスケは。いろんなことを一気に聞かされて整理すらする時間もない。しょうがないよね。
でも、いつか。いつかきっとわかる日がくるよ。

そう思っていると突然空間の歪みと一緒に現れた、トビ。
暁の新入りがこんなところに何の用だと思ってると、どうもいつもと様子が違う。


「うちはサスケだな。イタチによく似ている」
「…あんたは」
「俺は、」


その次に聞いた名前に私は目を見開いた。
この世には存在しないはずの、大きすぎるその名前に体が震えた。



「うちはマダラだ」




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