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「ユウナさん」


アスマとの再会から少し経った。
あれから飛段と角都は木ノ葉によって始末された。どうやらシカマルたちがやってくれたらしい。いい弟子を持って幸せだね、アスマ。

アジトでぼーっと考えことをする。
アスマは無事だっただろうか。綱手様がいるなら大丈夫だろうけど。紅にも会いたいなぁ。元気でやってるかな。


迷いなど吹っ切れたように、今はただ木ノ葉にいる仲間達のことを想う。


カカシは、どう思ったのかな。みんなを裏切って里抜けした私がアスマを助けたなんて。驚いたかな。まぁ、普通はそう感じて当然だ。
だけど、あそこでアスマを見殺しにできるほど私は冷たくはなれなかったらしい。どんな形であれ大切な仲間が息絶えるところなんて見たくない。誰も死なせないために、誰にも大切な人を失わせないために医療忍者になったんだ。もしあそこであのまま去っていたら、それでアスマがいなくなったとしたら、私は一生後悔していただろう。苦しいだろうに、私に紅とうまくいったと言ったアスマの幸せそうな顔を見て、助けてよかったと心の底から思った。

そんなことを考えていると後ろから不意にかかった声。
振り返るとそこにはイタチくんがいた。


「どうしたの。最近あまり来なかったのに」
「…ちょっと、いいですか」


いつもと違うイタチくんの表情に黙って頷くと、おずおずと私の部屋に入ってきた。
ベッドに腰掛け、深く息を吐いたイタチくんに黙って視線を向ける。


「…ユウナさんはご存知ないと思うんですが、弟が…サスケが、三年前に木ノ葉の里を抜けました」
「!?」


イタチくんの突然の言葉に目を見開いた。

サスケが…里を抜けた?
その瞬間、私が里を抜ける前にカカシが言っていたことがフラッシュバックしてきた。


『最近、サスケの様子がおかしいんだ』
『どういうこと?』
『ナルトがどんどん強くなっていってて、サスケは自分が成長してないって疑心暗鬼になってる』
『…』
『もちろんサスケもサスケで強くなってるんだ、贔屓目とかじゃない。けどナルトの成長スピードには目を見張るものがあってさ』
『…そう、なんだ』
『サスケはイタチを殺すことに異常にこだわってる。一族を殺したイタチを自分の手で消すことを生きがいにしてるんだ』
『…そんなの間違ってるよ』
『あぁ、俺もそう思う。復讐に飲まれるなと何度も言ってきた。でも、ここ数日のサスケの様子がどうも今までとは違うんだ』
『…どう違うの?』
『…前よりも、闇が濃くなった。復讐に対する気持ちが強くなってる気がする』


その後私は里を抜けたからそれ以上のことがわからないけど、そんなことがあったんだ。
サスケが里抜け。それも今私の目の前にいるイタチくんを殺すために。

でも、イタチくんは…。


「…ユウナさん」
「…」
「今から俺が言うことは、心の内に秘めておいてもらえますか?」
「…?」


どういうことかと思いながらも黙って頷く。
その後イタチくんから聞かされた話は耳を疑うものだった。


暗部に所属していたイタチくんが、里とうちはの二重スパイをしていたこと。
うちは一族を抹殺したのは、里から下された“極秘任務”だったこと。
そして今彼が暁にいるのは、里抜けを命じられながらも里を守るためだと言うこと。


簡単には信じられない話だった。
恐らく今でも、里内でのイタチくんを見る目は“一族を皆殺しにした凶悪犯”だ。事実、私も暁に入るまでそう思っていた。

でも、だとしたらなぜサスケは生きているのか。私が里抜けした時のイタチくんのあの苦しそうな表情はなんなのか。それが今やっと腑に落ちた気がした。


「…俺がサスケを殺せなかったのは、あいつのことが本当に大切だったからなんです」
「…」
「曲がりなりにも、こんな俺でもあいつの兄貴です。辛い思いをさせることも、苦しい思いをさせることもわかっていた。でも、それでも俺は、サスケだけは守りたかった」


そう言うイタチくんの握られた手は震えていた。

怖かっただろう。同じ一族の者たちの命を任務とはいえ奪うのは。苦しかっただろう。辛かっただろう。
その当時の彼のことを思うと胸が張り裂けそうだった。


「…サスケには、うちは一族であることを誇りに思ってほしかったし本当の意味で強くなってほしかった。だからあいつに俺を憎めと言いました。俺への憎しみがあいつの強さに変わるならどんな形でもいいと。…でも、それが間違いだった」
「イタチくん…」
「…俺はあいつを復讐者にしてしまった。でも、それでもあいつのことが大切だと思ってしまう自分が…情けない」


そう言って唇を噛みしめるイタチくん。
まだ震える彼の手をそっと自分のそれで包み込んだ。


「!」
「イタチくん。自分を責めないで」
「…」
「たしかにサスケはイタチくんを憎んでる。イタチくんに復讐することだけを生きがいにしてる。でも、サスケは大丈夫」
「…どういうことですか?」
「サスケには、自分を信じてくれる仲間がいるから」
「!」


私がそう言い切ると、イタチくんは驚いたような表情で私を見た。


「ナルトって言ってね。九尾の人柱力がサスケと同じ班だったの。イタチくんもナルトのことは知ってるよね?」
「…ええ」
「ナルトはずっと孤独だった。小さい時からずっとひとりぼっちで生きてきた。里を守るために九尾の器になって、それが理由で里の人たちに蔑まれながら罵られながら生きてきたの」
「…」
「そんなナルトにやっとできた繋がり、それがサスケ」
「…繋がり」
「多分ナルトのことだから、サスケが里抜けしようとしたときも全力で止めようとしたと思う。私にはわかる」
「…」
「サスケが里抜けしたってことはナルトはサスケを止められなかった。きっと、ナルトは自分を責めただろうね。サスケをまたひとりぼっちにしてしまったって」
「…」
「でも、ナルトはそれぐらいのことでサスケを諦めるような子じゃない。きっと、今もサスケを連れ戻そうと必死になってるはず」


ナルトがサスケを連れ戻そうとする姿を想像すると、それが私を連れ戻そうとするカカシの姿と重なった。自然と体に力が入る。そんな自分を落ち着けようとふーっ、と息を吐いてイタチくんを見た。


「今はまだわからないかもしれない。でもいつか、きっとナルトの想いがサスケに伝わる日がきっと来る。だからサスケは大丈夫」
「…ユウナさん」
「それに、サスケはイタチくんのことを誤解してるんだよ。そのことをサスケは知らないんでしょ?だからイタチくんを憎んでる」
「…はい」
「いつかサスケがこのことを知ったとき、きっと分かり合えるよ。誤解も解ける」
「…そうなるといいですが」


そう言いながらイタチくんは遠くを見てふっ、と笑った。


「だってイタチくんにとってサスケは、たったひとりの大切な弟なんでしょ?」
「…ええ」
「だったら大丈夫。サスケにとってのイタチくんもきっとそうだから」
「…ありがとうございます」


するとイタチくんは、先ほどよりも晴れやかな顔で立ち上がった。


「今からサスケに会ってきます」
「!」
「それから最期にサスケに謝ってきます。ダメな兄ですまないと」
「…イタチくん」
「ユウナさんに話してよかった、これで安心して逝けます」
「待って、」
「今までありがとう、ユウナさん」


そう言って微笑んだイタチくんに伸ばした手は空を切った。
ボフンという音と共に消えたイタチくん。分身だと気づくのにそう時間はかからなかった。

それがわかった途端、私は弾かれたようにアジトを飛び出した。
行き先なんてわからない。でも今行かなきゃ私は絶対後悔する。最近イタチくんが私の元に来ない理由も気づいてしまった。彼と共に過ごしたのはたった3年だったけど、でもイタチくんはずっと…。
彼が最期に私に会いに来てこのことを話したってことは、つまり彼にまだ迷いがあったってことで。誰かに話を聞いてほしかった、気づいてほしかったとそう言うことだと思うから。



お願い、間に合って…!


いつになく全力で枝を蹴る。
木ノ葉にほど近い場所でふたつの大きなチャクラがぶつかる気配がした。




彼の背負ったもの





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