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アスマの隊は、見たところ上忍のアスマと中忍のシカマル、コテツ、イズモのフォーマンセル。
正直、こいつら二人にこのメンツは荷が重い。
相手は厄介な不死身という能力を持つ飛段と角都。飛段のあの術にかかればどんなに強い忍だって生きてはいられない。
だけど、私がいれば話は変わる。
私はどんなことがあっても木ノ葉の人たちを殺させない。
どんな手を使っても必ず助ける。幸いにも飛段の能力は何度も見て来たからどんなやり方をするのかわかってる。それを鑑みて最善の治療を施すだけだ。
その瞬間、アスマの頬を飛段の鎌が掠った。
スーッとアスマの頬を流れる血に思わず叫びそうになった。
落ち着け、大丈夫。必ず私がアスマを助ける。
そうは思いながらも、血で陣を描く飛段を見て体を冷や汗が伝う。
もうすぐアスマがあの術の餌食になる。私の話を聞いたシカマルも顔面蒼白になっている。
アスマの血を舐めて体の色が変わった飛段がにやりと笑う。
楽しそうに戦いやがってくそ。思い通りにさせるかっつーの。
振り上げられた大鎌が、飛段の体を貫く。
その途端ぐたりと崩れるアスマの体。
助ける、そう思ってはいても、やっぱり仲間が倒れるのは見ていられない。飛び出しそうになる体を必死に抑える。
もうちょっと、もうちょっとだけ待ってて、アスマ。
耐えて。お願いだから耐えて。すぐ助けるから。
「アスマーーッ!!」
シカマルの叫び声が聞こえたところで増援が現れた。
こっちもフォーマンセル。アスマが倒れて七人対二人にしても分が悪い。耐え切れなくなった体が飛び出しそうになったところで脳内に直接声が聞こえる。ペインの声で、さっき狩った二尾を封印するからすぐに集まれとのことだった。
ペインの声に向かって悪態を吐く飛段に私はほっ、と息を吐く。
やっと助けられる。もうちょっとだからね、アスマ。
「ユウナ、行くぞ」
「…先に行ってて」
「あ?なんでだよ」
「よせ、飛段。こいつがいようがいまいが関係あるまい」
「ちぇっ…遅れんなよ。じゃーな!クソヤロー共!」
私をおいて二人は煙と共に消えた。
アスマが運ばれた換金所の屋上に向かって地面を蹴る。そこにすとんと降り立つと、増援に来た女の子と大柄な男の子が立ちはだかった。
「これ以上アスマ先生に手を出すな!」
「私が相手よ!!」
そう言って涙目で私を睨みつける2人。
私がこのマントを着てるってことはこういうことなんだよね。わかってはいたものの、こうも木ノ葉の子達に睨まれると胸が苦しくなる。
「…やめろチョウジ、いの」
「! シカマル!」
「なんでよ!」
「その人はアスマには手ぇ出さねぇよ」
シカマルのその言葉と共に瞬時に足にチャクラを貯めて、ぐったりと横になるアスマの隣に立つ。
「…アスマ、」
「…」
「すぐ、助けるからね…」
膝をついてアスマの傷を診る。
思った通り、傷が四ヶ所。それも全部急所に入ってる。ただ、思ってたよりその傷は深かった。
奥歯をぐっと噛み締めて治療を始める。
必ず…必ず助けるからね、アスマ。
「! 何を…」
「…黙ってろ」
私に飛びかかろうとするいのって女の子をシカマルが制する。
その間も必死にチャクラを流し込む。
「…増援要請は」
「! した」
「…その中に医療班は」
「いる。問題ねぇ」
なら、それまでどうにか持ち堪えればどうにかなるか。
ふーっ、と息を吐いてなおもチャクラを流し込む。しばらく治療を続けると、少し唸ったアスマがゆっくりと目を開けた。
「…ユウナ、」
「…バカ。重傷人が喋んないの」
「…へへ、お前やっぱ、変わってねぇな」
死にかけてて何が嬉しいのか、頬を綻ばせるアスマを無視して治療を続ける。
じわりと滲む額の汗も今は気にしてられない。
「…なぁ、ユウナ」
「…だから喋るなって…」
「…俺よ、うまくいったぜ」
「!」
治療を続けながらそんなアスマに驚いて目を見開く。
そっか、うまくいったんだ紅と。よかったじゃん、アスマ。
素直な嬉しさから溢れそうになる涙をどうにか堪える。それならなおさら助けなきゃだね。
すると近くに増援らしい複数の気配がした。流し込んでいたチャクラを止めて立ち上がる。
「…応急処置はした。あとは帰ってすぐ綱手様に手術を頼んで。そうすればきっと助かるから」
「あぁ」
「…ユウナ、」
つらそうに顔を歪めながら起き上がろうとするアスマを咄嗟にシカマルが支える。
「…まだ傷ふさがってないんだから起き上がったら…」
「…帰ってこい、ユウナ」
「…っ」
縋るようなアスマの視線に思わず顔を逸らした。
ごめん、アスマ。生きて。
そう思いながら瞬身でその場を後にした。
奥底の本音