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るんるん、とご機嫌全開で執務室をスキップしながら出たナツハは、数週間ぶりに陽の照る時間帯の木ノ葉通りを歩いていた。

火影と言う立場もあり、この時間に彼女がしかも一人で歩いているのを珍しがりながらも、店を構える人や買い物に来た人が彼女に声をかける。


「火影様、うちの店に寄ってってくださいな!」
「ご苦労様です、火影様!」
「ナツハ様今日も見目麗しい…!」


そんな風に大勢の人が声をかける。いつも里を守ってくれる我らが長に、自分たちにできる恩返しを少しでもしたいと思う者、言葉だけでもその苦労を労いたいと思う者、彼女の太陽のような笑顔にただただ見惚れる者、様々だ。


「や!みなさん、調子はどうですか?」


五大国最強を謳われる木ノ葉隠れの里の長、火影である彼女は、その地位を決して驕ることなく、誰とでも笑顔で接することのできる度量を持つ人間。だから皆、笑顔で彼女に言葉をかけ、彼女は皆のそんな笑顔を見てさらに笑顔になる。そうすればまた里の民に笑顔が生まれる。そんな幸せな連鎖が生まれるのだ。


「六代目!!」
「ん?」


そんな風にナツハが里の民に笑顔を向けながら声をかけて歩いていると、彼女の振り返った先には鬼のような形相を浮かべるシカマルがドスドスと鼻息荒げに歩み寄ってくるのが見える。


「や、シカマル元気かい?」
「元気かい?じゃねぇっすよ!あんた執務は!?」
「あぁ、ナルトに任せてきたよ」
「はぁ!?」


彼が彼女の発言に普段は細い目を引ん剥くのも仕方ない。

彼、奈良シカマルは、今や木ノ葉一の参謀にして火影の補佐役で、カカシがナンバーツーなら彼はナンバースリーにあたるほど、ナツハは彼を頼りにしていた。

事務仕事が苦手な彼女を叱咤激励しながら支えるのがカカシの役目なら、彼はそんな彼女の事務的な執務を手助けするそんな役割に当たる。

よって、彼がここまで怒りを見せることに甚だ疑問は浮かばないわけだ。


「あんたなに考えてんだよ!あの書類の中には里の機密事項までは入ってんすよ!?」
「…何よその言い方。それにそのことはカカシにもう言われたよ」
「そのカカシさんはいいっつったんすか」
「あー、聞かずに出て来ちゃたからなぁ。でも大丈夫だよ、お目付け役はカカシに選んでもらうことになってるから」
「……ったく、ほんっとあんたって人は…」


からから、と呑気に笑ってそう言うナツハにシカマルもカカシ同様頭を抱えた。
ナツハはそんなシカマルの肩に手を置いて、再び笑みを浮かべる。


「そんなに不安ならさ、シカマルがナルトのお目付け役になってよ。そしたらまだナルトが見ない方がいい書類とかも選別できるし、私も安心だしさ」
「何を呑気な…俺一人であのバカの相手なんかごめんっすよ。ったく、めんどくせぇ」
「そんなこと言ったって…。ね、シカマルお願い!ってかこれ火影命令」
「うわ職権乱用しやがった。…わかりましたよ。ただし俺だけじゃ無理っすからね」


ため息をついてそう言うシカマルに、ナツハはうーんと顎に手を添え考える。
そして数瞬ののち、ぽん、とひとつ手を打ってシカマルを見た。


「そうだ!あの二人に頼めばいいんじゃん!」
「…あの二人?」


「なんで今まで気づかなかったんだろ!」ときらきらした表情を浮かべるナツハを見て、シカマルはいつも以上に訝し気な表情を浮かべる。


「あの二人に頼んだら、シカマルもカカシもナルトのお世話しなくてよくなるかも!」
「…今はっきりお世話って言いましたよね。で、その二人って誰なんすか」
「むふふ。シカマルちょっと耳貸して…」





*  *  *




ナツハがシカマルに遭遇するのと同じころ、ナルトはカカシに見張られながら書類仕事に精を出していた。


「なぁなぁ、カカシ先生ってば」
「んー?」
「……ちょっち休憩しない?」
「バカ言え。まだ三枚しか進んないでしょうよ」
「むー」


「ほらほら、次はこれやって」そんな風にナルトを促しつつサボっていないか監視もしながら、目の前のこの教え子の目付け役を誰にするか頭を悩ませていた。


(シカマルにするか?あいつなら重要書類の分別もできるし、他のことでも……いや、あいつも最近休んでないからやさぐれてるはずだ。きっとこんなことになったって知れれば鬼のような形相で怒られて俺にまでとばっちりが来る。この年になってまで一回り以上年下の人に怒られるのは御免だ。…でも、だとしたら誰だ…?)


次々と候補を浮かべてはダメな理由が思い当たり再び頭を抱え始めたカカシの耳に、こんこん、と扉をノックする音が聞こえてくる。


「どうぞだってばよ」


咳払いをしたのち火影気分を味わうどや顔のナルトが嬉しそうにつぶやくと、控えめに開いたドアからそんな様子を伺うように二人の人間が執務室へと入ってきた。


「やだ、本当にやってたんだ」
「精が出るな、ウスラトンカチ」
「サクラちゃんにサスケェ!」


旧友の思わぬ登場に、ナルトも目を輝かせる。
そんな元教え子三人が揃った姿をカカシは不思議そうに見つめた。


「おまえら、なーんでここに?ナツハに用なら今はいないけど」
「その火影様から忍鳥が来たんですよ。“ナルトが火影体験してるから手助けも兼ねて監視してやって”って」
「まったく、はた迷惑な火影だ」
「…なるほどね。ま、たしかにおまえらがお目付役ならサボれないわな」


「な、ナルト?」
にっこりと笑顔を向けながらも現役時代さながらの威圧感を見せるカカシにナルトはびくっと肩を揺らし顔を引きつらせた。



「が、がんばるってばよ…」




火影代理の苦難



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