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シカマルと別れてから数時間後、自宅に戻りゆっくりと風呂に浸かり夕飯も堪能したナツハは、念願のふかふかベッドの上にいた。久しぶりのその感覚にうっとりと酔いしれていたが、日ごろの激務の疲れがどっと押し寄せ、彼女はふわりと欠伸をし、もふりと布団をかぶった。


「うーん…やっぱりベッドはふかふかじゃなきゃねぇ…」


家に帰る時間すらなかったここ一ヵ月ほど、執務室の隣に併設された仮眠室のがっちがちのベッドで眠りについていたナツハにとって、温かみすら感じるこの自宅のベッドを形容すれば、まさに天国。至福といった表情を浮かべながら、とうとう襲い来る眠気に抗えなくなってくる。


「目覚ましかけないで眠れる幸せ…」


火影になってからは常に時間との戦いで、よく眠ったとはいえ時間にすれば四時間ほど。仮眠に毛が生えたほどのそれではさすがに心身ともに不調にもなる。とはいえそこは、里長たる火影。自分の背負った仲間たちには心配をかけまいと普段は気丈にしているが、とはいえ人間なので時折サボりたくなるのも致し方ない。
ナツハは、かぶった布団に顔を埋めながら、襲って来る眠気にしたがってうっとりと目を閉じた。




*  *  *



「ナツハー?」


ナツハがようやく熟睡に入ったころ、やっとのことでサスケとサクラに注意事項を伝え終わったカカシがそろりと忍び足でやってくる。

二人は交際こそしているが共に暮らしてはいないため、互いの家の合鍵を所有している。何度も通いつめ慣れ切ったカカシは迷うことなく寝室へと向かうと、扉を開けた先ですやすやとまるで子供のような寝顔で眠るナツハを見て頬を緩めた。



火影になる前のナツハはカカシと並ぶ、ともすればそれ以上の実力を持つ優秀過ぎる忍だった。
耐え忍ぶことの意味を知り、その上で実力も、人望も、里への忠誠心も仲間への想いも底知れない。暗部にいた頃も含め、彼女が隊長を務めた隊の任務遂行率と帰還率は群を抜いていた。

そんなナツハは、暗部の分隊長を五年にわたり勤め上げた後、大戦前に正規部隊に異動になった。今思えば、綱手たち上層部はこの時すでにナツハが火影の座に就くことを考えていたのかもしれない。
そんなことを知ってか知らずか、彼女は先の大戦も最前線で活躍した。


カカシとの交際が始まったのは、二人がまだ暗部に所属していたころだった。
そのころ巷で良くない噂の多かったカカシは、新人暗部として紹介されたナツハにらしくもなく一目惚れ。出会ったその日に交際を申し込んだが、さんざん噂を耳にしていたナツハに「お断りします」と感情のない即答を食らった。

それがさすがに堪えたのか、はたまたナツハに心酔していたのか、しばらくして身辺を一掃し改めて交際を申し込むと、「じゃあまぁお試しってことで」と晴れて交際が始まった。それからのカカシはナツハしか見ておらず、彼女のことが最優先で任務にも遅刻することがあったため、ナルトたち教え子に「いい加減にしろバカップル」と揶揄されるほどだった。


交際を始めていつの間にか十年が経とうとしており、二人はともに三十路を超えていた。
二人の関係を知る者からは結婚はまだかと迫られる日々。優秀な遺伝子を根絶やしにするのはもったいないと、そういうことだ。カカシとてもちろん考えないでもないが、まがりなりにも彼女は火影。そう簡単に進まないのが現実である。



カカシはベッドの横に膝をつき、愛おし気な表情を浮かべながら、気持ちよさそうに眠るナツハの頭を優しく撫でてやった。
さすがのカカシでも心配するほどの激務続きで、まともな睡眠をとれていなかったため、カカシが気配を消さずとも熟睡しているナツハ。

いや、カカシだから安心して眠れるのかもしれない。


「……ん、カカシ?」


だらりと眉の下がったあどけない寝顔を浮かべるナツハにカカシがくすりと笑いを零せば、うっすらと瞼が開く。ぼやけた視界に愛おしい銀色を捉えると、やはりあどけなくへらりと笑った。


「ごめん、起こしちゃったね」
「へーきだよ、カカシの気配してたから」


うっとりしたままカカシに頭を撫でられていたナツハは、おもむろに自身の身体を横にずらして、空いたスペースをぽん、と叩いた。


「いっしょに、寝よ?」


そんな愛らしさしか感じない恋人に再びくすりと笑ったカカシは、ベッドに入りぽかぽかとしたその体を抱きしめた。
少し狭いシングルベッドでお互いの存在を確かめ合うように抱きしめあった二人は、やはり襲って来る眠気に抗うこともせず、そろって意識を手放した。




たまにはのんびり、ね



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