第四次忍界大戦が終結して半年ほど経った。
大戦前のペインによる襲撃で見るも無惨だった木ノ葉の里は、少しずつ元の賑わいを取り戻し始めている。

対して僕の心が晴れることはない。
先の大戦で、僕は木ノ葉のために何も出来なかった。木ノ葉の忍として生きてきた約30年、一番肝心な時に何も出来なかった。あろうことか敵に捕まり、今現在僕だけが持っている初代様の細胞が敵の力を増幅させることに使われたらしい。というのも、僕が意識を取り戻した時にはもうすでに戦争は終わっていたから、それを聞いたのは木ノ葉に帰ってきてからだった。

情けない。悔しい。不甲斐ない。
何のために僕はここにいるんだ。五大国をも揺るがす大戦の時に何も出来ないんなら生きている意味なんてない。そう思うほどにまでなっていた。

綱手様は僕のせいじゃないと言った。カカシ先輩も自分を責めるなと。木ノ葉の人たちはみんな優しいから決して僕を責めたりしない。それどころか気にするなとみんな笑顔を向けてくれる。

だけど、僕は無意識下とはいえ敵の懐の中にいた。それは紛れもない事実。みんなが文字通り命を削って戦っている間、僕は何もしてない。むしろみんなのことを傷つけていた方の人間だ。

日に日にマイナス思考になっていく自分にほとほと嫌気がさす。…もう、限界だ。



「探したよテンゾウ」



キィキィと車椅子を漕いで僕がいる火影岩の上の広場にやってきたのはチハル。
暗部時代の後輩で、僕と一緒に最前線で戦っていた手練れのくノ一。このチハルも先の大戦で負傷し、腰から下が不随になった。チハル自身はそんなこと物ともせずガイさんと一緒に車椅子で里中走り回っているけど。そんな彼女は、車椅子でも出来る内勤やアカデミーの補助教師などで忍と関わって生きていくことを決めた。そんな彼女を、僕は強いなと思った。



「つーかなんでこんなとこいるわけ?任務は?」
「今日の分はもう終わったよ。軽いものだったから」
「ふーん。てゆーか暑いんだけどマジで。ここ来るときの坂きついわー。ね、テンゾウ水出して」



人使いというかチャクラ使いが荒いよと思いながらも言う通りに水遁で霧を出す。「うっひょー!きもちー!」って言いながらニコニコ笑ってはしゃぐチハルを見てまたしても心が曇ってくる。

チハルから忍として生きる道を奪ったのは僕なのかもしれない。
チハルはずっと忍という職業に誇りを持っていた。それは僕が一番知ってる。誰よりも一番近くで彼女のことを見てたから誰よりも知っていると自負してる。彼女に対して僕は同僚以上の想いを持っていることも自覚している。

だけど、でも、僕にはチハルのそばにいる資格はない。里のために命を張って自分の忍として生きる道を捨てざるをえなくなったチハルとこんな情けない僕が一緒にいるなんて許されるはずないんだ。



「なにふさぎ込んでんの、バカテン」
「バカテ…あのね、チハル、」
「自分責めんな。あんたはなにも悪くないじゃん」
「…」



ほらね。やっぱり木ノ葉のみんなは優しい。
決して僕を責めない。いっそ責めてもらったほうが楽だなんて何度考えたことか。



「…なんて、私が言うとでも思った?」
「!」



へにゃっ、と笑って言うチハルに目を見開いた。途端、少しばかり真剣な目で僕を見る。



「私も帰ってきてから聞いたよ、テンゾウが戦時中どこにいて何してたか」
「…」
「それ聞いてあんたは、自分は何のためにここに生きてるのか、何のために生まれてきたのか。そんなことまで考えるほど追い詰めてるんでしょ自分のこと。慎重派のあんたが考えそうなことだわ」
「…っ」
「でもさ、テンゾウ。いくら後悔したからって過去には戻れないじゃん」



チハルはそう言いながら自分のもう動かない脚を見た。
それを見て思った。チハルもきっと後悔があるんだ、と。



「…私もさ、大戦終わってすぐはやっぱ途方に暮れたよ。今まで忍として任務任務で他のことなんて考えたことなかったしさ。ああ、これから何しよう、何して生きていこうってね」
「…」
「だけどさ、ふと思ったんだよね。これも私の運命なのかなーってさ」
「…運命?」
「そ。なんかクサイけどね。足が動かなくなったことも、もしかしたら前から決まってたことかもしんないってね」



そう言ってはにかんで笑うチハルを不謹慎にも綺麗だと思った。そして、やっぱり強いと思った。



「でも、今でもやっぱり心のどっかで後悔してるんだよ私も。みんなには“チハルは強いね”って言われるけど全くそんなことない。忍としていられるならいたいし、最期は忍として死にたかったなぁってね」
「…ああ」
「そんなのは夢だってわかってるよ。わかってるからこそ私は今、こうして忍を辞めて生きてる。任務には行けないけど、きっとそれ以外にもやれることはあるはずだと思ったし、実際あったしさ」
「…」
「テンゾウはさ、まだ任務やれるじゃん。忍としていられるじゃん。それ以外何がいるっての?」



真っ直ぐに僕を見つめてそう問いかけるチハル。


言葉が出なかった。
僕は過去を思い返してばかりいて未来を見ようとしていなかった。チハルのように過去のことは過去のことと割り切って前を向こうともしようとしてなかった。
チハルの言う通り、過去には戻れない。過ぎたことにこだわっていてもしょうがないんだ。

なんだかさっきまでのマイナス思考がバカらしく思えてきた。



「やっと吹っ切れたか」
「!」
「まったく、世話のかかる先輩だよあんたは」
「…先輩にその口の聞き方はないんじゃないかい?」
「うわ!出たよ恐怖による支配顔!逃げろっ!」
「っおい!待ってよチハル!」



ケラケラと笑いながら猛烈に車椅子を漕ぐチハルを追いかける。あの細い体のどこからあんな力が出るのか未だに不思議だ。



「テンゾウ!」
「あのさ、僕今はヤマトなんだけ…」
「私は今のテンゾウも昔のテンゾウもどっちも好きだよ!」
「!」



相変わらず車椅子を漕ぎながらそう言ってにっ、と笑ったチハル。
呆気にとられる僕を無視して「あ、カカシ先輩だ!せんぱーい!!」って前方をだるそうに歩く猫背の先輩に向かって猛進していった。



僕は一生チハルには敵わないだろう。いや、適えるとも到底思わない。彼女ほど明るく生きられないし、前も向けないだろう。

だけど、こんな僕にもたとえちょっとでもチャンスがあれば、それにほんのちょっとの勇気があれば、






(あ、チハルじゃないの。相変わらず元気だねぇお前)
(うっす!先輩!!)
(あれテンゾウ、お前何ニヤニヤしてんの)
(っしてませんよ!)
(あらテンゾウ、カカシ先輩を目の前にして嬉しさのあまり…!?)
(…勘弁してくれ)

fin.


BACK _ NEXT

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -