「お疲れ〜」
「そっちもね」


三日ぶりにカカシとご飯を食べに来た。
お互いに任務が早くに終わって、待機所で鉢合わせて改めて集合。場所は言わずもがな行き慣れた居酒屋で、暖簾をくぐると無骨な大将の「いらっしゃい」でお出迎え。うん、やっぱりここ好きだなぁ。


「大将、とりあえず生二つとだし巻き玉子に、おでんおまかせでお願い」
「はいよ」


お客さんもまばらだったのでカウンター席に着くなりそう注文すれば、大将はいそいそと調理に差し掛かった。


「今日さ、いつもより寒くなかった?」
「たしかに。風も強かったしね」
「だよねぇ。強風に髪が吹かれて大変だったよ、めっちゃ絡まってるし」
「はは。おまえ髪長いからねぇ」


そう言いながら笑うカカシの細長い、けれどごつごつとした男らしい指が慣れた手つきで私の髪を梳かしていく。こんな風に、いつもカカシには面倒見てもらいっぱなしで、私からは何もしてあげられてないなぁ、なんて。


私たちは、そろそろ付き合って二年になろうとしている。
きっかけはカカシからの思わぬ告白。「ずっとおまえが好きだった」なんて真っ赤な顔して言われたら、なんだか照れが私にまで移っちゃって同じように真っ赤になって頷いたっけ。

カカシには、本当に大切にしてもらってると思ってる。付き合ってから不安になったこともないし、ほかの理由で泣きたい時も、カカシは黙って抱きしめてくれた。本当、支えてもらってばっかりで、申し訳なさすら感じるほど。でも私は私なりにカカシを支えてきたつもりだし、カカシも私に甘えたりしてくれてると思う。

そしてこれが一番大事なこと。
私はカカシが大好きだ。


「お待ちどう」
「ありがと」


そんなことを思い返しながら先に来たビールで乾杯を済ませ飲んでいると、ことりと目の前に置かれた熱々のおでんとだし巻き玉子。お腹が減っていたこともあってきらきらとした目を向けると、カカシはくすりと笑って箸を渡してくれた。


「ありがとう、いただきます!」
「いただきます」


熱々の大根を箸で割いてはふりと頬張れば、少し甘めの出汁と大根の風味が鼻を抜ける。気持ち多めにつけた辛子がその美味しさを引き立てていて、幸せな味が私を満たす。「相変わらず美味そうに食うね」と笑ったカカシもごぼ天を頬張って、はふはふと美味しそうに咀嚼した。









「ごちそうさま」
「毎度」


大将にまた来るねと挨拶してから暖簾をくぐると、ほかほかとした体と心とは反してすっかり日も暮れて冷えきっている。ふと空を見上げれば、無数の星が広がる。私の大切な人達も、あのなかのどこかにいるんだろうか。


「お待たせ」
「ううん、平気。ごちそうさま」
「ん」


今日はカカシがご馳走してくれる番。
割り勘とかが面倒くさいという私の性格も理解してくれていて、前回私がご馳走したので今度はカカシの番。この制度は我ながら気に入っている。


「ほら、寒いでしょ」
「ん、ありがと」


私の家まで進む道のり。
すっと差し出してくれたカカシの手を取って、寄り添って歩くこの道が、私は大好きだ。


「夜も冷えるねぇ」
「だね」
「熱燗飲んで正解だった。私の手、めっちゃ温かいでしょ?」
「うん、ぽかぽかしてる」
「カカシは飲まなくてよかったの?」
「今日はいいんだ」
「ふーん」


いつものカカシなら、私と同じものばっかり飲むのに。今日は珍しく、一杯目のビールを飲み終えるとそこからはお茶を飲んでいた。あまり強くはないけど好きなはずなのに、どうしたんだろう。そういえばご飯もあんまり食べてなかった気がするし、話しかけてもときどき上の空だったような。
体調でも悪いのかな?そう思って空いてる左手でカカシの額当てのない額に触れると、特に熱はない。目もとろんとしてないし、別段いつもと変わらない。


「ん、どうした?」
「いや、今日あんまりお酒もご飯も進んでなかったから、体調でも悪いのかなって」
「…あー。うん、体調は悪くないよ。むしろ絶好調」
「ふーん」


まぁ、無理してないんならいいや。そう思って、繋いだ手をぶんぶんと振って歩きながら、星の広がる空を見上げた。ふーっとひとつ深呼吸をすれば、吐き出された息は白く輝く。昔から、冬になると白く見えるこの息が好きだったりする。べつにたいしたことはないんだけど、なんか特別な気がするんだよなぁ。


「ねぇ、チハル」
「んー?」
「そろそろしよっか」
「ん?」


そんなカカシの問いかけに、傾げた首で視線を向けた。
すると、横から見えるカカシの耳が真っ赤になっていて、心なしか手も汗ばんでいるように感じる。


「するって何を?」
「だから、その、」
「?」
「……、」
「………え?」


やっと聞こえた小さな主語に、私はぴたりと足を止めた。
私が止まると自然とカカシの足も止まって、目を丸くする私に赤い顔を向けたカカシは、縋るような視線を送ってくる。


「…そろそろさ、しようよ…結婚」
「…っ」
「俺はずっと、おまえと一緒にいたい。ずっとおまえと生きていきたい。だから、」


「俺と結婚してください」





頷かないわけないじゃない
fin.



BACK _ NEXT

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -