「…雨、止まないね」
「そうだね」
「…」
「…」


雨の中任務が終わって、大門と反対側に家があるずぶ濡れの私を見かねたらしいカカシが「俺ん家、近いから雨宿りしてきなよ」って言ってくれて、カカシの家に来てから早数時間。家に着いてすぐ貸してくれたタオルを首から下げながら、ずっと降り続ける雨を窓から眺めた。

正直、好きな人の家にいるっていうのになんでか早く帰りたくて仕方ない。無言がつらい。カカシが何を考えてるのかとか、何を思って家に連れてきてくれたのかとか。カカシは私の気持ちを知ってて、からかってるんじゃないかとか。
いろいろとマイナスなことばっかり浮かぶから雨は嫌いだ。


「…」
「…」


カカシも何も言わずに窓の外を眺めてる。私はそんなカカシをちらりと見て、おもむろに立ち上がった。


「雨、止みそうにないから帰るよ」
「え?」
「このまま止むまでってなると、たぶん夜中とかになっちゃうし。さすがにそこまでカカシに迷惑かけるわけにはいかないしね」
「いや、別に…」
「あ、それじゃあタオルありがと。またね」


できるだけ精一杯の笑みを浮かべて振り返って、玄関へと足を向けた。
やっと、この苦しいところから開放される。…いや、それじゃあカカシに失礼か。私が勝手に苦しくなっちゃう場所、だった。好きな人の家にいさせてもらえてるっていうのに、こんな勝手な気持ちになって何やってるんだろう私。せっかくカカシに、この長年の想いを伝える絶好のチャンスだったのになぁ。


足も止めない代わりに、涙も止まらない。みじめで不甲斐ない自分が、情けない。


「待って」
「!」


声をかけられてから一瞬。
気づけばカカシに、後ろから抱きしめられていた。


「俺が、何とも思ってないやつを家に入れて、何時間も雨なんか眺めてると思う?」
「え?」
「…好きなんだ、チハルのこと」
「!」


…え?今、なんて…?


「好きだから、すこしでも一緒にいたかった。おまえが俺のことをなんとも思ってなくてもよかったんだ。一緒にいられればそれだけで。…でも俺、こういうのに慣れてなくて、上手く言葉が出てこなくて、」
「…」
「気の利いたことのひとつでも言えたらよかったんだけど、その…」
「…」
「年甲斐もなく、緊張してて…」
「!」


さっきよりも強く、ぎゅっと私を抱きしめるカカシから伝わってくる心音は、たしかに早い。
かくいう私は、びっくりしてるのと何が起こってるかわかんないので言葉がうまく出て来ない。


「何か言わなきゃと思えば思うほど、その、言葉に詰まっちゃって…」
「…」
「…ダサいよね、俺」


はあ、とため息を吐いたカカシは、ゆっくりと私から離れていく。


「情けないと思うでしょ、いい年こいてこんななんて」
「…」
「…ごめんね、引き留めたりして。いいよ、帰ってくれても。もう、止めないから」
「!」


そう言うカカシの声は、今まで聞いたこともないほど悲しげな声だった。
背中越しに、カカシの気配と足音が遠ざかっていくのがわかる。きっとこのまま私が何も言わずに出ていったら、カカシとは何もなく終わってしまう気がした。

そんなの、やだよ。まだ気持ちも伝えてないのに。カカシは勇気を出して言ってくれたのに、私は何も言わないなんてそんなの卑怯だ。

いつの間にか流れていたはずの涙は引っ込んでいて、深呼吸をした後くるりと振り返って勇気を振り絞る。


「カカシ」
「…」
「…私も、カカシが好き」
「!!」


いつもより小さく見える背中にそう言えば、ぴくりと震えた後恐る恐るといったように振り返ったカカシは、驚いたように目を見開いていた。


「…い、今なんて…?」
「…だから、私も好きなの。カカシのこと」
「!」
「私だってカカシと一緒にいたいって思ってたけど、勇気がなかったんだ」
「…」
「きっとカカシは私のことなんて何とも思ってないんだろうなと思ってたし、それで今までみたいに話せなくなったらどうしようとか、いろいろぐるぐる考えて、結局何もできないままだった」
「…」
「だけどカカシはちゃんと言葉にして言ってくれた。だから情けないのは私の方だよ。ごめん…っ!」


「…よかった」
また涙が溢れそうになったとき、今度は正面から思い切り抱きしめられる。そして肩越しに聞こえてきたのは、心の底から安堵したようなカカシの声。
少し震えてるように感じるその背中に腕を回して、ぎゅっと抱きついた。


ずっと、カカシは強いと思ってた。
誰にも頼らずに、自分を見せずに、ひとりで生きてる人だと思ってた。

だけど、本当はそこらへんにいる普通の人間で。
簡単に気持ちを伝えることも、現すことも出来ない、ごくごく普通の人間だった。


だからこそ、昨日よりも今日、カカシのことが好きになった。





fin.


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