「…ハァ」


日も暮れ始めた里を見渡しながら火影岩の上でため息をつくなんてどんな仕打ちだ。手の中に鎮座するもの見て漏れるのはやっぱりため息。

渡せなかった。毎年毎年いろんな人から溢れるぐらいもらうっていうのはわかってたけど、自分だけは特別なんじゃないか、もしかしたら自分のために時間をさいてくれるんじゃないかって思い上がってたのが悔しい。

待機所でも何度か声をかけようとしたけど結局他のくノ一たちの勢いに負けて行くに行けず今に至るわけで。こういうところでぐいっといけない自分が情けない。


「…これ、どうしよう」


バレンタインはチョコを送る日だけど、私の彼氏は甘いものが好きじゃない。でもやっぱり何か手作りしたくて、気合い入れてお弁当なんて作ってみたけどどうにも渡せそうもないしなぁ。本当にどうしよう。夕飯代わりに自分で食べちゃうか。

…うん、そうしよう。もし明日以降に何かねだられたらその時にまた作ればいい話だし。


「我ながら上出来だなぁ」


風呂敷包みを広げて朝ぶりに見るお弁当は、あいつ好みのおかずばっかりで何回目かもわからないため息が漏れる。
朝作ってるときは幸せだったんだけどなぁ。これをあいつが美味しそうに食べてるところを想像してにやにやが止まらなかったっけ。まさか数時間後には自分で食べる羽目になるとはねぇ……むなしい。


「…いただきます」


誰も見てないけど一応手を合わせていただきます。お箸で持ち上げた卵焼きをじーっと見るけどここ最近で一番うまくできた気がする。

あーぁ。あいつはこれ食べないんだもんな、もったいないなぁ。あいつ卵焼き好きなのに。
また出そうになったため息を抑えて卵焼きを口に運ぼうとした手は、後ろからにゅっと伸びてきた手に引っ張られて背後に伸びた。

いや、気づいてたんだけどねあいつが来てるって。素直に振り返るのが悔しいから気づいてないふりしてたけど。


「ん、美味い。やっぱ卵焼きはチハルのが一番だね」
「…どろぼう」


ほっぺたを緩ませながら笑顔で私の卵焼きを食べるカカシを見て悔し紛れに悪態ついてみたけど、なんだかんだ来てくれてうれしい私がいるわけで。…現金だな、私。


「なんとでもいってちょうだい。ね、それ俺の弁当?」
「…私のだもん」
「ふーん、ちょうだいそれ。もっと食いたい」


隣にどがっと腰を下ろしたカカシはなぜだか手ぶらで。いつもなら両手いっぱいにチョコやらなんやらの可愛らしい包みを持ってるのに。不思議に思ってカカシを見ると「ん?」ってきょとん、としたあと「あぁ」って頷いて笑った。


「なんで俺がチョコ持ってないのか、って聞きたいんでしょ」
「…べつに」
「お前がいるのにもらえるわけないでしょ、全部断ったんだよ。俺には本命がいるからごめんねって」
「!」


「おなか減った。早くちょうだいよ弁当」と半強制的に奪われたお弁当はどんどんこいつのおなかに入っていく。
美味しい美味しいといつも以上に嬉しそうなカカシを見ててなんだかこっちまで笑ってしまった。私が思ってるよりこいつは私のことを想ってくれてるらしい。


「ごちそうさまでした。あー美味かった」
「おそまつさまでした」
「ねぇ、なんかおかずが俺好みのものばっかだった気がするんだけど、これって気のせい?」
「…気のせい、です」
「…ふーん」


なんだこのやろう。どうせ気づいてるくせに。
じろっと隣のやつをにらむと何食わぬ顔でぎゅっと横から抱きすくめられた。急なことで固まっていると聞こえるため息。


「あのねぇ。いい加減素直になりなさいよ」
「…」
「俺が甘いもの好きじゃないからチョコの代わりに弁当作ってくれたんでしょ?」


素直に認めるのは癪だから気づくか気づかないぐらいで小さくうなずくと「やっぱりね」って気づかれた。


「ありがとね。正直チョコよりこっちのが断然うれしい」
「そう、ですか」
「もっといっぱい食べたいな。お前んちに何かある?」
「…お弁当に入れた煮物の残りと、冷凍のサンマがあるよ」
「お、やったね。じゃあ早速行こう。チハルもおなか減ったでしょ?」
「ん」


体が離れて今度はぎゅっと手を繋ぐ。隣を歩くカカシは鼻歌が聞こえてきそうなほど機嫌がよくて思わず笑った。

そんで、幸せだなって思った。






fin.


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