「こんなつもりじゃなかったのになぁ…」
夜も遅くにカカシの家を飛び出して、全力疾走で泣きながら向かったのは火影岩の上。
今日は、一ヵ月ぶりに会える予定の日だった。
私は夕方で、カカシは夜に任務が終わる予定だったから、先にカカシの家で夕飯を作って待ってるって約束で。だから私は任務が終わってすぐはりきって夕飯の材料を買って、カカシの家でご飯を作って待ってた。「早く帰れるように頑張るよ」ってカカシが言ってくれたのも嬉しくて、付き合いたてのカップルかってぐらいうきうきで待ってたんだけど。
結局、カカシが帰って来たのはついさっき。
作ったご飯も冷めちゃって、待ちくたびれた私は若干いらいらしながら待ってた。それも悪かったんだけど。帰ってきたカカシは悪びれた様子もなく「いやーごめんごめん」なんてへらへらしてるもんだから、ついかっとなって怒鳴ってカカシの家を飛び出してきた。
いくら遅くに帰って来たって無事に帰ってきてくれたならそれでいいじゃないか、って思わなきゃいけないんだけど。それはわかってるんだけど。でも、なんでだかわかんないけどこんなことになっちゃって。
本当なら今頃は、「もう。心配したんだからね」なんて言って、カカシが「ごめんね、飯食おう」って温めなおしたご飯を一緒に食べながら笑いあってたはず。そしたらカカシがいつもみたいに「美味しいよ」って笑って、私も照れながら「ありがとう」って笑う。そんないつも通りの、幸せな時間があったはずなのに。
「…ほんっと。私ってかわいくない」
ようやく上がってた息が落ち着いてきて、抱えた膝に顔を埋めた。
私がこんなんだから、もうきっとカカシは愛想をつかしてるんだろうな。任務が終わって疲れて帰って来たのに、突然怒って飛び出して。自分でもわけがわかんないけど、とてつもなく情けなくて涙が溢れる。
きっと、今度会ったら別れようって言われるだろうな。いい加減温厚なカカシも我慢の限界だろうし。こんな情緒不安定な私と一緒にいるのも嫌になっただろうな。
自己嫌悪と涙が止まらない。必死で嗚咽を堪える。
「…やっぱり、ここにいた」
「!」
そんな背後から聞こえた声に、ぴくりと肩を震わせた。
「急に飛び出すから心配したでしょうよ」
「…」
「…横、座るよ」
よいしょ、と。私の隣に腰を下ろしたカカシ。
追いかけてきてくれて、珍しく息を切らしてまで探してくれて心底嬉しいくせに、飛び出してしまったバツの悪さと居心地の悪さで、言葉が出てこない。
「…ごめんね。こんなに遅くなって」
「!」
「飯も作って待っててくれたのに」
「…」
「あのね、最近ずっと考えてたんだけどさ、」
「…っ」
“別れよう”
きっと続く言葉はこうだろう。
だから聞きたくない。別れたくない。カカシと、一緒にいたい。
そんな思いでいっぱいになって、ぎゅっと目を瞑った。
「ねぇ、俺と一緒に暮らさない?」
「!」
いつの間にか私の前に回り込んでいたカカシが、私の顔を両手で挟んで上げさせた。
私の見開いた目に映ったカカシの顔は、今までに見たことないくらい優しくて、そして晴れやかだった。やっと言えた、そんな風に思っているように感じるのは、私の思い上がりかな。
「…やっぱり泣いてたね」
「…」
「俺はお前と別れようなんて思ってないよ。そんでこれからも絶対思わない」
「…」
「きっとお前のことだから、飛び出してったことに自己嫌悪して、俺が呆れて別れようって言うと思ってたんだろうけど」
「…」
「俺をなめてもらっちゃあ困るね」
カカシの親指が、私の頬を流れる涙を優しく拭う。
そしてずっと合ってる大好きな目が、いつになく優しく細められた。
「そんなことぐらいで嫌になるほど、俺のお前への気持ちは浅くないよ」
「!」
「一緒に暮らして毎日少しでも顔を見たいくらい、俺はななみのことが好きなんだから」
「…っ」
「今日遅くなったのも、家探しでだしね」
「だからほら、泣き止んでよ」
そう言って今度は困ったように笑って、優しく頭を撫でてくれるカカシのお腹に思い切り抱き着いた。
「おっ、と。よしよし、やっと素直になったか」
「…心配かけてごめん」
「はは、いいよ。いつものことでしょ」
「…カカシのこと、信じらんなくてごめん」
「もう謝らなくていいから、泣き止んで返事聞かせてよ」
「…」
「ね?」
そんな優しすぎるカカシに小さくうなずいて、身体を離した。
「…カカシ」
「ん?」
「…私もカカシと、一緒に暮らしたいぃ」
「ありがとう、だけどなんで泣くかね」
「ほら、早く帰って飯食おうよ。俺もう腹減りすぎてどうにかなりそう」そう言って手を引いてくれるカカシに、ごしごしと涙を拭ってついて行く。
カカシはいつも、私の弱いところも悪いところも全部無条件に受け入れてくれる。だからきっと、私はカカシに甘えちゃうんだろうな。
でも、いつか。私がカカシを、甘えさせるんだ。カカシの人に見せない弱いところも、ダメなところも全部受け止める。
それが今の目標!
足元に溶けた優しさ
fin.