「ありがとうございました〜」
「ど、どうも」


きらきらした営業スマイルを背に包みを抱えてそそくさと出たのは小物やさん。世間は明日に迫ったクリスマスに向けての準備や高揚感で浮足立っている。
かくいう私は任務が早く終わったのでいつもは行かないお店に足を運んでみた。恋人へのクリスマスプレゼントってやつを探しに。


「……なんか疲れた」


そこらの古ぼけたような店が好きで小洒落たお店に行き慣れていない私だけど、一年に一回の今日は特別に頑張った。
小物やさんは小物やさんでも、男物の売っているお店。しかも最近できたばかりの、ぶてぃっく?っていうジャンルのところらしい。お店の中には髪型も服装もぱりっと決めた小綺麗なお兄さんがたくさんいて、普段はそこらの居酒屋や八百屋の大将に囲まれている私にはすっっっっごくハードルが高かった。でも、あいつの喜ぶ顔を想像して、どきどきといつになく心臓を弾ませながら頑張った。だれか褒めて。

私の恋人は、この里の長をしている。六代目火影、はたけカカシ。
里長だから、もちろん里で一番の実力と、みんなから無条件に寄せられる期待と信頼。そしてあいつが昔からずっと持ち続けている忠誠心がその座を認めた。まぁ、カカシ自身は“火影なんて柄じゃない”って思ってるらしいんだけど、でも今の段階ではカカシ以外の適任はいない、というのが私も含めみんなの総意。

カカシが火影になって、もうすぐ半年。第四次忍界大戦が終結してから半年後、先代である綱手様からのもろもろの引継ぎを終えたカカシは正式に六代目火影に就任した。
それからは今までの比じゃないくらい忙しくなって、会う暇なんてほとんどない。カカシが火影になる前から付き合ってはいるけど、今は実質、ほとんど自然消滅状態なわけで。

カカシに火影になることを聞いた時から覚悟はしていた。火影は誰にでもなれるものではない。里の中でも、ごく一部の人間にしかその座は認められない。
自分の恋人がその座を認められるほど優秀なのは素直に誇らしい。私もそんなカカシに後れを取らないように、カカシの隣にふさわしい人間であれるように、今までもこれからも、精一杯頑張っていくつもり。

でも、本心は。


「…会いたい、よねぇ」


ゆっくりと、どちらかの家で。
火影でも忍でもない、ただの、“はたけカカシ”と。

最後にカカシと二人きりでゆっくりすごしたのはいつだったっけ?一緒に住んでるわけじゃないから火影になってからはそんな時間があるわけないし、でも一日一回は執務室で会ってるよね?あれ、あれは二人きりでゆっくりはしてないか。火影と上忍の任務の受け渡しだもんね。


「ま、でも、言っても仕方ないしねぇ」


こんなところでそんなことを呟いたところで何かが変わるわけでもないし。私たちは結局、死と隣り合わせなこの世界で運よく生きられていることを喜べることが一番幸せなんだ。

ただこの里で生きられること。
好きな人と歩んでいけること。

それだけあればなにもいらないじゃないか。そうだよ。ただ生きていけるだけでも幸せなのに、これ以上望んじゃいけないよね。

…でも、


「…これだけは、渡したいね」


今はもう恋人としてあいつの隣にいられているのかすら怪しいけど、別れようとは言ってないし言われてない。故に恋人関係はまだ継続中。…のはずだ。
腕の中にある包みをぎゅっと抱きしめる。よし、と気合を入れて、行き慣れた火影邸へと足をすすめた。

そんな時だった。


「チハルさん!!」
「!」









「っなにやってんのよあのバカ…!」


『カカシさんが倒れました、すぐ病院に行ってください』
ついさっき珍しく血相を変えたシカマルが息を切らして目の前に降り立ってすぐ言った言葉。
ここ数日、ろくに睡眠もとらずに執務や公務に追われていたカカシの身体はついに限界を訴え、シカマルが執務室を訪れたときにカカシが倒れていて慌てて病院に連れて行ってくれたらしい。そしてその足で私の元に来てくれたみたいで。

『カカシさんに伝言頼むっす。一日二日ならどうにかします、っつってね』

やれやれとやっと落ち着いてため息を吐いたシカマルにありがとうと呟いて、たっと地面を蹴った。着いた先はもちろん木ノ葉病院。「廊下は走らないで!」と怒られてすみませんと返しながら、早くあいつの顔を見たくて仕方ない。
焦りで縺れそうになるのを堪えながら、受付で聞いた部屋の扉を勢いよく開いた。


「カカシ!!」
「! チハル?」
「……あれ?」


私の予想では、今頃カカシはベッドの上で青い顔をしてしんどそうに眠っているはずだったのに、同じベッドの上とはいえ上半身を起こして、疲れた顔はしているものの、私に柔らかい笑みを向けている。


「来てくれたんだ、シカマルから聞いた?」
「え、う、うん?あれ??」
「ん?」
「…カカシ、倒れたんじゃ、ないの?」
「え?あーうん、そうなるかな。俺もさすがに年なのかねー、三徹はさすがに堪えた」
「…」
「でもほら、点滴打ってもらってちょっと寝たらこのとーり」


そういってへらへらと笑うカカシに安心して一気に力が抜けて床にへたり込んだ。
はぁーと深く息を吐く私にベッドを下りたカカシはぺたぺたと近寄ってきて、「心配させてごめんな」って正面にかがんで頭を撫でてくれる。久しぶりのそれが気持ち良すぎて、どこかちょっとうっとりしながら、はたと思い出して目の前にある胸にずっと抱えていた包みを押し付けた。


「ん、なにこれ」
「…なにって、あんた明日がなんの日かわかんないわけ?」
「明日?明日って別に記念日でもないでしょ、俺もおまえも誕生日じゃないし。…何の日?」
「……ハァ」


世間がこんなに浮足立っているというのに、この男と来たら…。
まぁ、元々イベント事に興味は薄かったし、ましてやそんなことを考える余裕もないほど、あのカカシが倒れちゃうほど忙しかったんだもんね。仕方ないか。


「クリスマス、だよ。明日は」
「!」
「だからまぁ、一応私からのクリスマスプレゼントってことで受け取ってくれると嬉しい」
「…あ、うん。ありがとう」


そう言ってもう一度ぐいっと包みを押し付けると、なぜか驚いたような顔をして受け取ってはくれたカカシ。


「…なにびっくりしてんの。私がクリスマスプレゼントあげるのがそんなに意外だった?」


そりゃあたしかに去年まではお互いにいろいろ忙しかったから疎かにしていたけど。私だって一応女の子なわけで、イベント事に興味がないわけじゃないんですけど。
そう思ってむっとしたら、カカシは違う違う、と顔の前で手を振って、今度は照れたように笑った。


「あんまり会えなくても、一緒にゆっくりできなくても、同じこと考えてたってのがびっくりしてね」
「…え?」
「ま、本当は今日までに今ある仕事を全部終わらせて、ゆっくり飯でも食いながらって思ってたんだけど」
「?」


カカシはそう言って、腰に回ったポーチをまさぐった。
そしておもむろにそれを載せた掌を私に突き出してぱかりとふたを開け、すこし赤身のかかった、私の大好きな笑顔を向ける。


「俺と、家族になってください」




ぽろりと零れた涙を拭って、頷いてから抱き着いた。
fin.



Merry Christmas!!


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