私の恋人は、里の誉れ、木ノ葉一の技師など数々の異名を持つエリート忍者。いつも飄々として余裕な感じで、それでいてクールな彼を好きだという人は数え切れない。
でも、そんな彼にも付き合ってからわかった意外なところっていうのがあって。
「カーカシ」
「んー?」
ソファに座って愛読書の18禁小説を読むカカシの頬にちゅっと不意打ちのキスをする。きょとんと目を丸くしてなにが起こったのかわかってない顔も可愛いんだけど、
「………」
そのあと数秒遅れてポンっと音を立てたように真っ赤になる顔がまた可愛い。
真っ赤になった顔を手で覆い隠したことで床に落ちたイチャパラを拾って渡すと、慌てて逆さになったそれで顔を隠すところもまた可愛い。
ああ、私は重症だ。この男が好きすぎる。
こんな感じで日々カカシをからかって遊んでるんだけど、本人はどうもそれが不満みたいで。
「…俺で遊ばないでちょうだい」
「だって可愛いんだもん。しょうがないじゃん」
「あのねぇ。三十路間近の男捕まえて可愛いもなにもないでしょ」
「ね、まだ顔赤いよ」
そう言ってむすっとするほっぺをツンツンとつつくとまた赤くなったカカシの顔。
ほら、やっぱり可愛い。飽きないんだよなぁ、全然。
また私に遊ばれてムッとするカカシの頭を撫でる。
「そんなむくれないでよ。そうだ、今日の夕飯なにがいい?なんでも好きなの作るよ」
「夕飯?んー…そうだねぇ」
え、そんなに悩むこと?夕飯なに食べたいって聞いただけだよ?
顎に指を添えてじっと考えるカカシの顔を覗き込む。するとパッと何かを閃いたような顔をするカカシに嫌な予感がするわけで。
「チハルが食べたいだだだだ!!」
「どの口が言ってんの?この口か?ん?」
「痛い痛い!ごめんなさいすいません許してください!」
案の定腹たつこと言ったからほっぺを思いっきりつねってやったら涙目になったカカシ。
今日の夕飯天ぷら三昧にするぞバカ。
私がつねったことで別の意味で赤くなったほっぺをさすりながらジトッと私を見るカカシ。
「なによ」
「…なんか、ずっとチハルのペースに乗せられてる気がする」
「はぁ?」
突然なにを言い出すんだこの男は。全くもってあんたの思考が理解できないよ。
カカシとの関係が変わったのは今から二年前。
それ以前から任務の相性も良くて一緒に組むことも多かった。私は友達以上恋人未満なその関係が好きだったし、カカシになら素の自分でいられたから楽だった。だから恋というカテゴリーじゃなく、人として好きだった。
ある任務の帰り道、カカシから話があるって言われて2人きりになったとき真っ赤な顔で告白された。最初はなに言ってるのかさっぱりわからなかった。カカシが私を好きなんて信じられなかった。
でもそれ以降のカカシは何かが吹っ切れたように私にまとわりついてきた。
報告書を出すために受付に並んでいる私を見つけるとにたぁと笑って「チハルー!!」って飛びついてきたり、待機所でまったりとコーヒーを飲んでたらそれを奪って飲んで「間接キスしちゃった」ってにんまり笑ったり、任務終わりにスーパーで買い物してたら突然現れて「俺これ食べたーい」ってニコニコしながら私のカゴに勝手にサンマ入れてきたり。
私の前でのカカシはみんなの思うクールで知的な要素は全くと言っていいほどなく、むしろただのアホな子だと思うほどだった。
だけど、会うたび会うたび私にひっついてくるカカシがいつのまにか気になってて、二度目のカカシからの告白を受けて付き合ってからというもの、日に日に私の方がカカシを好きになってる気がする。
好きだからこそ彼をからかって遊ぶのが楽しくて、そしてたまらなく愛おしい。
…とはいえ、言葉にできるほど私は素直な人間ではないわけで。
「んなわけないでしょ。むしろ私の方があんたのペースに乗せられてんだから」
「いーや、俺の方が乗せられてるね」
あんたの押せ押せ作戦にまんまと乗せられたのはまぎれもなく私なんだから。だって毎日あんたの顔見るたび好きって気持ちがおっきくなってるんだから。
なんて絶対口には出さないけどね。恥ずかしいし、なんか悔しいから。
こんな終わりそうにない押し問答を早くやめたくてカカシの鼻をにゅっとつまむ。不機嫌そうに眉を寄せて「やめでよ」なんて鼻声で言うもんだからまた可愛いじゃんなんて笑ったり。はたから見たらただのバカップルだな、なんてことをしてたら聞こえてきた咳払い。聞こえた方を見ると腕を組んで呆れたように私たちを見下ろすアスマがいた。
「お、アスマ。お疲れー」
「お疲れーじゃねぇよ。おまえらここどこだと思ってんだ、待機所だぞ。他の奴ら気ぃつかって入れねーじゃねぇか」
「?? なんで?入ってくればいいじゃん」
「…あのなぁ。バカップルがピンクオーラむんむんでいちゃついてんのにそこに入るなんてどんな勇者だよ」
「え、だってアスマ入ってきてんじゃん。なら大丈夫でしょ」
「俺はおまえらをどうにかしてくれって入ってこれなかった奴らに頼まれたんだよ。ったく、マジでいい加減にしとけ。いちゃつくなら家帰ってやれ」
ガシガシと頭をかいて眉間に皺を寄せながら深いため息をつくアスマ。
なんだよ髭。自分だってよく紅といちゃついてるくせに。
ジトッとアスマを睨んでいると、私の腕をとって立ち上がったカカシ。何が起こったのかわからなくてカカシを見ると時計を指差す。それはちょうど待機が終わる時間を指していた。なるほど帰るってことねと立ち上がると、カカシがアスマを見て口を開いた。
「アスマ」
「あ?」
「紅が中期任務でしばらく帰ってこれないからって俺たちに当たるなよ」
「!なっ!?べ、別にそんなんじゃねぇよ!!」
ははーん、そういうことね。だからいつにも増して機嫌悪かったんだアスマのやつ。自分が紅といちゃつけないからいちゃいちゃしてる私たちが羨ましかったんだ。
理由がわかってアスマに向かってにたにた笑ってると「違うっつってんだろ!」って必死になってて笑った。
「あーはいはい。じゃあ帰ろっか、チハル」
「うん。スーパー寄って夕飯の材料買って帰ろ」
「りょーかい」
「今日はサンマがいいなぁ」
「一昨日食べたじゃん」
「サンマなら毎日でもいいよ俺」
そんな所帯染みた会話をして幸せに浸りながら、自然にぎゅっと手をつないで待機所を出た。
好きなんだからしかたない
fin.