んふふ、と鼻歌混じりに覚束無い足取りで歩く一人の少女。
その手にしっかりと抱かれる風呂敷包みは、きっと目の前のこの建物の最上階に位置する部屋にいる人物へのもの。


「こんにちわっ!」
「はぁい、ネムイちゃんこんにちわー」


受付にいるくノ一が、慣れたように少女に笑いかける。
誰に会いに来たのか、何の用で来たのか。
わざわざ聞かずとも、皆それは周知の事実。


「いってきますっ!」
「はぁい、気をつけてね」

「はい、これいつものね」
「ありがとう!」


もらったお菓子を大事そうにポケットに入れてにっこりと笑うその姿に、受付を担当するくノ一は日々癒されている。

変わらずとてとてとした足取りで階段を登り、あっという間に目的の部屋の前。
一丁前にこほん、と咳払いをしたネムイは、小さな手を丸め、こんこん、とノックをした。


「へーい、誰ですかァー」
「らいかげさま、おひるごはん、おもちしましへぶっ」

「ネムイ〜〜待ってたよ〜〜」
「ぱ、ぱぱ…」


ネムイが母親に教わった言葉を言い切る前に、恐ろしいほどの勢いで扉が開き、そこから出てきた大男がネムイを力いっぱい抱きしめる。
ネムイは慣れたように風呂敷包みを左手に移し替え、どうにか崩れるのは防いだ。

この男、里長の五代目雷影たるダルイは、ネムイの父親。
一人娘であるネムイへの愛情は凄まじく、補佐役を務めるシーは「ダルイはネムイで動く」とドヤ顔を披露するほど。


「ぱぱ、おひげ、いたい…」
「そんなこと言わないでよネムイ〜パパずっとネムイがちゃんと来れるか心配で…」
「なぁダルイ、そろそろ残りを片付けようよ」
「ちゃんとこれたよ!うけつけのおねえさんに、おかしもらった!」
「なぁダルイって…」
「そっかそっか〜良かったなァ」
「うん!」
「ママは?平気だったか?」
「ねぇ無視しないで」
「うん!ぱぱといっしょに、ごはんたべておいでーって!」
「そっかそっか〜よし、そうと決まりゃすぐ行こう」
「俺を無視するなァァ!!」


ネムイに格好良い父親だと思われたい、と最近髭を伸ばし始めたダルイは、その生えた髭をネムイのつるつるの頬に擦りつけながら至福な表情を浮かべる。
そんな親子に我慢ならなくなったシーが叫ぶと、ネムイを抱きしめたまま、やる気が削がれるような半開きの目をダルイは向けた。


「…なんだシー。いたんすか」
「さっきからいたわ!!ずっと残りの仕事あるって言ってんだろ!」
「ネムイとの貴重なふれあいの時間を邪魔するとは無粋な」
「うるせぇ!!さっさと片せアホ!!」
「へいへい」
「ネムイ、パパはちょっとだけ先にお仕事するから、そこで待っててくれる?」
「わかった!」


ダルイがシーに叱責されてちらちらとネムイを見ながら書類をさばいていく傍ら、ネムイは我関せずとシーの言いつけ通りソファに腰掛け出してもらったジュースを飲む。

ダルイの妻でネムイの母親、チハルは、現在第二子を妊娠中。
安定期間近とはいえ悪阻が酷く、四歳になったネムイに任務という名でダルイへのお昼ご飯を届けさせ、自宅で安静にしている。

ネムイ至上主義のダルイではあるが、自身の妻であるチハルにもその愛は向けられる。
毎日やってくるネムイに母親の状態を訪ね、悪いようなら仕事の手を止めてでも自宅へと急ぐ。

家族というものを知らずに育ってきたダルイにとって、この二人と新たに増えるもう一人の宝物が、何よりも優先されて大切なのである。


「よし、午前中のぶんはこれでいいだろ。ダルイ、家帰んのか?」
「いや、今日はやめときますよ。ネムイお待たせ〜〜パパとご飯食べよ〜〜」
「うん!おなかへった!」

「今日は公園でも行きますか?」
「やった!あしょぶー!」
「その前にママの作ってくれたご飯食べようねェ」


片腕にネムイ、もう片方に妻の作った弁当を下げデレデレと表情を崩しながら出ていくダルイの背を見送り、シーは頬を緩めた。




fin.



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