「…今年も来たんだね」
「…あぁ」


木ノ葉の里の共同墓地の端。草の根をかき分けた先にある少し開けた場所にぽつんと立った石の前には一人の男の姿があった。

木ノ葉の忍としてそろそろ長く生きてきているけれど、私の周囲の人間からのこの男に対する評判はすこぶる悪い。

“同族殺し”
“裏切者”
“大罪人”

そんな言葉を聞くたびに、何度飛びかかりそうになる自分を抑えたことか。
この人はそんなに悪い人じゃない。むしろ誰よりも優しくて、誰よりも仲間のことを、里のことを想っている人なのに。


「あれから何年経ったっけ」
「…六年だ」
「…そっか、もうそんなに経ったんだね」


男をすっと抜き去り、石の前に跪いて持ってきた花を添える。


「シスイさん、今年もイタチ、帰ってきたよ」


そんな言葉も忘れずに。


「…」


イタチは、私と二人で建てた誰にも知られていないシスイさんの墓の前に、毎年この日になるとやってくる。

今日はシスイさんの生まれた日。
シスイさんが生きていてイタチが里を抜けていなかったら、きっとこの日は私たちにとって今以上に大切で、そして幸せな日になっていたことだろう。

全てが変わってしまった理由はただ一つ。
私達うちは一族の大人たちが、あの時、里にクーデターを企てたせい。


「サスケ、すごく強くなってるよ。アカデミーでもいつもトップだって」
「…そうか」
「…あんたを、殺すって」
「…そうか」


シスイさんが那賀ノ川に身投げをして自害したと聞いた時、あぁ、ついにこの時が来てしまったんだと思った。
そのすぐ後にイタチに呼び出されて事の顛末を聞いた。そして、うちはに灯ってしまった悪の火を、俺の手で消そうと思う、とも。

私は止めなかった。
イタチが優しいのは誰よりも知っている。他人の手を汚すくらいなら自分の手を悪に染めるほうをこの男ならきっと迷わず選ぶだろう。

私も一緒にやる、そう言ったらこの男は薄く笑ってそれを制した。
おまえに託したいものがある、おまえの手を赤く染めるわけにはいかないんだ。
この男はそう言って、その日の夜に私とサスケ以外の一族のみんなを殺して里を抜けた。

“シスイが自分の命を賭して俺に授けてくれたものを、今度はおまえに任せるよ”

最後に言われたその言葉を胸に、シスイさんもイタチもいない木ノ葉隠れの里で、私は生きている。


「本当なら、今日はおめでたい日なのにね。私たちの親友が生まれた日なんだもん、イタチと一緒に、おめでとうって言いたいのに」
「…」
「毎年この日になると、シスイさんがいないことが虚しいくらいに悲しくなる。シスイさんがいたら、イタチがいたら、そんなことばっかり思ってるんだよ私」
「…」
「…こんなこと言ってごめんね、でも今日だけ、」


大好きな二人の前でだけ、弱い私を許してほしい。




fin.


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