「…ふぅ」


いつも通り任務を終えて、アカデミーの屋上で缶コーヒー片手にたばこをふかす。でもなんだか今日は、いつもより疲れたような気がする。


それはきっと、今日がカカシの誕生日だから。


いつもなら、行き交う人の笑い声が絶えないのに、今日に限っては血眼になってカカシを探すカカシファンの「カカシさんはどこなの!?」って声ばっかり。一日中こんな声を聞いてたらなんかおかしくなりそう。

半年前、私とカカシは晴れて恋人っていう関係になった。
だからといってカカシを探し出そうと躍起になってるあの子達に嫉妬してるわけじゃない…と自分に言い聞かせてる。恋人になったからってカカシを独占していいわけでもないし。とはいえ付き合って初めてのカカシの誕生日だから、今日っていう日を特別な日にしたかった。

だいたい私は可愛い彼女じゃない。カカシを前にしたらいつだって素直になれないし、普通の女の子みたいにすり寄って甘えることもできない。

そして今日もまだ、カカシに会ってすらいないわけで。


「…はぁ」


一年に一度のカカシの誕生日も、半分が終わった。
夕暮れが照らし始めた里は、いつ何回見ても綺麗だ。

はっきり言うと私は今、めちゃくちゃ黄昏てる。
カカシに素直になれないぶん、会ってないときに自分の本心と語り合ったりしてるわけで。

カカシは私を、すごく大切にしてくれてると思ってる。あいつ忙しいのに、少しでも私と会う時間を作ってくれてるのもわかってる。同じ上忍だから、それがいかに大変なことかもわかってるんだけど、可愛くない私はそれを素直に嬉しいとは言えず、無理しないでいいよ、なんて私ならこんな奴と付き合いたくないって思うような返答しかできない。

無意識に、ポーチに手を添えた。

誕生日プレゼントも買ったのに、きっと渡すことはできないだろうな。
本当はサプライズだってしたかった。素直じゃない可愛くない私にだって一応女心ってものはあるから、カカシが休みだって前々から知ってたし、今日に向けてどうしようかずっと考えてはいた。

昼間はゆっくりしたいだろうし私も任務があるから、夜は二人でいつも行かないようなちょっと高いお店にご飯を食べに行って、食べ終わった後にプレゼントを渡す。そしたらカカシは嬉しそうに笑って、ありがとうって抱きしめてくれるんだ。

思い描くのは簡単なことだけど、それを実行に移すのが怖かった。もし誘っても断られたらどうしようとか、嫌そうな顔されたらどうしようとか。だからずるずる先延ばしにしたまま今日になっちゃったんだけど。

カカシにはもっと、私より似合う人がいるはずで。強くて可愛くて、素直で笑顔の似合う人が。それは決して、私じゃない。

でもなぜかカカシは私を選んだ。


「…わっかんないな、あいつのこと」


これが、いつも私の考えの行き着く先。
いつもここで、考えるのをやめちゃうんだ。


「誰のことがわかんないって?」
「!」


自嘲気味に笑ってたばこをもみ消してれば背後から突然聞こえたそんな声にぴくりと肩を震わせた。私の隣で柵にもたれるカカシ。不意打ちだったけど、誕生日のうちに会えた、と心のどこかで喜んでる私がいる。


「水臭いじゃないの、こんなところで一人で一服なんてさ」
「…任務終わって時間あったから」
「ふーん」
「…カカシこそ、わざわざ休みの日にまで出勤?家でゆっくりしてればいいのに」
「家にいたってうるさいやつらが次々来るから休まんなかったんだよ。それならと思って今日は一日アカデミーの仮眠室にいた」
「へぇ」
「ね。たばこ、一本ちょうだい」
「…あんたいつも吸わないでしょ」
「今は吸いたい気分なの」


「ほら、ちょうだいよ」と催促してくるから一本渡して、煙を吸い込んだカカシは案の定げほげほ咳き込んだ。「ほら、言わんこっちゃない」と背中を摩りながら呆れたため息を吐く。


「…こんなまずいものよく吸えるね」
「慣れれば美味しいよ」
「…慣れるまでが大変そうだ」
「まぁね。でもなんで急にたばこ?あんたむしろ嫌いじゃなかったっけ。臭いーとかなんとか言って」
「…」


残りを吸いながらそう問えば、カカシはバツが悪そうにそっぽを向いた。


「…カカシ?」
「…チハルと、同じ趣味を持ちたかったんだ」
「!」
「だって俺らって共通の趣味とかないし、俺がお前と同じ趣味を持てるとしたら、たばこしか思い浮かばなかった」
「…」
「だから挑戦してみたけど、やっぱ俺にはたばこは合わないみたい」
「…」
「半年も付き合ってたら見つかると思ったんだ。好きなものとか、したいこととか同じことを。でも俺おまえのことさっぱりわかんなくて」
「…」
「休みの日は何してるんだろうとか、誰と遊んだりするんだろうとか。どこに飲みに行くんだろうとか、今日もいろいろ考えてた」
「…でもよく一緒にご飯行ってるじゃん」
「それは俺の好きな店でしょ。いつも俺が誘って、俺が店を選んでる」
「…」


言われてみれば確かに。
私からご飯に誘う勇気がないから、いつもカカシが誘ってくれるのを待ってた。だから言われてみて、確かにそうだなと納得してしまう。


「…それに、今日だって、」
「…」
「…お前が来てくれるのずっと待ってたのに、いつまで経っても来ないし」
「…ごめん」
「俺も必死なわけよ。お前が俺のとこからどっか他の男のとこへ行かないように、繋ぎとめようと必死なの」


「わかる?」
そう呟くカカシの横顔が、いつになく情けなく見えた。
断られるのが怖かった、なんてそんなの言い訳だった。少しくらいの勇気なら私にもあったはずなのに。ひとりで悩んで、ひとりで塞ぎ込んで。カカシはこんなにも私を思ってくれてるのに、私はカカシのことを何一つ考えてなかった。

カカシはカカシで、ずっと私とのことを考えてくれてたんだ。だったら、もし断られたとしてもいいじゃん。こうなったら当たって砕けろだ。


「…カカシ」
「…」
「…これ、あげる」
「!」


ポーチからプレゼントの包みを出して、顔を見ずに差し出した。
本当は顔を見て渡したいけど、これが今の私に出来る精一杯。


「…これ、」
「…見ればわかるでしょ、誕生日プレゼント」
「…っ」
「…今日、本当はいろいろ考えてた。夜は二人でご飯食べに行って、その帰りに渡そうとか、でもカカシが嫌がったりしないかなとか、断られたらどうしようとか、ひとりでいろいろ考えてた」
「…」
「…今日に、ちゃんと渡せてよかった」
「…チハル」
「でも、あれだよ?気に入らなければ捨ててくれていいし、とりあえず受け取ってくれればそれでいいから」
「…」
「私、誰かにプレゼントあげるとか初めてだし、何あげたらいいかわかんなくて、よくわかんないもの買っちゃったし。でも自分で使うのもあれだから、もらってくれると助かる」
「…」
「…それじゃ、疲れたから帰るね」


そう言ってたばこをもみ消して踵を返せば、「待って」と腕を掴まれる。
そのまま立ち止まってカカシの腕が離れたのと一緒に、ゆっくり振り返った。


「開けてもいい?」
「…ど、うぞ」


私の言葉を聞いたカカシは、丁寧に包みを開く。そして箱を開けて中身を確認して、パッと私を見た。


「これ、マグカップ?」
「…これからの季節冷えるでしょ。だからそれで温かいものでも飲んでって意味で…」
「…ありがとう、すっごい嬉しい」
「!」


そう言ってカカシは、宝物を見つけた子供みたいに両手でマグカップを握りしめて笑った。


「何がいいって、ペアってところだよね。これで一緒に温かいもの飲んで、一緒にゆっくり出来るでしょ?」
「…そう、だね」
「このカップをチハルが使うってことは、つまり俺と一緒にいるってことで、つまりそれは俺とチハルが一緒にいるってことだもんね」
「…一緒にいるしか言ってなくない?」
「細かいことは気にしない。あー、ほんっと嬉しい!」
「え、ちょっ!」


アカデミーの屋上で人がいないとはいえ公衆の面前で思い切り抱きしめるのはやめてほしい。嬉しいけど、恥ずかしいけど、…やっぱり嬉しい。

たまには素直にならないとな、と思って、初めて抱き返してみる。


「じゃあチハルちゃん、今から俺の家に行って、このカップで一緒にコーヒーでも飲もうよ」
「…」
「せっかくの誕生日だし、おまえと一緒にいたい」
「…っ、うん」
「よし、じゃあ早速行こう」
「うえっ、ちょっ、」
「ほーら、早く」


いつになく嬉しそうなカカシに腕を引っ張られながら、どこかでもっと早くこうしてればと思った私がいる。


「カカシ」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
「…ありがとう」


最後にとびきりの笑顔でこう言えたから、私はもう満足だ。




あんたが好きだと言葉にしよう
fin.


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