サクモ先生は、いつも惚れ惚れする戦い方をする。

静かに、でも力強く、先生の背から抜かれるチャクラ刀。
“白い牙”の異名の通り、まるで獣のように敵に食らいついていく姿。
みるみるうちに伸されていく無数の敵。
そして笑顔で、大丈夫かと、返り血を浴びながらも私に笑いかけてくれる姿。

どれをとっても、私はきっと一生、先生には敵わないんだと痛感させられる。


「……がはっ」



そして今日もまた、憧れの先生には敵わないんだと痛感した。



「なんだなんだァ。木ノ葉の白い牙の愛弟子はこんな弱っちぃやつなのか。聞いて呆れるぜ」
「…」
「違いねぇ。期待して損したぜ」
「強いのは師匠だけ、その弟子は師匠の顔に泥を塗る不孝者ってか」
「笑えねぇよそれ。いやでもなんか笑っちまうよな!」
「…っ」


そんな風にがはがはと下品に笑う目の前の男二人を睨みつけながら、腹の奥から口に溢れてくる血を吐いた。


情けない。
悔しい。
不甲斐ない。


私はこんなもんじゃない。先生と一緒にいた時間はたしかに短かったかもしれないけど、でも先生に教わったことは絶対無駄じゃない。

こんな私でも先生は“おまえは大切な弟子だ”って言ってくれた。頭を撫でてくれた。何度も何度も、覚えの悪い私に見切りをつけないで、つきっきりで修業を見てくれた。


「しっかしよォ、その木ノ葉の白い牙も、もうこの世にはいねぇんだよな」
「!」
「あぁ。たしか、掟を破って仲間を守った挙句、その仲間に攻め立てられて自害したんだっけか。実力はあっても精神的に弱いんじゃ、この世界では生きていけねぇよな」
「…っ」
「ざまあねぇな。他国に名を轟かせるほどの実力があったところで、そんなことで自害するたぁ情けねぇ野郎だぜ」
「たしか奴にゃ一人息子がいたんじゃなかったか。たしか……そうだ、カカシとか言ったか」
「その息子もどうせ父親の二の轍を踏むことになるんだろうよ。忍としての実力はあっかもしんねぇが、中身が父親譲りだとは不憫なガキだぜ」
「……にするな」
「あ?なんか言ったかガキ」


そんな下品なこいつらの言葉を聞いて、私の中に芽生えたのはとてつもなく明確で、そして紛れもない、殺意。
私のことはいくら言ってもいい。いくら弱いだのなんだのと罵られようが、それは事実なんだから仕方ない。

……でも、


「…私の大切な先生を、大切なカカシを……お前らみたいなゴミが馬鹿にするな」
「!!」
「! な、なんだ!?」


サクモ先生とカカシを馬鹿にされたことに対する怒りが、私の限界を超えさせたらしい。
今まで感じたこともないくらいのチャクラが身体中から湧き出てくる。

そっと、いつのまにかずり落ちていた口布を引き上げて、腰の愛刀を鞘から抜いた。


落ち着け。先生から教わったことを、冷静に思い出すんだ。


「っこのアマ…こいつのどこにこんな力が…!」
「うろたえんな!奴は手負いだ、二人がかりで行って倒せねぇわけねぇだろ!」


さっきまでの余裕は何処に行ったのか、そんな風に狼狽える敵忍を静かに睨みつけ、ぎらりと光る愛刀にゆっくりと、そして確実にチャクラを流す。

この術は、私が先生から学んだ、最初の術だ。


「行けェェ!!!」
「…雷遁・雷刃鋭槍」

「……ぐあっ」


雷のチャクラを流した愛刀を目の前の男たちに向かって突き立てれば、そこから伸びた雷の槍が男たちの腹に突き刺さった。男たちはそれぞれ口から大量の血を吐く。


「私のことはいくら言ってもいいさ。でもサクモ先生やカカシのことは絶対悪く言わせない」
「…こ、の…アマ……っ」
「あの二人は私にとって自分の命よりも大切な人なんだ。その二人を私の前でこき下ろしたのがお前たちの死因だ」
「……クソ、が…!」
「せいぜいあの世でこのことを後悔するがいいさ。最も、死んだあとじゃ後悔することすらできずにあの世を彷徨うことになるんだろうけどな」
「…っ」
「……くたばれ、腐れ外道」


そんな捨て台詞と一緒に奴らの腹に刺さった雷のチャクラを乱暴に抜けば、そこからまた大量の血が噴き出して、奴らはそろって絶命した。
血の池がどんどんと大きくなっていく中、私は呆然とその光景を眺めていた。


先生のように、美しい戦い方をしたかったはずなのに。
先生のように、無駄な殺し合いをしたくなかったはずなのに。

私はどんどんと、血に塗れていく。自分が赤く染まっていく。


力をなくした腕からは愛刀が滑り落ち、かしゃんと寂しげな音と一緒に地面に転がる。
途端に足にも力が入らなくなって、膝から崩れ落ちるように地面につく。


こんなに弱い私じゃ、先生のようにはなれない。
こんなに弱い私に、カカシを守れるわけがない。


懺悔にも似た涙が、流したくもないのにどんどんと溢れて止まらない。
こんなに我を忘れる自分が情けなくて、悔しくて、その気持ちは涙となって溢れる。


「チハルさん!!」
「っ!」


背後にあった森からそんな叫び声とともに現れたのは、サクモ先生が私に託した、大切な宝物。
もう二つ感じた気配は、カカシの指示にしたがって私が始末した男二人に向かっていった。


「チハルさん」
「…」
「チハルさん、俺を見て」
「…」
「ねぇ、お願い」
「…っ」


そっと泣き崩れる私の正面に膝をついたカカシは、そう言いながら私の頬を両手で挟んで顔を上げさせる。やっとのことで合わせたカカシの目は、どこか安堵にも似た色を灯していた。それがとても先生に似ていて、私の目からはまた、涙が零れる。


「怪我は?」
「…」
「痛む?」
「…」


気遣わしげに問うてくれるカカシにただ首を横に振れば、はぁとため息を吐いたのち、逞しくなったその体で、私のそれを包み込んだ。


「!」
「チハルさんはいっつもそうだ。無茶ばっかりして、俺に心配ばっかりかける」
「…」
「俺だってもう、守られるだけじゃないんだよ。俺だって一緒にいろんなものを背負いたいし、俺にいろいろ分けてほしいと思ってる」
「…っ」
「…お願いだから、俺に、チハルさんを守らせて」


七つも年下の、生まれたときから知ってる子に言われたそんな言葉に、いつになく安心してる私がいる。






fin.


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