main | ナノ


▼ 目尻の赤みは残っていても

ありさは米花町を歩いていた。とある事件で、警視庁の鑑識官として呼ばれたのである。

裏で警察庁に出向している身としては、雲隠れに協力してくれる警視庁には感謝の言葉もない。おかげで多少のことがあっても警視庁の鑑識官と思われるだけで済むのだ。公安として機密に関わっているとたどることは難しい。組織を追うにあたり、こんなに動きやすいことは無い。

それにしても、今回の事件は骨が折れた。珍しくあの小さな探偵のいない事件。バラバラの遺体。捜査は難航し、警察官の拘束時間もとても長かった。
深夜に呼び出されたのに気づけばもう夕暮れ。辺りはオレンジに染まっていて、歩く影は長く伸びている。公園の前を通りがかれば、鬼ごっこをしているのだろうか。走り回っている子どもたちが見えた。

「きゃっ!」

振り返りながら走っている少女が小石につまづいて転んだ。ぺしゃりと膝から地面に着地した少女は、手のひらを地面に押し付けて起き上がろうとしている。
「歩美ちゃん!」
去ろうとしていた男の子が慌てて駆け寄る。気づけばありさも泣き出しそうな少女の元へ走りよっていた。

「大丈夫ですか?」
優しく声をかけると、少女は恐る恐る顔を上げた。
涙に濡れた瞳がありさを映すと、みるみるうちに瞼に溜まった滴がこぼれ落ちていく。
「痛いよぉ」
痛い痛いと泣く少女の膝は擦りむけて、血が流れている。確かにこれはかなり痛いだろう。ありさは鞄からガーゼを取り出した。仕事帰りでよかった。本来証拠品などを扱うために持っていたガーゼだが、急な手当には申し分ない。残念ながら消毒液は持ち合わせていないが。
「うわぁ、血出てんじゃねえか!」
後から追いついた体格のいい少年が、痛々しそうに顔を歪める。どうやらこの3人で遊んでいたらしい。少女に大丈夫ですよと声をかけながら、膝を伝う血が靴下に付いてしまわないようにガーゼで拭って、公園内の水場に連れていく。

「しみると思うけど、我慢してくださいね」
うん。と返事をした少女を一目して、その傷口に付いた砂を綺麗に洗い流した。
「よく我慢できましたね。いい子ですよ」
洗っている最中、痛みに顔を歪めていた少女の頭を一撫で。

不安げに見守る男の子達にベンチに行くように促して、少女の手当をしようと新しいガーゼを取り出す。
「お姉さん、手当て上手ですね」
最初に駆け寄った男の子が感心するように手元をのぞきこんでいる。
「そうですか?私のお父さんとお兄ちゃんがお医者さんなんですよ。私も元は医者になりたかったんです」
それでかもしれませんねと微笑みかけた。
「じゃあ今何やってんだー?」
「今はね、警察官です。鑑識官ってわかりますか?」
「僕知ってますよ!現場に残された証拠を探したり分析したりする職業ですよね!」
「あら、詳しいんですね」
「俺たち会ったこといっぱいあるからな!」

いっぱい…?

誇らしげに言う言葉に違和感を覚える。こんな小さな子たちが警察と面識があるなんて。それも1度や2度ではないらしい。

「遅くなってごめんなさい。私は警視庁鑑識課高峰ありさです。ねえ、自己紹介してもらえますか?」

彼らと会うのは初めてだが、何回も警察にあっているという彼らのことをもしかしたら知っているかもしれない。いや、知らなくたって把握しておきたい。ありさは彼らと視線を合わせて、にこりと微笑み和やかな雰囲気をつくる。こういうことは彼女の得意分野だった。

目の前の彼らは一度目を合わせてから頷き合う。

「私、吉田歩美!」
「僕は円谷光彦!」
「俺は小嶋元太だ!」

「三人合わせて、少年探偵団!」


息をぴったり合わせて元気よく彼らは名乗りを上げた。想像していなかった挨拶に、ありさはぽかんとしばし呆気に取られていた。

「少年探偵団?…ああ!」

オウム返しに小さく呟いたその名には聞き覚えがあった。確か美和子が少年探偵団という小学生がいると。そんな話を一緒にお昼を食べたときに言っていた。彼女いわく、何回も現場で遭遇しては、大人顔負けの度胸と行動力で事件解決に貢献しているとか。そしてその中にはコナンくんもいると。

(ここにいるのは三人。コナンくんを入れて四人。美和子の話では五人だったような)

「知ってますよ。同僚に聞きました。あなた達だっんですね!もしかして、コナンくんのお友だちですか?」
「そうですよ!僕達の他にコナンくんと灰原さんもいるんです!」
「コナンのこと知ってんだな!」

ああやっぱり。灰原さんとは美和子が大人びた女の子だと称していた子のことだろう。その五人が、事件解決に貢献してくれているのか。

「じゃあね、今からコナンくんに会いに行こうよ!」

歩美の口から出た一言に彼はらいいですね!と同意を示している。お姉さんも!と袖をにこやかに引っ張られた。

これからの予定は、今日の事件の報告書のまとめだけである。ありさは目の前の小さな探偵たちに興味がわいていた。普通はできないことをやってのける彼らの話を聞いてみたい。ありさはその誘いに乗ることにした。
「いいですね。膝の痛みはどうですか?」
ありさは話しているうちに泣き止んではくれたが、まだ目の赤みが残る歩美に声をかける。少女の様子からすると、おそらくはもう大丈夫だろう。
「うん。もう大丈夫だよ!おねえさんありがとう!」
にっこりと笑ってくれた少女は可愛らしい。ありさ
はその頭をひとなでして、よかったですと微笑んだ。

「コナンくんに会いに行くついでに、普段あなたたちは警察がお世話になっているようなのでお礼をさせてはくれませんか?」
お礼?と彼らは揃って首を傾げる。それにありさは頷いた。
「はい。歩美ちゃんが頑張った御褒美も含めて。私も次々に事件を解決してる探偵さんたちとお話してみたいんですよ」
「私も話たーい!」
「コナンなら今は家じゃねえか?」
「僕、連絡して見ます!」

会話が弾む様子は見ていて心地よい。子どもは元気なのが一番である。ありさは微笑ましくなって、目を細めた。

「なら、コナンくんのお家の下にあるポアロでお茶にしましょうか。なんでも好きなのを食べていてですよ」

やったー!と子どもたちから歓声が上がる。光彦くんがかけていた通信も繋がって、コナンくんは先にポアロで待ってることになったらしい。


「変わったものを持ってるんですね」
「これは、探偵バッチというんですよ!阿笠博士が作ってくれんです!」
光彦くんが誇らしげに探偵バッチと呼ばれたそれを見せてくれた。どうやらこれは、バッチ型をした小型通信機のようである。通信機のみの機能でもなかなかここまで小さくはならない。すごいものを作る人がいるんだなと思っていると、阿笠博士が作ってくれるんだよ!と歩美ちゃんが教えてくれた。
「阿笠博士って?」
「すっげーもんをいっぱい作ってるんだ!」
彼らの楽しそうな様子に、恐らく随分とその阿笠博士という人にお世話になっているのだろう。

(多分、コナンくんのシューズ関連はその阿笠博士という人が作っているんでしょうね)

こんなすごいものを三つ四つと作る人だ。あの手のものも作れてしまうのだろう。
彼と会うときは大概事件の時で、あまり話すときはない。今度あったら聞いてみよう。ありさはお礼を言いつつ、探偵バッチを光彦くんに返した。
それから他愛もない話をしつつ、一行はポアロへ向かった。

prev / next

[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -