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  マルベリーロマンス編


マルベリーロマンス番外

まだ日が昇る前の早朝。
多くの人がまだ眠っている時間に男は静かにベッドから降りる。

AM5:30

これが男の起床時間。顔を軽く水で洗い、身支度をさっと整えて外に。今日の天気は快晴。足取り軽くアスファルトを蹴る。スマートウォッチにタイマーをセット、音楽を流しながら軽快に走っていく。

AM6:30

マンションの中のジムで軽く汗を流し、シャワーを浴びる。頼んでいたクリーニングのワイシャツをコンシェルジュから受け取り、ニュースを流しながら軽い朝食。コーヒー、ヨーグルト、フルーツ。簡単に用意できるもので済ますことが多い。

AM7:15

鏡の前で最終チェックをして、駐車場へ。電車で通勤してもいいが、満員電車は嫌いだ。自分のペースでいける車通勤にしている。BGMは英会話。耳から入れることで上達も早くなる。ビジネス程度なら話せるが、もう少し話せた方が仕事にも活かせるはずだ。

AM8:00

会社に到着。いつも早く来ている人は決まっていて、自分もその中の一人。PCの起動を待ちながらスマホをタップ。今日はまだ送っていない彼女へのモーニングメール。すぐに返事が返ってきて思わずにやけそうになる頬をそっと抑える。

AM9:00

始業時間。さっきまで周りにいた騒がしい女達はそれぞれの場所に向かう。慣れた光景だが、鬱陶しいことこの上ない。付き合うことになった時夏に付き合っていることを言いたいといったことが一度あるが、断られた。

「峯は別にいいかもしれないけど、私は困る。」

「なぜ?」

「峯は人気だから…。」

「それなら俺の方で何とかする。」

「ううん。そういう問題じゃないよ。とりあえず、もう少し待ってもらえないかな?」

あの時はそこで折れた。けれど、やはり折れなければ良かったと思う。離れた場所にいる彼女。いつどこで声を掛けてくる輩が現れるのかわからない。牽制という意味も込めて彼氏がいるということは大事なことだ。

【おはよう!今日も1日お互い頑張ろうね!】

彼女から来た朝のメッセージを見ながら、複雑な心境になる。

PM13:00

昼食が終わった時間を見計らって訪問。今日は彼女から引き継いだ真島建設へ。変わらずこの現場は騒がしい。そう思いながら、目的の相手を探す。

「社長、お疲れ様です。」

「おぉ、来たんか!」

変わらず陽気な社長だ。しかし、内心はまだよく掴めていない。まぁ、裏はあるだろう。大吾さんのいる東城会の幹部の一人なのだから。大吾さんからは、担当するようになってから真島さんのことを少し聞いた。大吾さんの話ぶりからすると、手を焼いている存在といった所だった。

「この前、話していた資料をお持ちしました。」

「変わらず、固いのぅ、峯チャンは。」

「はぁ…。」

資料を手渡そうとすると、事務所で話そかと言われて後についていく。この人との距離感が未だに掴めていない。彼女はかなり良くしてもらっていたようだった。それは、彼女から聞く話し振りでよくわかっていた。

「じゃあ、説明しても宜しいでしょうか?」

「それはええねん。今日はな、最近どうなんやろなぁって思ってな。」

「最近…ですか?」

そう言い返すと、真島さんは嬉しそうに夏チャンのことやと一言。思わず、仕事用の顔が崩れそうになるが、そこをぐっと耐えて元気にしていますよと一言。

「そんなんわかっとるわ!どない仲良うしとるか気になるや!ゴロちゃんは!」

俺の肩を強めにバンバン叩きながら圧を掛けてくる真島さん。渋々、最近会った時の話をすると嬉しそうに話を聞いている。まるで、それは女性同士のする恋バナのような感覚になって、ものすごく恥ずかしい気持ちになってくる。

「ほぉ、仲がええようで、ゴロちゃんも満足や。」

「ありがとうございます。」

コホンと咳払いをして、仕事の話に戻す。真島さんもようやく聞く態勢になったのか、ヘルメットを机にどさりと置く。いつもそうだが、ここの訪問は時間がかかる。後の予定をうまく考えないといけない。まぁ、ここは会社にとっても大口先なので時間を使うことに関して問題はない。

「じゃあ、また来週訪問させて頂きます。」

「おぅ!せや、峯チャン?」

「はい?」

「俺も早よスピーチしたいから、ええ報告待っとるで。」

「スピーチ?」

「アホ!2人の結婚式のことに決まっとるやろ。」

「はぁ…。」

まだ付き合ったばかりなのに…と彼女はそう思っているだろう。けれど、俺は違っていた。早く一緒になりたいと。彼女の事情は勿論、分かっている。その内、今後についても話していかなければいけないと。

人の苦労も知らないで…。

変わらず真島さんの考え方は楽観的で羨ましい。今日のように彼女の話をすることもあれば、真島さんの奥さんの話を聞く時もある。ベタ惚れのようで、いつも楽しそうに話をしている。この人のことを掴めない人だと思っているが、好きな人の話をするときの顔は嫌いじゃない。それはきっと自分も同じだから。

PM16:30

「そうですか。社長は1週間、不在なんですね。」

「すみません…。関西の方でどうしても外せない用がありまして…。」

「関西?」

「はい。大阪の方の現場でトラブルがあって、そこを処理してから戻ってくるそうです。」

「もし、そちらに向かえば、社長に会えますか?」

「はい!忙しいようですけど、会える時間は取れると思います。」

「わかりました。」

外に出てから上司に電話をして、了承を得る。電話を切った後、ふっと笑みが零れる。さて、どうしようか。突然できた予定。スケジュールを組みなおしながら、彼女に連絡しようか悩む。まぁ、いいか。ここは彼女の驚く顔を見たい。急いで準備をして、大阪へ。

PM20:00

家に一旦車を置いて、支度を済ませて関西に。あちらこちらでなされている会話の言葉がどこかあの社長を思い出させるようでいつ来ても慣れない。けれど、昔よりは随分ましだ。それは、この地に彼女がいるからだろう。

変わらず、遅い帰宅だな。

彼女から鍵をもらっておけば良かったと今更ながらに思う。まぁ、離れているのですぐに向かえることはできないのだが。

そしてその時は突然やってくる。

カツカツカツ…。

ヒールの音と共に彼女の姿を視界にとらえる。逸る気持ちをそっと抑えて彼女の背後に近づく。しかし、彼女は気づかない。電話をしているようだ。後輩に何かアドバイスをしているようで周りに気が付いていない。

何とも歯痒い。

「うん。それで良いと思うよ。じゃあ、頑張ってね。」

さすがに、電話の最中に邪魔をするようなことはしたくなかった。ようやく電話が終わり、彼女はそっとため息をついている。今が、その時だ。

「疲れてるようだな。俺が癒してやろうか?」

「えっ…。」

彼女は驚きのあまり、しばらくその場に立ち尽くしている。肩に掛けていた鞄がどさりと地面に落ちる音、泣きそうな顔で俺の胸に飛び込んでくる。

「なんで、いるの?」

「なんでだと思う?」

峯の意地悪と言葉では言いながら、自分をそっと抱きしめる彼女。それは想像以上の反応で、やはり連絡しなくて良かったと思う。彼女の顔をそっとあげて、まずは再会のキスをひとつ。

PM22:00

「着替えここに置いておくよ。」

「あぁ、悪い。」

浴槽から彼女の姿が垣間見える。なんだろう、この暖かい感覚は。一緒になると、こんな感覚が毎日続くんだろうなぁと自然と頬が緩むのを感じる。堪らない気持ちになって、彼女に声を掛ける。途端にどうしたのと声が。浴槽から出て、扉を開ける。彼女は驚いて、洗面所を出ようとしていたが、その腕を掴む。

「峯、私まだお風呂に入ってないから…。」

「一緒に入った方が色々と効率がいいだろ。」

「色々…。」

動揺する彼女を無視して着ている衣服を剥がしていく。下着姿の頃には彼女もその気になっていて、密着しながら口づけを。吐息が漏れる浴室。束の間の逢瀬はやはり濃厚だ。
時間はゆっくりと流れて、浴室から寝室へと繋がっていく。

「明日、起きれるかなぁ…。」

「俺はよく眠れそうだな。」

「夏、おやすみ。」

「義孝、おやすみ。」

今日は顔を合わせて言えた言葉。
今日の長い1日が終わる。
今日は、本当によい夢が見られそうだ。
彼女の身体に顔を埋め、夢の中へ。


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