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  Fake It編


Fake It番外

多くの人が眠りにまだついている時間。
この2人も同じようにまだ眠りについている。

AM6:30

まだ男は眠りから完全に覚めている訳ではない。けれど、隣にある確かな温もりが動いているのを本能的に察したのだろう。決して離さないと言わんばかりに固定して、動けないようにする。それはまさに無意識の行動。隣からは呆れたようなため息が零れる。
まだ男は眠っている。眠りの中でも愛しい人のことを夢見る幸せな男である。

AM7:30

ようやく男は起きようかとベッドの中で思案する。視線の先は自分の奥さん。今日も忙しなく朝の支度をしている。そない頑張らんでも出来る時だけでええと以前言ったことがある。すると、彼女は間髪入れずに言った。

これは自分がしたいからしてるだけです。これが私の幸せなんです。

なんてことを言う女だと。自分の奥さんに対して少々失礼な言い方にはなるが、本当に自分にはもったいないくらいの伴侶を得たとそのとき改めて思ったことをふと思い出した。

AM7:45

自分で起きても良かったけれど、今日は彼女に起こしてもらおう。完全に目は覚めているのに、ベッドの中で待機。すると、彼女が近づいてくる音。待ってましたと言わんばかりに大人しくベッドの中にいると、彼女が言うのだ。吾朗さん、朝ですよと。眠そうな声を出すと、彼女はそっと自分の顔を見て笑う。起きてたんじゃないですかと。そうだ。構ってほしくてこんな事をしているのだから。

AM8:30

栄養たっぷりの朝ごはんを食べ、仕事に行く準備も終わる。でも、まだ行きたくない気持ちが。いつもそうだ。そして、今日は珍しく彼女の朝はのんびりとしている。いつもだったら、先に行きますねと言ってから出ていくこともあるのに。

「はぁ?今日が休みやと!」

「会社の設立記念日なんですよ。」

「なんでもっと早よ、言わんのや!」

「言ったら吾朗さんも休むっていうじゃないですか!工期が遅れてるんですからしっかりしてください、社長!」

さすがは自分の奥さん。よく事情を知っている。その言葉にぐうの音も出ない。渋々ヘルメットを手に取り、お弁当を渡される。

「今日は吾朗さんの好きな夕食にしますからね。おかず何がいいですか?」

あぁ、狡い女だ、彼女は。こんな風に飴と鞭をうまく使い分けてくるのだから。拗ねていた顔から笑顔に変わってしまう。さぁ、今日は早く帰れるようにしよう。

PM12:00

お昼ご飯も1日の楽しみのひとつ。朝から忙しなく準備をしていたもの。蓋を開けると今日も綺麗に飾られたお弁当が姿を現す。ひとつひとつ噛みしめながら、やっぱり結婚はええのぅと幸せに浸れる時間。

PM17:30

今日はさっさとやらんと、給料抜きやといったおかげで早めに作業が終わる。帰る際に、西田の恨めしそうな顔が視界に入ったが、気にしない。いつものことだ。さぁ、帰ろう。スキップしながら自宅へと。

PM17:45

あと少しで自宅という所で歩みが止まる。迷わず、とある店の中に。迷わず選んだそれを手に彼女の許へ。さて、どんな顔を見せてくれるのか。思わず顔がにやけてしまう。

PM18:00

「椿、帰ったで。」

「お帰りなさい。吾朗さん。」

お風呂沸いてるので、入ってきてくださいと彼女はまた朝と同じように忙しそうにしている。そんな彼女を呼び止める。

「お土産や。」

「綺麗ですね。」

花瓶を出してきますねと歩き出そうとする彼女の腕を掴んでハグとキスを。彼女もようやく動きを止めて自分に合わせるようにキスを。

彼女に渡した花はチューリップ。一説によると完璧な恋人という花言葉らしい。もう恋人という間柄ではないが、いつまでもそういう関係で自分はいたいと思う。きっと、彼女も同じ気持ちだと思う。

PM19:00

今日の1日のお互いの話をしながら、夕食を。今日は時間があったようで、かなり手の凝ったおかずが多い。自分が嬉しそうに食べている姿を彼女もまた嬉しそうに見ている。幸せな食卓の時間はゆっくりと流れていく。

PM21:30

「そろそろ寝よか。」

「まだ早くないですか?」

見ていたTVを消して彼女の手を引く。勿論、まだ眠くはない。折角、今日は早く帰れたのだから、やることはひとつ。

「吾朗さん、寝るっていいましたよね?」

「ヒヒヒ…。便利やのぅ、言葉っちゅうのは。寝るって言葉は色々意味があるんやで。」

呆れたため息が聞こえたが、お構いなく彼女の素肌に触れていく。すぐに吐息が漏れる。

1日の終わりはやっぱり彼女と触れ合って終わりたい。
疲れ果てて眠りに落ちるまであと少し。
そして、また夢の中で彼女に会えるだろう。

今日もこうして幸せな1日が幕を閉じる。




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