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  趙天佑編


【今日は早く帰れそう?】

【ごめん。この後打ち上げがあって。遅くなるかも。】

【わかった。】

スマホを見ながら溜息をひとつ。ようやく大きな仕事のヤマが終わり、しばらく落ち着くだろうと思っていたけれど、今日が最終ということでお疲れ様の意味を込めての打ち上げも仕事の内。行かない人も中にはいるけれど、今回私はプロジェクトのリーダー。行かないという選択肢はない。

天佑、怒ってそう。

この1か月間は忙しくなるから会えない旨は予め伝えていた。大事な仕事で頑張りたいという自分の意見も伝えて天佑は頑張りなよと応援してくれた。連絡はそこそこしていたが、こんなに会わない時期があったのは初めてだ。

会いたいなぁ。

自分から遅くなるかもと言っておいて会いたいなんて送ってしまったら虫が良すぎるのも重々承知。だからこそ、天佑からの返信を見て返すことはせずそのままに。ちょうどタイミングよく上司からそろそろ飲みに行くぞと声を掛けられて仕事モードに戻された。

「お疲れ様でした。」

次は2次会ということだが、参加するのは男性陣のみだったので私も帰宅組と一緒に帰ることに。思ったよりも時間は早い。連絡しても良かったけれど、足は自然と飯店小路に向かっていた。

あれ?今日はお店休みなんだ。
不定休であることは知っていたが、ひょっとしたらやっているかもしれないという淡い期待は外れた。とぼとぼと自宅まで歩いて帰る。明日はちょうど休み。天佑に会うのは明日まで我慢すればいい。それなのに…。

え?私、電気点けていったっけ?
玄関を前に電気が点いている自宅と換気扇の動く音を聞いて胸が高まる。鍵を開けると期待は確信に変わる。

「椿、おかえり。」

「………。」

嬉しくて言葉が出ないという感覚は初めてだった。そのまま突っ立ったまま久しぶりの恋人の姿を眺める。あぁ、視界がぼやけてくる。天佑はすぐに私の異変に気付いて自分の元に引き寄せる。久しぶりのこの暖かい胸板。懐かしくて愛しい気持ちが一気に込み上げる。

「寂しかった?」

「うん…。でも、我慢しなきゃって思って。」

「我慢?」

「そうじゃなきゃ頑張れなかったかも。」

「そっかぁ。」

天佑が椿は本当によく頑張ったねと私の頭を撫でる。あぁ、なんて人。私の涙腺は見事に決壊。寂しかったのは私だけじゃないのに。いつもこんな風に甘やかしてくれるんだ。

「落ち着いた?飲んできたならお茶漬け用意したけど食べる?」

「もうちょっと、このままでもいい?」

「ほんと可愛いねぇ。」

天佑は抱きしめていた力をちょっとだけ強くする。そして耳元で囁くように俺もすごい我慢してたんだよ、ほんとはと。意外な言葉に驚いて顔を上げると天佑も驚いた顔をしている。

「だってさぁ、俺の方が年上なのにそんなの言ったら大人げないでしょ。そこは大人の余裕のある男をみせておかないとね。」

「言っちゃったけどね。」

「言っちゃったねぇ。」

お互いふふっとそこで笑みが零れる。天佑も私と同じ気持ちだったことがこの上なく嬉しい。さっきは私が癒してもらったから今度は天佑の番。

「天佑も何かして欲しいこと言ってね。」

「いいの?」

「うん。何でもいいよ。」

「じゃあ…。」

天佑は耳元で囁く。私の頬は熱を帯びて紅くに染まる。私は黙ったままこくりと頷くのを見届けてベッドルームに導かれる。ベッドサイドの灯りをそっと消してあとは衣擦れの音と2人分の吐息が聞こえるだけ。たっぷりとその夜は天佑のお願いを聞くことになった。

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