75.王都の祭り

今日は王都で大きな祭りがあるらしい。
朝起きて窓を開けると、もう宿屋の前の通りには屋台が並んでいる。
多くの人が通りを行き交い、その賑わいが聞こえてくる。

祭りは3日間続く。
その期間中は皆で祭りを楽しむ予定だ。

「わあ、楽しそうですね」
「エド君」

特に楽しみにしていたのはエド君だ。
エド君は1人だけギルド登録できなかったから、最近は一人で街の外で狩りをしている。
一緒に出かける機会も減っていたから、皆と遊べると喜んでいる。

俺たちは身支度を整えると外へと繰り出した。

「異国の料理だってよ、あれ食べようぜ。美味そう」
「やっぱり普段見ない物を売っている店がいっぱいあるな」
「お、射的なんてあるのか」
「パパ、あの服パパに似合うんじゃない?」
「あんまり離れると逸れるぞ。順番に回ろう」

人混みの中で興味がある店を順番に回る。

「あ、これ美味い。ほらリックも、あ〜ん」
「あ?、もがっ・・・」

俺はちょうど隣にいたリックの口に押し込んだ。
リックはいきなりされて不満そうな顔をしていたが、その表情がだんだん緩んでいく。
美味かったらしい。

「美味いだろ?」
「まあな。でもいきなりはやめろ」

後ろを見ると、エド君もダグにあ〜んをしてた。

「射的やろうぜ射的」

次に、ダーツを使った射的の屋台を見つけた。
当たった点数に応じて景品がもらえる仕組みのようだ。
その景品はなんと魔道具。
その分だけ参加費が高いのだが、実用性の高い景品である。

「とりあえず7人分お願いします」
「おう、的は4つしかないから順番な」

店主のおじさんは俺たちにそれぞれ5本のダーツを配った。

「競争しようぜ」
「いいけどよ」

普通にリックが強そうではあるが、ナイフ投げなんかもするレイやエド君も強そうではある。
それに集中力だったら俺も負けるつもりはない。

「負けねぇぞ〜」

負けた。

いや、俺も頑張ったんだよ4本はダブルブルに当ててるからね。
ただリックとレイとエド君が20のトリプルにストスト当ててるのが異常なだけだからね。
おじさんが化け物を見る目で見てたよ。
それぞれ良さそうな景品を見繕って受けとった。

「お、あの魔道具屋。ちょっと見てみようぜ」

俺も行ったことのある魔道具屋だ。
元々魔道具を売っている店舗の前に、祭りの時だけ屋台を出しているようだ。
今日のために用意した特別な品もあると喧伝している。
何があるのだろうか。

「こんにちは、特別な品って何があるんですか?」
「いらっしゃい。今回のは凄いよ。何と空間収納付きの鞄だ!」
「どういう機能なんですか?」
「空間収納はこの鞄の容量以上にたくさんのものを入れることができるのさ。空間魔術の使い手は少ないからね。仕入れるのは大変だったけど、何とか頑張ったよ」
「おお、凄い!どれくらい入るんですか?」
「これだと馬車1台分くらいは余裕だよ」

これがあれば嵩張る荷物を背負う必要もないし、魔物素材の持ち帰りも楽になるじゃないか。

「買おう!これ、全員分!」
「全員分?良いのか?めちゃくちゃ高いぞこれ」
「金はあるだろ。リックだって矢を大量に持ち歩けるようになるし、エド君がマーダーグリズリーの毛皮を抱えて入門の時に憲兵から二度見されたりしなくて済むだろう」
「まあ、そうだが。しょうがない、先行投資だと思って買うか」
「毎度あり、七個もいっぺんに売れると思わなかったよ。またきてくれ」

俺達は思わぬところで、器用な道具を手に入れることができたのだった。
これでこれからの依頼も楽になるな。
ほくほくした気持ちで歩いていると、またエド君が興味を惹かれる店を見つけたようだ。

「パパ、あの服買おう。パパに似合いそう」
「あれか?」
「お客さん、キモノの興味があるのかい」
「これキモノっていうんですか」
「これは東方諸国でも極東にある国の衣装さ。この国でもこういうお祭りの日は着ている人もいるよ。あとこういう生地のは楽だからってんで、室内着にする人もいるくらいだよ」
「そうなんですか、ありがとうございます」

そこにあったのは和服を売っている店だった。
元々この世界にあったのか、転移者が持ち込んだのかはわからないけど。
並んでいるのは紋付のような礼装から、浴衣のような普段着まである。

「良いんじゃないかな、ダグはガタイいいから似合うよきっと」
「僕パパがこの服着てるの見たい!」
「分かったわかった。じゃあ買うか」
「やった」

ダグは柔らかい綿の浴衣を選んだようだ。
まあ、袴付きのしっかりした物よりも、気軽に着れるしいいだろう。

「明日のお祭りの時には着てね」
「ああ、いいよ」


それからも、本を売っている店で魔術書を買い漁ったり、全員で腕相撲大会に参加してグレンが優勝したり、祭りを楽しんだ。

そして夕方。
俺とエド君とダグの3人で祭りを回っている。
他の仲間は「酒場の大銅貨5枚で飲み放題」に参加して別行動だ。

「あれ、あの子」
「どうした?」

ダグが何かを見つけたようだ。
視線を追うと一人で居る小さな男の子。
人混みの中で何かを探しているのか、キョロキョロと辺りを見回している。

「泣きそうになってないか?迷子かもしれない」
「本当だ」

ダグは男の子に近づいていった。

「君、どうしたんだ?」
「え?・・・う・・ぁ・・」

ダグが目線を合わせて話しかける。
男の子はダグを見ると、元々涙目だった目に更に涙が溜まっていき、泣き出しそうになってしまった。
ダグの顔が怖いから。

「大丈夫、怖くないよ。パパはお顔は怖いけど優しいよ」
「・・・ぁ・・・君の、お父さん?」
「うん、君が困っているみたいで心配だったから話しかけたんだ」

たまらずエド君が助け舟を出す。
男の子はエド君とダグを交互に見る。
生命の神秘を感じているのだろうか。

「あの、おかあさんとおまつりをまわってたんだけど・・・はぐれちゃって」
「そうか、それは大変だな。おじさん達と一緒にお母さんを探そうか」
「いいの?」
「ああ、任せてくれ」
「ありがとう」

ダグが提案すると、男の子は何とか泣き止んで笑顔を見せてくれた。

それから一緒に男の子のお母さんを探すことになった。
お母さんを見つけやすいように、背の高いダグが男の子を肩車して人混みの中を歩く。

問え合えず迷子の問い合わせが来てないか、憲兵の詰所を目指して歩く。
男の子の名前はマイクというらしい。
道中見つけたお菓子屋さんでマイク君とエド君に、お菓子を買ったりしていた。
マイク君もすっかり安心したのか、ダグに大分懐いているようだ。

暫く歩くと憲兵の詰所に着いた。

「すいません、迷子を保護したのですが」
「あっ、お母さん!」
「マイク!良かった!」

どうやら丁度マイク君のお母さんが来ていたようだ。
ダグがマイク君を下ろすと、涙を流して抱きしめる。

それからマイク君のお母さんは此方が恐縮するくらいお礼を言うと、もう2度と離さないとばかりにマイク君の手を握って去っていった。

「いやぁ、見つかってよかったな」
「そうだな」

親子の愛を見て、俺たちは自然と笑顔になった。


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