74.ランクアップ

初依頼から3ヶ月後。

「ミノーさん。今回の依頼で実績が十分と判断されましたので、Eランクへのランクアップが可能です。ランクアップなさいますか?」

依頼達成の報告の場にて、エリンさんに提案された。
当然お願いする。

「おめでとうございます。これでEランクになりました。登録からランクアップまで歴代で最速ですよ」
「そうなんですか」

他の仲間達はしばしば討伐依頼なんかも受けているので、採取系一途な俺が最初にランクアップしたみたいだ。

「ミノーさんは多少危険な場所にある素材なんかも平気でソロで取ってきますし、複数の採取依頼を並行で達成したりしていましたからね。実績を積み重ねるはやさが異常です」
「異常って・・・」

冒険者でごった返すギルド内。
ランクアップを終えて帰ろうとすると、別の冒険者パーティにぶつかりそうになった。

「おっと、すいません」
「気ぃつけろ」

相手は俺より少し若いくらいの少年だったが、凄い睨まれた。
あれ、これまた絡まれるやつ?

「たった3ヶ月でランクアップなんてどんな汚い手を使ったんだ。薬草採集なんて簡単な依頼ばっかりしてるくせに」
「おいユスタ、やめとけって」

俺を睨んでいる少年はユスタというらしい。
ユスタの仲間が彼を止めている。

外から見たらそう見えるのか。
確かに簡単な依頼ばっかりしているように見えるのに、ランクアップが速い奴がいたら気に入らないよな。

「この人スッゲェ強いって噂だぞ。あのギルド長と互角に戦ったとか」
「そんなん嘘に決まってるだろ。俺たちと対して年かわらねぇじゃん」
「良いから行くぞ。ほら」

俺が困った顔をしていると。
ユスタの仲間が無理やり彼を引き摺っていった。

俺は近くで見ていた人に話しかけた。
確かギルド試験の時に訓練場で見ていた人だ。

「今の人、知ってます?」
「ああ、ユスタか。あんたたちが来るまでは若手の注目株だったんだ。悪いやつじゃないんだがな」
「俺が不正をしているように見えて気に入らないと。まあ正義感があるといえなくもないか」
「ギルド長と互角に戦ったなんて、俺も自分の目で見てなければ信じられないかっただろうからな。噂を信じてない奴も多い」
「そういうことですか。ありがとうございます」

ということは、あのユスタみたいに思っているやつが他にもたくさん居そうだな。
悪目立ちするのは本意ではないんだが。

▽▽

翌日、森の深いところで高級薬草の採取の依頼中。

「・・・戦闘音?」

遠くから微かに誰かが戦っている声が聞こえた。
それだけなら聞き流してもよかったのだが、悲鳴や怒号が混じっているようなので念のために様子を見てみることにした。

戦闘現場に近づいてみると、見覚えのある顔だった。

「くそっ、なんでこんなところにグレートウルフの群れなんかいるんだよっ」
「ユスタっ、右から3匹追加で来るぞっ」
「次から次へと、数が多すぎる!」

昨日ギルドであったユスタとその仲間達だった。
俺は木の影に隠れて様子を伺う。
本来なら冒険者は他の冒険者が戦っている時にあまり手出しをしないのだ。
獲物の横取りとかの問題にもなるからな。
危なくなったら助けに入るつもりではあるが。

ユスタたちは4人しか居ない中、囲まれないようにうまく立ち回っていた。
剣士2人が壁になって、弓使いと魔術師が攻撃と分担している。
剣士の2人は引っ掻かれたような傷がいくつもつけられている。
まだまだ多くが残っているが、少しずつ魔物の数を減らせてはいる。
時間をかければ倒し切れるかもしれない。
流石若手の注目株。

「ユスタ!上だ!」
「何!?」

後ろで弓を撃っていた少年が声を上げた。
木に登った魔物が落下しながらユスタに噛み付かんとしていた。
ユスタが上を見上げた時にはもう、魔物の牙は喉元へと迫っていた。

これはダメだな。

「ウィンディクロース、アイスアーマー」

俺は自身に速度強化と透明な氷の鎧を付与する。
ユスタの死が目前に迫り、仲間たちの悲鳴が上がる。

ガキン!
「は?」

しかし、次の瞬間にあったのは魔物に左腕を噛ませる俺の姿だった。
喧騒の中、氷の鎧に牙が当たる音が響いた。
ユスタもその仲間たちも何が起こったのか理解していないようだ。

「ギャン!」

俺は空いている右手で、腕に噛み付いている魔物を殴り飛ばした。

「手助けはいるか?」

ユスタに問いかける。
硬直していたユスタが我に帰る。
直前に迫っていた死の危険からは脱しても、まだ魔物は迫ってきている。

「お、お願いします」

ユスタは慌てて答える。
これで堂々と介入できるわけだ。

俺は自身に付与している速度強化を活かし、目にも止まらぬ速度で魔物たちの間を駆け抜ける。
そして、すれ違い様に魔物たちの首を刎ねていく。

魔物の悲鳴が次々上がり、首が落ちていく。
ユスタたちは目を白黒させている。
それもそうだろう、大量の血を噴き出し次々魔物が倒れる光景はなかなかのスプラッターだ。
高速で移動している俺には返り血ひとつないが。

結局、30を越す魔物全てを倒すのに30秒とかから無かった。
全ての魔物を倒すと、ユスタ達に向き直る。

「無事だな?」
「は、はい」
「良かった」
「あの、助けてくれてありがとうございます」
「気にするな」

俺は死んだ魔物を見て考える。
一応毛皮が素材だが、剥いでいる余裕はないだろう。
血の匂いで他の魔物が集まってくるかもしれない。

「とりあえず移動しよう。凶暴な魔物が集まってくるかもしれない」
「はい」

街に向かって歩き出す俺にユスタたちもついてくる。

「あ、あの」
「なんだ?」
「なんで助けてくれたんですか?
「?・・・助けるのに理由がいるのか?」
「でも俺、あんなに失礼な態度とったのに」
「ああ、そんなの気にしてないし」

むしろあれで自分がどう見られているかに気付いたし。
それから街までユスタたちを送っていった。

▽▽

翌日のギルドにて。

「ミノーの兄貴、昨日はありがとうございました!」
「兄貴って・・・」

ユスタに会うなり兄貴呼びされた。
周囲の冒険者も昨日とのあまりの変わりように驚いているようだ。

『昨日まであんな態度だったのにーーー』
『ーーーバルドと同じーーーーーーーー』
『ーーまさかーーーー調教ーー』

ギルド内が元々煩いせいでよく聞こえないが、なんか変な噂が流れてる気がする。


[ 74/107 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -