73.試験結果と初依頼


「これにて全ての試験を終了とする。結果は1時間後に連絡する。時間になったら筆記試験を行った部屋にいるように。それでは一旦解散とする」
「「はい」」

マーガスの解散宣言で、俺達は訓練場を後にした。
1階に戻ると時間まで酒場で休憩しながら待つことにした。
勿論、酒は飲まないが。

俺達は暇つぶしの雑談を始める。

「ギルド長、強かったなぁ」
「勝てっつったのに」
「無茶言うなよ」
「あれは仕方がない。魔力量が違いすぎる」

魔力量は生まれ持った資質が大きい。
そしてそれは身体能力や肉体強度まで影響する。
ステータス値に差がありすぎるのだ。

雑談の中で、周囲を確認したあとグレンが小声で話しかけてきた。

「しかしミノーは本気、出さなかったな」
「?・・・出してたけど?」
「人間としてはな」
「ああ、そう言うこと」

領域を使わなかったり、ダンジョンコア本体の魔力を引き出したりしなかったことを言っているのだ。

「まあ、自分で努力して得た力って感じでもないし、ああ言う場で使うのもね。命がかかったりしたら別かもしれないけど。」
「そうか。いい考え方だと思うぞ」
「ちょっと照れるんだが」

こうして俺達は、結果発表までの時間を潰した。
そして指定された部屋で、結果を待つ。

時間になって部屋に入ってきたのは、意外にもギルド長だった。

「これから試験の結果発表を行う」

俺達は静かにギルド長の言葉の続きを待った。

「本当は一人一人読み上げるんだが、今回は全員同じ結果だった。面倒だからまとめて知らせるぞ」

なんか緊張感がなくなるな。
まあ、悪い結果になると思ってないから、元々対して緊張なんてしていないが。

「全員筆記はBランク相当、戦闘に至ってはAランク相当だ。まったく、恐ろしいほどに優秀だな。登録時点でこんな成績残した奴らは初めてだぞ」

お前らの前歴は聞かないが、とギルド長は詮索するのを遠慮してくれた。
助かるな。答えられないし。

「まあ、ギルドランクを早く上げたいなら採集や素材収集、護衛依頼なんかを受けることだな。護衛はDランクからだが。討伐依頼は受けなくてもランクアップさせてやるよ」

ギルド長は俺たちに簡単な助言を授けると、解散を宣言した。

「帰って休むか、疲れたし」
「そうだな、明日からの依頼に備えよう」

▽▽

翌日の朝、俺たちはギルドに来ていた。

「初依頼だ!」

実は結構ワクワクしている。
だって冒険者になって依頼をこなすって、異世界転生系の話のテンプレだし。
物語の中に入ったみたいで興奮しちゃうよね。

期待を抱えながら、ギルドへの扉をくぐり抜けた。
そこには冒険者でごった返す、依頼掲示板があった。
いい依頼は早い者勝ちだから、朝の早いうちから来て争奪戦になるようだ。

「ミノーさん、おはようございます!」
「ん?」

声のした方を見ると、俺に頭を下げるバルドの姿があった。

『あの狂犬が敬語を・・・』
『何者・・・』

デジャブだ。

「おはようバルド」
「依頼ですか。昨日はすごかったですね」
「ああ、初依頼だな」
「ミノーさんなら苦労することもないと思いますが頑張ってください」
「ありがとう。バルドも頑張れよ」
「はい、それではまた」

バルドと別れると、俺達はFランクの依頼が貼られている掲示板に向かった。
今日からしばらく全員別行動の予定なので、みんなソロで依頼を受ける。
皆と別れ掲示板で依頼を探す。

やっぱり初依頼といえば薬草採集だよな。

「あった」

オトギリ草の採集100本。
報酬は1本当たり銅貨5枚。
シンプルで基本的な依頼だ。

俺は依頼用紙を剥がして受付の列に並んだ。
前の方を覗き見ると、受付担当は丁度エリンさんのようだ。

「おはようございます。ご用件を承ります」
「おはようございます。依頼の受注手続きをお願いします」

俺は持っていた依頼用紙と自分のギルドカードを渡す。

「オトギリ草の採集ですね、手続きをいたしますので少々お待ちください」

エリンさんはカウンターの中で、何やら魔道具を操作しているようだ。
何かの登録が必要なのだろう。

「手続きが完了しました。カードをお返しします。依頼報告時にまた受付へとお越しください」
「ありがとうございます。あとすいません、薬草とかが乗っている図鑑とか採取方法がわかる資料はありますか?」
「図鑑はギルドの資料室にありますよ。あちらの扉の先です。採取方法も載っています。事前調査ですか。単純な依頼にも丁寧で慎重ですね。そう言う方は大成しますよ」
「ありがとうございました」
「お気をつけていってらっしゃいませ」

俺は受付を離れると、ギルドの資料室に向かった。

入ってみると資料室は案外狭かった。
書棚一つと机と椅子が2脚ずつ。
この適当加減から察するに、利用者があまりいないのかもしれない。

俺は書棚の中から植物図鑑を選んで取り出す。

今回採取する薬草の頁を開き、生息域や見分け方、採取方法など必要な情報を調べた。

「さて、そろそろ行きますかね」

俺は図鑑に記されていた生息域の一つである王都東の森に向かった。

▽▽

「えーと、木の根元、魔力が強い場所っと。あ、あった」

俺は調べた情報を基に薬草を集めていく。
森の深い方に進めば結構群生しているところもあったので、順調に集まっていく。

「おっと」
ザシュッ

採取中死角から襲ってきた狼型の魔物を剣で切り捨てる。
一応売れるので毛皮も剥いでおく。

森の奥の方は魔物の出現率が上がっている気がする。
薬草採集をするような普通の駆け出し冒険者は、こんな奥まで来ないのかもしれない。
まあいいか。

ちょくちょく魔物に襲われながらも、無事に規定量の薬草を集めるのに成功した俺はギルドに戻った。

「お疲れ様です。以来の達成報告の来ました」
「お疲れ様です。1日で達成したんですか」

え、普通は違うの?
聞いてみると、どうやら普通は数日かけて達成するものらしい。
森の浅いところで探していたり、奥に入っても魔物との戦闘になってしまったりで時間がかかるのだそうだ。
まあ、早い分にはいいよな。

俺は薬草を納品して報酬を受け取った。
初依頼はこうして終了したのだった。

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