72.ギルド試験3

レイは訓練場の中心に出ると、ギルド長と向かい合い双剣を構えた。
ニヤニヤと相変わらずいやらしい笑みを浮かべている。

「用意・・・始め!」

『消えた!?』

マーガスの開始の合図と同時にレイの姿がかき消える。
そしてキィンと言う金属音が聞こえると、ギルド長の後方お離れた場所にレイが現れた。

「チッ・・・余裕で防ぎやがって」
「速いな」

レイが超高速で接近し、すれ違いざまにギルド長に切り付けたのだ。
ギャラリーには瞬間移動したようにしか見えなかっただろう。

「これならどうだ」

またレイの姿が消える。
そしてほとんど重なり合って一つに聞こえるが、5回の金属音が響いた。

今度は正面から胸を、右後方から太腿を、左側面から脇腹を、右前方から上腕を、背後から首をと次々に攻撃を仕掛けていた。
常人には見えない速度での連続攻撃だと言うのに、ギルド長はそれらを全て剣で受けた。

『何が起こっているんだ』
『速すぎる・・・』

「しょうがねぇな」

単純な速さでギルド長の防御を抜くことが出来ないと分かったのだろう。
レイは戦い方を変えることにしたようだ。
普通の速度でギルド長に接近し、双剣を交差するように切り付ける。
防がれるも構わず右足でローキック、避けた先に左の剣で突きを放つ。
ギルド長が剣で防ぐと、同時に右の剣で切り上げた。
それを身を捩り紙一重で躱すギルド長。
更に、左の剣で切り払ったかと思えば、次の瞬間にはギルド長の後ろに移動して切り付けた。

剣を1本しか持たないギルド長に対し、双剣の手数と動きの緩急で攻める気のようだ。
左右の剣と混ざって飛んでくる蹴りに、時々瞬間移動したように別角度から攻撃していく。

ギルド長が攻撃する気がないのを良いことに、防御を捨てて攻めまくっている。
そのため、ギルド長の防御も時々危うい場面が出てきていた。

そんな攻防が数分続いたが、変化が出てきていた。
ギルド長の防御が、全く崩れなくなったのだ。

「速いが、段々と慣れてきたな」
「バケモンかよ」

次の瞬間、攻撃に対し受け止めるのではなく、弾き返すように攻撃を重ねるギルド長。
レイは堪らず後方へ押し返される。

「チッ、マジかよ」
「少々力が足りないな」

レイは諦めず、一瞬で後ろに回り込んで攻撃するが、完璧に合わせたギルド長に吹き飛ばされてしまった。
受け身をとって倒れるレイ。
起きあがろうとするも、その前に接近したギルド長に剣を突きつけられる。

「はぁ、俺の負けだ」

「それまで!」

試験を終えて戻ってくるレイ。

「ありえねぇ。マジでバケモンだよアイツ」
「お疲れ、最後は俺だな」
「勝てよ」
「無茶言うなって」

そんな会話をした後、名前を呼ばれた俺は前に出た。
片手剣を右手に構え、ギルド長と向かい合う。

「ふむ、1番若そうだし、パッとしないが・・・お前が1番強そうだ」
「どうかな、剣じゃあまり強い方じゃないけど」
「まあ、戦ってみればわかるだろう。実力を見せてみろ」
「胸をお借りしますよ」

どうやらかなり期待されているようだ。
できるだけ答えてやりたくなるね。

「用意・・・始め!」

「ウォーターショット」

俺は左手を翳し、初球の攻撃魔術を放つ。
水の塊を発射する単純な攻撃だ。
水をぶつけるだけとはいえ、高位術者が放つ高速の水弾は、当たれば強い衝撃と共に相手を弾き飛ばすことができる。
しかも、俺の場合一回の詠唱で出現した水塊は数十個。
それらがギルド長に向けて殺到した。

『なんて数だ』
『当たり前のように詠唱省略なんだな』

ギルド長は膨大な魔力を身体に巡らせると、俺から右に向かって走り出した。
今までギルド長がいた場所を通り過ぎていく水塊。
高速で発射されたそれは背後の壁にぶつかり、1発1発がパァンと言う破裂音を響かせる。
俺も、ギルド長の移動に合わせて軌道を修正するが、追い切れない。

ギルド長は大きく回り込んで俺の右側面の離れたところに到達した。

「ウォーターショット」

俺はまた同じ魔術で攻撃する。
先ほどと違うのは全てをギルド長に向けて放つのではなく、面で制圧するように弾幕を張っていることだ。
ギルド長は走っている勢いのまま、俺の周りを大きく回る。
今度は狙いを広くした分当たりそうになる弾もあったのだが、ギルド長はそれを巧みに躱していった。
走る速度を調節し着弾タイミングをずらして避け、頭に当たりそうになれば身を屈め、足に当たりそうになれば跳躍する。
狙いが広い分弾と弾の隙間が広く、避けられてしまうようだ。

「それなら、ウォーターショット。エアスラスト」

先ほどと同じように面制圧を狙い、そこに更に風の攻撃魔術を混ぜる。
風の刃は表面は斬り裂けても、深い傷を負わせることは難しい。
それでも対人戦なら出血狙いで十分な効果が見込める。
数十の水弾と、そこに混ざる同じく数十の不可視の風の刃だ。
これなら相当避けにくいはず。

しかし、ギルド長は先ほどと同じく水弾と風刃を悉く避けていく。
どうなっているんだ。
魔力を読んで軌道を察知している?

どうするかな、広域魔術なら当たるか?
いや、広範囲広げたような薄い魔術じゃギルド長の防御を抜ける気がしない。
それに1人に当てるためだけに広域魔術を放つような、雑な魔力の使い方は俺の美学に反する。

駄目だ。
遠距離から捉えられる気がしない。

攻撃の手を止めた俺に対し、様子を伺うようにギルド長も立ち止まった。
俺は右手の剣を構える。

「アイスソード」

呪文を唱えると、10本の氷の剣が俺の前に生成された。
そして左手を振ると、それらがフワリと浮かびギルド長に刃を向ける。

『氷魔術!?』
『あんな魔術見たことないぞ』

俺がギルド長に向けて駆け出すと、氷の剣も追従するように飛んで行く。
ギルド長を間合いに捉えると、片手剣で打ちかかると共に氷の剣を操作して同時に切り付ける。

氷の剣はそれぞれ上段に振り下ろすもの、中段に突きを行うもの、下段に斬り払うもの、間合いを取って牽制するものなどバラバラに動かしている。
避ける隙間などない。

流石に有効打を当てられるだろうと思った俺の期待は見事に裏切られた。
いくつもの剣による俺の攻撃に対してギルド長は、たった1本の剣で対応したのだ。
目にも止まらぬ速度で振った剣が、全てを薙ぎ払った。

「この数を独立して操作しているのか。とんでもない頭をしているな」

ギルド長は感心したように言うが、全く嬉しくない。
なぜあの数の攻撃を剣1本で弾けるんだよ。
このスペックお化けめ。

ギルド長が俺達をここまで余裕で相手をできる理由は簡単だ。
肉体強度、魔力量、反応速度などのあらゆるスペックが俺達よりも圧倒的に高いからだ。
魔力量なんて俺の10倍近いんじゃないだろうかね。

長年修行してきた俺達よりもここまで強いとは。
天才というか、選ばれしものというか。
世界は広いな、まったく。
まあ、だからこそ見て回りたいんだがね。

俺は片手剣と氷の剣で攻撃を続けながら考える。

この化け物に自分がどれだけやれるか試すのも良いだろう。
確かに俺にも勝っている部分はあるんだよな。
数多の分身体を操れるだけの並列思考チートと、100年で鍛えた繊細な魔力制御だ。
スペック差は工夫で埋めよう。

氷のように形のあるものだと防がれるわけだ。
それなら。

「ウォーターテンタクル」

俺の背後に直径50cm程の水の球が浮かび上がる。
そしてその球から木が成長していくように、10本の長く曲がりくねった水柱が生えていく。
1本1本が俺の胴回りくらいの太さだ。
それらは俺とギルド長の間合いを埋めるのに十分な長さとなると、まるで鞭のようにしなりギルド長に襲いかかった。

「むっ」
「水なら剣で防げないだろう?」

横薙ぎに頭に襲い掛かる水の触手を屈んで避けて、同時に切り付けてくる氷の剣を剣で弾く。
攻撃の種類が増えても未だに被弾しないギルド長。
立ち止まらず走って的を固定させてくれないし、届いた攻撃も全て対処されてしまう。

「何の、まだまだっ」

俺は諦めずに氷の剣と水の触手を操作しながら、右手の片手剣で攻撃する。
使ってみると水の触手は、威力を出すためには太さと加速距離が必要なため、余り密度の高い攻撃ができない。
そこをつかれて隙間を縫うように避けられている。

「これだけの攻撃に囲まれてなんで当たらないんですかっ」
「人数的に多対一の戦闘経験も豊富なものでな。そろそろ引き出しも限界か?」
「くっ」

これ以上の手数は難しい。
おそらくこの状態で攻撃魔術を放っても、避けられて魔力の無駄にしかならないだろう。

「なら」
「うわっ」

俺の目の前をギルド長の剣が通り過ぎた。
間一髪で避けることができたが、当たっていたらタダでは済まなかっただろう。

「こちらも攻撃させてもらうぞ」

ギルド長は様子見をやめて、本格的に攻勢に出るようだ。
正直、俺ではギルド長のパワーを受け止め切れない。
できる対処は完璧に受け流すか、避けるかの2択だ。

失敗したら体勢を崩し、畳み掛けられて最終的に詰むことになるだろう。
それなら。

「ウィンディクロース」

俺の体を包むように風が渦巻く。
こうなったら全ての攻撃を避ける覚悟だ。

『なんだ?急に動きが速くなった』

俺は自分の体に追い風を当て、全ての動きを加速させる。
これにより、急加速、急制動とまるで慣性を無視しているかのような動きを可能にしている。
さらに空中でも左右に動けるため、隙が少なくなる。
ギルド長も緩急のある上に、早い時にはレイ並みの速度で動き回る俺に的を絞れなくなった。

お互いに決定打がないまま攻防が続いていく。

「フリーズブレード」

俺は長期戦を覚悟して自分の剣に追加の魔術を仕込んだ。

▽▽

俺の試験開始から約1時間。
事態は膠着したままだ。

「そろそろ1時間にななるぞ。一撃も当てさせないとは、すごい集中力だな」
「お互い様でしょう。こっちも一撃も入れさせてもらってないですよ」

軽い調子で会話をするが、すでに疲労困憊だ。
全ての攻撃を避けながらの、複数の魔術操作は流石に疲れる。
しかし、それもそろそろ終わる。

終わりは呆気なかった。

パキン!

もう何百回目かわからない俺の打ち込みを受け止めたギルド長。
その剣が根本から見事に折れていた。

それと同時に俺達は動きをピタッと止めた。

「俺の剣の方が先に折れるとはな。何か仕込んでいたのか?」
「はい、実は剣に魔力を纏わせて極低温の気で覆っていました」
「それで撃ち合うたびに俺の剣を冷やして脆くしたのか。やられたな」
「これで終わりですね」
「ああ、そうだな」

ギャラリーも、マーガスですら唖然としている。
こんな展開は予想していなかったのだろう

「俺の負けです」
「そうだな」

俺の仲間達をみると、気づいていたのだろう。
みんな残念そうな顔をしている。

「魔力がすっからかんです」

ギルド長の剣を折ると同時に、俺の魔力が完全に空になったのだ。
このまま素手のギルド長と戦っても、10秒ともたないだろう。

「あと少しだったな」
「ちょっと悔しいです」

魔力があと1割でも残っていたら、俺の勝利で終わることもあっただろう。
まあ、あくまで試験の条件の中でだから、俺がギルド長より強いということにはならないが。
むしろギルド長が自前の武器で最初から本気だったら瞬殺されてそう。

「これでミノーの試験を終了とする」
「ありがとうございました」

試験終了の宣言とともに、訓練場の隅にいた仲間達も集まってきた。

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