71.ギルド試験2

片手剣を右手に持ち、左手で大楯を構えるアディ。
少し距離を置いてギルド長が対峙している。

「用意・・・初め!」

開始の合図を聞いてもアディは動かない。
無言で盾を構えるだけだ。

「来ないのか?」
「・・・・・・・・・・」

アディは返答することなく、重心を落とし攻撃を受ける体勢を取った。

「徹底した後の先か。ならばこちらから行くぞっ」

ギルド長は素早く間合いを詰め、剣を振り下ろした。
実力を見るためだろう。
まだ本気は出していないし、盾に向かって攻撃している。

アディはそれを左手で構えた盾で受け、左に受け流した。
金属同士がこすれる音が微かに鳴る。
その音があまりにも小さいのは、力を力で受けることなく綺麗に受け流しているためだろう。
身体の正面が開いたギルド長に、アディの右手の剣が突き出される。

ギルド長はそれを右に仰け反って躱し、その勢いのまま右に一歩ずれる。
アディの側面に一瞬で移動し剣を振った。

それをまた受け流し、カウンターで攻撃するアディ。
ギルド長もまた、アディの攻撃を避けて再度攻撃する。

剣を受ける。
攻撃する。
避ける。
攻撃する。

まるでターン制のような防御と攻撃の応酬。
それが何度も繰り返される。

そして、攻防が続くごとにお互いの攻撃が強力になり、動きが早くなっていく。
既にグレンとの試験の時の最高速くらいになっている。
流石に受け流しきれない攻撃が出てきて、正面から受け止めることも増えて来た。
金属を叩く甲高い音が響き始める。
しかし、それでもアディの防御は崩れない。

「ふむ、まさに鉄壁だな」
「・・・・・・・・・」

ギルド長がバックステップして一旦距離を取った。

「どれくらい耐えられるのか見せてみろ」

一言放つと、上体を低くして踏み込みの体勢に入る。
そしてギルド長の体内で膨大な魔力が渦巻くのを感じる。

次の瞬間にはアディに肉薄し、剣を振り下ろしていた。

「・・・・ッ!・・・」

金属と金属がぶつかり合う甲高い音と、地を打つ破砕音が同時に響いた。

「これを耐えるか。結構本気を出したんだがな」

そこにあるのは先程までと同じ光景、アディがギルド長の剣を受け止めているだけだ。
ただ、違うのは。

『地面が・・・・・・』
『あの攻撃を受けて一歩も引かないとは』

アディを中心に大地が僅かに陥没していた。
まるで小型の隕石が衝突した後の様だ。

「衝撃をうまく逃がしたか。普通なら全身の骨が砕けているぞ」
「・・・防ぐのは得意だ。」
「そのようだな。なら、これはどうかな」

ギルド長がまた一瞬で側面に回り込み、剣で薙ぎ払う。
アディがそれを受け止め、金属と金属がぶつかり合う音が響く。
そして、カウンターで剣を突き出すも、すでにそこにギルド長はいなかった。

背面に移動し剣を振りかぶっていた。
アディもギルド長の位置を気配で追い、振り向き何とか攻撃を防ぐ。
しかし、またカウンターを入れる暇もなくギルド長は移動していた。

高速で移動し続けながらの連続攻撃に、アディは攻めに転じる暇がなかった。
周囲を縦横無尽に動き回るギルド長に合わせ、振り向きながら防ぎ続けている。

「・・・・ッ!・・・・」

その状態でさらに一撃一撃が段々と重くなっていく。
次々繰り出される攻撃にアディも衝撃を逃がしきれない場面が出て来た。

攻撃は直撃していなくとも、体にダメージが蓄積していく。
アディの口元から僅かに血が垂れる。

必死に耐えて攻撃を防ぎ続けるアディだが、終わりはあっけなく訪れた。

バギッ!

ギルド長の攻撃を受け止めた際に、遂に金属製の盾が限界を迎えてしまった。
衝撃を流しきれずに、受け止めていたためだろう。
分厚い盾が真っ二つに割れてしまった。

それと同時にアディも片膝をつく。

「限界だな」
「・・・ありがとう、ございました」
「体もボロボロだろう。治療師に診てもらえ」
「はい・・・」

マーガスがアディに肩を貸して、治療師の元に連れて行ってくれた。
試験が終わっているエリックとグレンが心配して様子を見に向かった

そして、マーガスが戻ってくるとダグの名が呼ばれた。

「行ってくる」

ダグは借りた戦鎚を担ぎながら前に出る。
普段は後方支援を請け負っているとはいえ、1人で戦えないわけじゃない。
一対一の戦闘訓練も当然行ってきた。

「用意・・・始め!」
「プロテクション、ストレングス、ブースト」

開始の合図と同時に、ダグは自身に複数の強化を施す。
防御力強化と二重の身体強化だ。

「ほお、装備から前衛かと思えば支援術師か」

ギルド長がいかにも意外だと言う顔をする。

『支援術師!?あのガタイでかよ』
『近接戦闘もこなせるのだろう。珍しいな』

強化を施し準備を終えたダグは、ギルド長に向って駆け出した。
そして、間合いに入ると戦鎚を大きく振りかぶって、そのまま振り下ろした。
隙の多い動きだが、ギルド長が最初は様子見する事も計算ずくなのだろう。
試験なのだから、火力を見せ付けるのも悪い選択肢じゃない。
ギルド長はダグの動きを見切っていて、一歩引いて振り下ろされる戦鎚を躱した。

攻撃は完全に外れたかに見えた。

ドゴォン!!
「むっ」

戦鎚の先端が地についた瞬間に、激しい破砕音が響き渡り無数の石礫がギルド長を襲った。
ダグはそれを目眩しに、更に接近して武器を振り抜いた。

「くっ」
ガキィン!

ギルド長としても予想外だったのだろう、その追撃を避けきれずに剣で受けた。
ただ、防御したものの衝撃をモロに受け、後方に大きく吹き飛ばされた。
しかし体勢も崩さずに地面を摺りながら綺麗に着地する所は流石だろう。

『なんだあの威力』
『まるで爆発したみたいに地面を砕いたぞ』
『あのギルド長を吹っ飛ばすとは』

観戦者達も、ダグの攻撃のあまりの威力に騒然としている。
それは先ほど見たギルド長の一撃にも劣らないように映った。

この攻撃力の秘訣は、ブーストとストレングスの二重の身体強化である。
特に光属性の身体強化であるストレングスは、自身にかける時が1番効果が高い。
自己強化を重ね掛けしたダグは後衛ながら、かなりの攻撃力を持っているのだ。

「今のは驚いたな、今度は此方も攻撃させてもらおう」
「受けて立ちます」

ダグの攻撃への対応力を見ようとしているのだろう。
いきなり激しい攻撃はしない。
単純な攻撃から始め、だんだん速度を上げてくる。

ダグはそれらの攻撃を戦鎚を使って捌きつつ、隙を見て攻撃をしている。
正直言って、ダグの近接戦闘力はそれなりだ。
勿論、一般的な冒険者に比べれば強い部類に入る。
しかしグレンのような技量もアディのような防御力もレイのような速度もない。
ギルド長もそれを察したのだろう。
ダグの実力に合わせた攻撃を繰り出している。

そして、ギルド長は段々と攻めのレベルを上げていった。
ダグが捌ききれない攻撃が出てきて、何度か身体に剣を受ける。

「そろそろか」

勝敗を決して試験を終わらせようとしたのだろう。
丁度体勢が不安定となったダグに、一撃入れようと剣を振るった。

「ホーリーウォール」
ガキン!
「!?」

ダグが作り出した輝く半透明の壁が、ギルド長の剣を受け止めた。

「はぁっ!」
「ぐっ」

終わらせる気で放った攻撃を不意に受け止められたギルド長。
ダグの攻撃を剣で防ぐことができず、開いていた左手で受けた。
咄嗟に魔力を巡らせた為か大きな傷は負っていないが、流石に多少はダメージを受けたようだ。
手を振って痛そうにしている。

「全く、上手く隙をついてくる。最後まで盾を温存していたな」
「近接戦は余り得意でないので、工夫が必要なんですよ」
「だが、二度は通じないぞ」
「でしょうね」
「行くぞ」

ギルド長が素早い動きで間合いを詰める。

「ホーリーウォール」
「甘い」
パキィン!
「くっ」

ギルド長の一撃が、光の盾を一撃で砕いた。
続く攻撃をなんとか戦鎚で受けるが、すぐに次の攻撃が飛んでくる。
ギルド長もそこそこ本気を出してきているようで、上手くダグの体勢が崩れるように攻撃を仕掛けて行く。
受けた攻撃が30に届く頃、体勢を崩した所に追撃を受けたダグが戦鎚を取り落とした。

「それまで」

戦闘の続行不可能と判断したマーガスが、試験終了の合図をだした。

「ありがとうございました」
「若干防御面が不安だが、後衛の支援術師でそれだけ出来れば十分だろう」

試験が終わったダグはギルド長に礼を言って戻ってきた。
入れ違いに、名前を呼ばれたレイが前に出ていく。



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