70.ギルド試験1

開始の合図と同時にエリックから矢が放たれる。
矢は風切り音を発しながらギルド長の右肩に一直線に向かっていくが、翳された長剣によって弾かれてしまった。

「いい狙いだ」
「それはどうも」

リックは防がれても気にせずに、次々に矢を連射していく。
それぞれ左脚、右胸、正面腹部、左腿と狙いをずらして射かけている。
先端が平らになっているからか、遠慮がない。
流石に頭は狙わないようだが。

『なんだあの連射速度は!』
『あの速さで1発も外していないぞ』
『矢速も早いな。かなり強い弓を使っているみたいだ』

ギャラリーからエリックの実力に対して驚きの声が上がる。

「ほう」

ギルド長は感心したような声を上げながらも、対応は冷静だ。
膝より上の攻撃はすべて剣で防御し、足元の攻撃は足をずらして避けている。
実力を見極めることを目的としているからか、距離を詰めたり反撃はしないようだ。

「魔術付与(マジックエンチャント)、ファイアボール」

矢を放ちながらの淡々とした詠唱。
防がれた矢の本数が2桁になる頃、このままでは埒が明かないと思ったのだろう。
リックが次の手を打った。

僅かに赤く発光する矢がギルド長に向かって飛んでいく。

「むっ、これは」

今まではその場で防ぐだけだったギルド長が、大きく右に向かって飛び退いた。
発光する矢がギルド長が直前まで立っていた位置に到達すると、轟音を上げて炸裂した。

『なんだ!』
『爆発した!?』

突然の爆発に驚く周囲を他所に、2人は冷静だ。

「これも避けられるのか」
「矢に魔術付与とは驚いたな。しかも戦闘中に即興で付与するなんて聞いたことがない」

魔術付与ってのは元々魔剣の製作なんかに使われるもので、使い捨ての矢にするのは結構珍しいらしい。
そして希少な上にべらぼうに高価だから、常用するにはかなりの資金力が必要とされる。
その点リックは弓使いとしてかなりのアドバンテージがある。

『魔術付与?そんな高等技術を・・・』
『戦闘中にあんな速さで出来るもんじゃないだろ。どうなってんだ』

「これはあまり余裕を見せてはいられんな。此方も反撃を始めるぞ」
「望むところです。魔術付与、ファイアボール」

ギルド長がリックに向かって歩き出す。
リックもギルド長の足を止めるために、魔術付与を施した矢を射た。

その矢はギルド長に到達するより僅かに前に爆発し、それを察知していたギルド長は飛びずさる。

「魔術付与、アースニードル。魔術付与、フレイムカノン」

もはや放つ矢全てに魔術を付与するリック。
茶色に発光する矢がギルド長の足元の地面に刺さると、そこから地面が隆起しする。
それは鋭い石の爪となってギルド長を貫かんとする。
それを一歩引いて避けるギルド長。

「何!」

続けて放たれた矢は、赤い残光を残しながら隆起した石の爪を目掛けて一直線に走る。
その姿はまるでレーザービームの様だ。
矢は石を貫き、その勢いのままギルド長に迫る。
石は攻撃の為だけではなく、この矢の目隠しとしての役割もあったようだ。
ギルド長は身を逸らし、紙一重で赤い矢を避ける。

体勢を崩したギルド長。
そこにさらに次の矢が迫る。
既にファイアボールの詠唱を終えていたリックの矢が、ギルド長に襲い掛かる。

「ッぐ!」

ギルド長は矢を避けることは叶わず、間一髪で剣を立てて防いだ。
矢は爆発し、その衝撃波は至近距離のギルド長を襲い、ギルド長は数メートル吹き飛ばされた。
吹き飛ばされつつも、空中で体勢を立て直し奇麗に着地したのは流石だ。
それにしても、爆発の規模に対して受けたダメージが少ない気がする。
どんな防御力しているんだ。

「なんでそんなにピンピンしてるんですか」
「鍛錬の賜物だ。次はもう少し本気でいくぞ」
「魔術付与、ファイアボール」

ギルド長は剣を構えると、かなりの速度で走り出した。
リックは牽制の矢を放つが、ギルド長はその矢をすり抜けて前に出る。
矢はギルド長の後方で爆発した。

「くッ。魔術付与、アースウォール。魔術付与、アースニードル」

次に放たれた矢はギルド長とリックの間の地面に刺さり、高さ2m、幅数mの石の壁を作り出した。
さらにその壁に矢が刺さり、壁からギルド長に向かって石の爪が迫る。

「はあっ!」
「げっ」

ギルド長は剣を一振りすると、迫る爪ごと壁を両断した。
そして出来た隙間から前に抜け出し、リックへと迫る。

2人の距離はもう数mもない。
リックは弓による足止めを諦めて、接近戦の覚悟を決めた。
予備武器として腰に下げていた剣を抜く。

ギルド長はリックを間合いに入れると、横薙ぎの攻撃を繰り出す。

ギィンッ!
「くっ」

リックは自分の剣を立ててギルド長の攻撃を防ぐ。
金属と金属がぶつかり合う音が訓練場に響いた。

ギルド長は長剣をまるで片手剣のように、右手一本で軽々と振るっている。
それに対し、リックは両手で受けているにも関わらず、攻撃の勢いを受け止め切れていない。
受け止めた攻撃に押されるように足が地面を擦る。

ギルド長の攻撃が重すぎて、攻撃を受け止める度にリックの体勢が崩れていく。

「うわっ」

何度も攻撃を受け続けたリックが、ついに後ろに吹き飛ばされた。

「これまでだな」
「参りました」
「これでエリックの試験を終了とする!」

尻もちをついたリックが起き上がる前に、ギルド長が剣を突き付ける。
それを確認したリックは、剣を捨て両手をヒラリと挙げる。
それを見てマーガスが終了の合図をした。

「弓使いが一対一でこれだけ戦えれば十分すぎるだろう。結果は後で全員まとめて発表する」

ギルド長は剣を鞘にしまい、リックに手を差し出した。

「ありがとうございます」

リックは立ち上がり、俺たちが待っている元へと歩いて来た。

「次はグレンの試験を行う」

マーガスに呼ばれて、リックと入れ替わりにグレンが訓練場の中心に向かった。

「見ていてもわかっただろうけど、あのギルド長めかなり強いぞ。まるで隙がない」
「技術も高いんだろうけど、身体スペックが異常に高そうだと感じたな」
「片手で振り回した長剣が、まるでグレンの大剣の攻撃みたいな重さだったよ」
「お、そのグレンの戦いが始まるぞ」

訓練場の中心を見ると、大剣を構えるグレンと長剣を片手で構えるギルド長が向かい合っている。

「用意・・・・・・始め!」

マーガスの合図と同時に、グレンが動き出す。
一瞬で距離を詰め、鋭い振り下ろしを繰り出した。

ガキン!
「むぅん」

ギルド長は剣で受けるが、勢いに押されてズリズリと後方にずれた。
重い金属同士を打ち合わせた鈍い金属音が響き渡った。

『速い』
『ギルド長が力で押されたぞ!』

グレンは続いて横方向に薙ぎ払うが、再度受け止められる。
その後も次々と攻撃を繰り出すグレン。
ギルド長はすべて受け止めるも、その度に後方に押されていく。

変わらない状況にグレンは一旦バックステップ、そして距離を取った。
ギルド長を見据え、集中力を切らさないまま一度深呼吸をした。

グレンの体内で爆発的に魔力が循環するのを感じる。
同時に大剣にも魔力が込められた。

「フッ!」

やったことは最初と同じだ。
一瞬で間合いを詰めての唐竹割。
ただその速度が桁違いに速い。

「ッ!」

大剣が届く直前に膨大な魔力がギルド長の中で膨らみ、ギリギリ身を左に逸らせて回避していた。
グレンの攻撃はそのまま地面にぶつかり、大地に数mに渡る亀裂を入れた。

『地面を・・・割った?』
『嘘だろ』

「まさか今のを躱されるとは思いませんでした」
「いきなりそんな攻撃をしてくるとは、肝を冷やしたぞ。これからはこちらも攻撃しようか」

そういうとギルド長もまた、一瞬で間合いを詰めグレンに切り付けた。
グレンは大剣でギルド長の剣筋を逸らす。
金属同士が擦れる音が聞こえた。
次はグレンがギルド長に攻撃する。
足元を狙ったその攻撃をギルド長は跳躍して避け、また反撃する。

相手の攻撃を受ける、もしくは逸らし躱して反撃する。
グレンとギルド長で攻防が目まぐるしく入れ変わっていく。
金属を打ち合わせる音と、風を切る音のみが訓練場に響き渡る。

驚くべきは、長剣と同等の取り回しで大剣を操っているグレンと、大剣と同等の威力で打ち合っているギルド長だろう。

「ふむ、剣を使う技量は驚嘆ものだな。だが・・・」

ガキィィン!!
「クッ」

これまでより一際大きな音が響いた。
同時に互角の力で打ち合っていたと思われたグレンが後ろに押し退けられた。

「一番大事な“力”が追いついていないな」

その後、ギルド長が攻撃を開始すると、グレンから反撃を仕掛ける隙がなかった。
ギルド長の圧倒的な力と速さに対して、正面からぶつかることなくなんとか逸らして対応している状態だ。
しかし、そんな威力の攻撃を長く受け続けられるはずもない。
一撃毎に、体力と魔力を大きく消費していくグレン。
数分後には肩で息をする程に消耗してしまっていた。

「まだ続けるか?」
「ま、参りました」
「これでグレンの試験を終了とする」

それでも暫く粘っていたが、とうとう魔力が底をついて身体強化が切れてしまい、降参する事になった。

「よく、魔力が切れるまで受け切ったものだ」
「ありがとう・・ございましたっ・・・」

こちらに戻ってくるグレン。
入れ違いに、名を呼ばれたアディが前へ出て行った。



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