69.ギルド登録

今日はギルドで冒険者登録をする日だ。
戦闘と筆記の試験があるから、武器や防具などの装備もちゃんと準備している。
朝のギルドは依頼を受ける冒険者で混むため、混雑のピークからずらして少し遅めに向かっている。
因みにエド君は年齢的に登録できないのでお留守番だ。

ギルドに着くと、中に残っている冒険者は少なかった。
併設された食堂にいる休日であろう冒険者達と、カウンターに並ぶ数組だけだ。
おそらく昨日の依頼達成後、深夜に街に戻ってきた為翌日に報告しているのだろう。
こういう報告だけのパーティは恐らくどの時間でも居るはずだ。

俺達はカウンターに並び、自分達の順番になるのを待った。
対応してくれるのは先日話したお姉さんだった。

「おはようございます、お姉さん。冒険者の新規登録に来ました」
「おはようございます。ミノーさんでしたね。お待ちしておりました。私、窓口担当のエリンと申します。よろしくお願いします。6名様の登録ですね、こちらが登録用紙です。ご記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
「いいえ、自分で書きます」
「承知しました。ペンはこちらをお使いください。今は他に人がいないのでカウンターで記入して貰って構いませんよ。」
「ありがとうございます」

俺たちは登録用紙とペンを受け取ると、そのままカウンターで記入し始める。
出身地は書けないので、名前、年齢、得意武器、魔術適性等の欄を埋めて行く。

6人全員が記入し終わると受付のお姉さんに用紙を渡す。
エリンさんは記入内容に目を通すとこちらに向き直った。

「確認いたしました。登録料として1人大銅貨5枚頂いておりますので、合計で銀貨3枚頂きます」
「はい、お願いします」
「頂戴致しました。ではこれから登録手続きを行います」

エリンさんはそう言うと、カウンターの奥の棚から何やら変わった道具を取り出してきた。

「こちらの魔道具の上の針の部分に指を刺してください。それで登録は終了し、登録証が作られます」
「分かりました。では俺から」

俺は奇妙な魔道具の箱の上に飛び出した針を、小指に突き刺した。
すると血が針を伝い、箱の中に流れていく。
箱が僅かに発光すると、エリンさんが箱についた取出し口を開け、中から銀色のカードを取り出した。

「こちらが登録証です。一般的にギルドカードと呼ばれていますね。無くさないようにご注意ください。これがあれば他の支部に行った際も身分保証が可能です。また、再発行には銀貨1枚頂いています。再発行は別の支部でも可能です」
「それって他の全部の支部と情報を共有してるってことですか?」
「はい、登録者の情報は全国のギルドで共有されています」
「それってどうやってるんですか?」
「ギルドの情報網については秘匿されている為、公開できないんです。申し訳ありません」

全国で情報を共有って、インターネットみたいなもんだよな。
異世界にもあるのか。
多分魔術を使ってるんだよな。
再発行が別の支部でも出来るってことは、何らかの形で本人確認をおこなっているってことか。
血液中の魔力パターンを記録しているのか?
魔力の性質と言うか色というか波長というか、うまく表現できないけどDNAみたいに一人一人違うって聞いたな。

「おい、ミノー」

考え込んでいるとレイから呼びかけられた。

「何やってんだよ、次が支えてるぞ」
「ああ、ごめんごめん。考え事してた」

エリンさんからギルドカードを受け取ってカウンター前から退くと、次にレイが登録を始めた。
カードを見ると金属製で、国名と名前とランクだけが書いてあるシンプルなものだった。
探ってみると、何らかの魔力的な処理がされている事が感じ取れた。

カードを調べていると、全員の登録作業が終わった。

「これで冒険者として正式に登録されました。冒険者ギルドは皆さんを歓迎します。試験は受けられますか?」
「はい、全員お願いします」
「承知しました」

まずは筆記試験を受ける為に、別室に案内された。
長机が同じ方向に向けて並んだ部屋は学校の教室を連想したが、定員は10人程度の小さな部屋だった。

全員が席に着くと、試験担当の男性職員が問題用紙を持ってきた。

「制限時間は2時間だ。先に終わったら途中退室は可能だ。時間は30分毎と終了10分前に宣言する。質問はあるか?・・・ないようだな。では試験開始!」

開始の宣言と同時に用紙に記載された問いに回答していく。
問いの内容は薬草の採取方法、魔物の素材の剥ぎ取り方、魔物の習性、魔物の弱点と倒し方等多岐に渡った。
また、特定の状況下に置かれていると仮定して、どのように行動するべきか記述するなんて問いもあった。
思っていたよりも実践的な内容で驚いた。

修行期間に仲間達に教わったものも多かったが、知らない内容もあった。
まあ、元々この世界の常識すら危うかったのだから、仕方のない事だが。

分かる箇所を全て書き終えたところ、終了30分前だったのでそのまま時間終了まで見直しをして過ごした。

「時間だ。ペンを置け。解答を回収する」

男性職員は全員の問題と解答を回収すると、次の予定について説明する。

「1時から戦闘試験を開始する。時間になったら地下の訓練場に集まっているように。昼食はギルドの食堂もあるが、どこで食べても構わない。それでは一時解散とする」

男性職員が解散を宣言した為、俺達は部屋を出て入口のホールに戻ってきた。
昼には少し早いくらいの時間だが、午後は体を動かすのだ。
早めに食べて腹を慣らしていくのが良いだろう。

「じゃあ、少し早いが飯に行くか。ギルドの食堂で良いよな?」
「ああ、良いんじゃないか?」
「よし行くか」

食堂に向かって歩いていると、入口を横切るタイミングで丁度その扉が開いた。

「あっ、ミノーさん!」
「ん?バルドか」

入ってきたのはバルドのパーティだった。
俺に気づいたバルドは笑顔で駆け寄って来た。

「おはようございます。偶然ですね」
「おう、おはよう」

俺とバルドが話し始めると、それまで静かだったギルド内が僅かにざわつき出した。

『狂犬が頭を下げて挨拶した!?』
『何者だあの子は』
『あのバルドが年下に敬語を使っているだと』
『あんなの見た事ないぞ』

どうやらバルドの俺に対する態度に反応しているらしい。
まあ、元が結構なクズだったみたいだし、いきなり丁寧な言葉遣いしてたら驚くよな。

「依頼の報告か?」
「はい。ミノーさん達は登録ですか。今日登録するってことは試験を受けるんですか?」
「ああ、さっきまで筆記試験を受けてた所だ。午後に戦闘試験をする予定だ」
「そうなんですか」

バルドが何やら考え込む仕草を見せる。

「すいません、その戦闘試験、見学してもいいでしょうか?」
「ギルド側が許可しているなら俺は構わないが」
「試験はいつも公開されているので大丈夫です」
「それならいいが。何で見学なんか」
「強い人の戦いを見る機会というのは貴重ですから」

そんなもんなのか。
バルドはパーティメンバーにも試験を見るように誘っている。
俺とバルドの会話を聞いていたのか、他の全然知らないパーティ達まで見物してみようかとか話しているのが聞こえた。
なんかバルドのせいで変に注目されている気がするんだけど。
どうすんだこれ、まあ別にいいんだけどさ。

腹減ったし飯にするか。


▽▽


昼飯を食べた後の指定の時間。
俺達はギルド地下の訓練場にいた。
見学しようとしている冒険者たちも、訓練場の壁際に並んでいる。
なんかバルド達以外に何組もの冒険者たちがいるんだが。

地下の訓練場といっても、大きさは体育館くらいのサイズがある。
こんな大きな空間をどうやって作ったのかと思えば、地属性の魔術師大勢を動員して作ったらしい。

訓練場に通じる螺旋階段を降りているときは、妙に長いなと思っていたが。
予想外の大空間に驚いたわ。

訓練場の名の通り、普段は冒険者の訓練の為に開放しているらしい。
また、新人冒険者のための講習を頻繁に開催していて、それがここを作った目的のようだ。
なんでも講習を始めてから、新人の死亡率が激減したとか。
ギルドって意外と面倒見が良いんだな。

指定された時間になると、一人の男性が訓練場に現れた。

「6人全員そろっているな。俺が戦闘試験を担当する、マーガスだ」

試験担当を名乗る職員、マーガスは壮年で長身の男性だった。
ギルドの職員と聞くとデスクワークをする文科系を想像していたけど、
マーガスは冒険者と言われた方がしっくりくる筋骨隆々の体躯をしていた。

「では試験の説明をする。戦闘試験では一人ずつ試験官と模擬戦を行う。その際の戦闘技術をみて結果を判断するから、試験官に勝利する必要はない。武器は刃引きした訓練用のものを此方で用意しているから、この後各自で自分に合ったものを選ぶように。武器以外の制限は特にない、魔術の使用も可だ。治癒魔術を使える職員が待機しているから怪我をしても心配するな」

マーガスが視線をやった訓練場の端に、杖を持った女性の職員がいた。
彼女が治癒魔術を使える職員なのだろう。

「訓練用の武器はこの後に倉庫に案内するからそこから選べ。それにしても・・・」

マーガスは俺たちを見回すように視線を動かした。

「試験官役は俺がやる予定だったんだが・・・。これは手に余るな」

そう言うと、手を上げて女性職員を傍に呼んだ。
そして小声で何かを話すと、俺たちに向き直った。

「彼女が訓練用の武器倉庫まで案内する」

説明を終えるとマーガスは訓練場の出口である階段を上がっていった。

「武器倉庫はこちらです。ついて来てください」

女性職員は俺たちを訓練場に併設されている倉庫まで案内してくれた。
俺達は倉庫に並べられた武器から、自分たちの得物と近いものを選ぶ。

刃引きされているといっても金属でできているのは変わりないので、
まともに食らったら骨折くらいはしそうだ。

武器の中には弓矢も用意されていて、鏃の先は潰されていた。

倉庫から訓練場に戻るとマーガスともう一人、老齢の男性が仁王立ちして待っていた。
その男性は屈強なマーガスをさらに一回り大きくしたような巨体だ。
老いてなお滲み出る覇気から、一目見ただけで圧倒的な強さを持っていることが分かる。

地上に出て初めて見る、明らかに格上の存在だ。

「武器を選んできたな。こちらはこの冒険者ギルドのギルド長だ」
「ギルド長のギュスターヴだ。マーガスに変わって今回の戦闘試験の試験官を担当する」

まさかギルド長が出てくるとは。
見学者の連中もギルド長の登場に驚いているのかざわついている。

『マスターギュスターヴがーーー』
『大戦の英雄が出てくるとはーーー』
『それだけの相手なのか』

遠すぎてよく聞こえないが、冒険者たちの反応から実力だけでなく立場的にもかなりの大物の様だ。

「マーガスは元B級の冒険者だが、お前たちの相手をするのには力不足と判断したため俺が交代することになった。正確な戦闘能力が測れないのは問題だからな」

妙に逞しいと思っていたが、マーガスは元冒険者だったようだ。
見ただけで相手の実力を測れるなんて、結構優秀なんじゃないだろうか。

「マーガスが交代を申し出るなんてどんな相手かと思ったが、これだけの実力者が集まっているとはな。まあ、事情は聴かないが」

俺の勘だとギルド長の方が強いんだが、随分高く見積もって貰えているようで光栄なことだ。

「それでは試験を開始する。エリック、前に出ろ。他の者は壁際に下がっているように」
「はい」

呼ばれたリックが返事と共にギルド長の前へ出ていく。
残った俺たちは指示通り壁際に下がった。
バルドたちのパーティが見えたので、そのあたりで一緒に見学することにした。
マーガスも壁に近い所まで下がってきた。

「弓使いか、開始位置の距離は20mくらいか」

ギルド長とリックは少し距離を取って向かい合った。

「それではこれよりエリックの戦闘試験を開始する。開始の合図とともに開始するように。用意!」

マーガスが号令をかける。
エリックが弓に矢を番え引き絞り、ギルド長が練習用の長剣を構える。

「始め!」

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