51.100年後

修行を開始ししてから100年たった。
今は修行用のダンジョンを攻略中だ。

修行用と言っても中身は表のダンジョンのコピーだ。
他の冒険者にあわないように、態々修行用に複製した。

周囲は火山階層の名にふさわしく、岩山に囲まれあちこちにマグマ溜まりがある。
遠くにはマグマを吹き出す火山まで見えている。

頭上にいるのは火龍、火山階層の階層ボスだ。
どれくらい強いかというと、襲われたら都市1つ余裕で滅ぶレベル。
見上げる程の巨体に、鱗は鉄より硬く、並々ならぬ魔力を秘めている。
それが俺たちの上を悠々と飛んでいる。

今からあれに挑む。

「いくぞ、アディ!」
「ああ」

アディは俺の合図に頷き、大きく息を吸い込んだ。

「がああああああああああああああっ!!!」

魔力を込めた雄叫びを上げる。
それははるか上空を飛ぶ火龍の耳に届き、その敵意を引き付ける。
挑発用の技だ。
特殊な魔力を乗せた声は魔物の敵意を引き付けることができる。

ーーーギャオオオオォォォォォォォォォ

火龍が咆哮を上げ迫ってくる。
そして俺たちのパーティの斜め上空でホバリングすると、息を吸い込む動作を開始した。

「ブレスが来るぞ!迎撃準備!」

俺はパーティに指示を出す。
ちなみに一番経験が浅いのだが、このパーティのリーダーは俺だ。
俺が主人だからというわけではなく、複数の分身を同時に操ることができる並列思考チートが、広い視野を必要とするリーダーに向いていたからだ。

火龍が息を吸い終え、ブレスを放ってきた。
鉄をも溶かす高温の炎。
まともに受けたら灰しか残らない。

「ウィークンファイア!」
「アイスシールド」

リックが火魔術でブレスに干渉し、その火力を弱める。
何気にオリジナル魔術だ。

そして俺が氷をドーム状に展開し、盾を張る。
ただの氷ではない。魔力を通した鉄より硬い氷だ。
この氷魔術も、水属性と風属性の複合属性で、高等技術だったりする。

弱めたブレスを氷の盾が防ぎきる。

ーーーガアッ!

火龍が無事だった俺たちを見て声を上げる。
何故まだ生きているのだ、とでも言いたげだ。
まあ、あのブレスを生き残れる人間なんてそうそういないだろうから気持ちはわかるけど。

「もう一度来るぞ!さっきより強い」
「任せろ!」

先程と同じ手順で、2回目のブレスも防ぎきる。

火龍はそれを見て地面に降りてきた。
ブレスでは殺せないと理解したようだ。
そして着地すると四本足で立ち、俺たちに向かって突進してきた。

それはとんでもなく巨大な鉄の塊が自動車並みの速度で迫ってくるようなものだ。
轢かれたら普通にトマトみたいになるだろう。

「止めるぞ、アディ、リック」
「ああ、ブースト」
「おう!、アースウォール」
「ストーム」

俺が突風を起こし、向かい風で火龍の速度を落とし。
リックが岩の壁で火龍を受ける。

まあ、火龍は岩の壁なんて粉砕して迫ってくるのだが、勢いは大分落ちる。
それをアディが左手に持つ大盾で受け止めた。

「ぐうぅ!」

アディが使ったブーストは、体内で魔力を循環させることで身体能力が向上する技だ。
割と基本的な技なんだけど、修行の成果か火龍を受け止められるほどに強化されるのだから驚きだ。

とは言え、もちろん無傷とはいかない。
腕の健は切れ、骨にも異常が出ているかもしれない。
アディの表情が曇る。

「ダグ!」
「分かった!、ハイヒール!」

ダグから光の玉が放たれ、アディに吸い込まれる。
すると、苦悶の表情だったアディの表情が安らぐ。
怪我が回復したのだ。

「エド君、火龍の攻撃が強すぎる。デバフをかけてくれ」
「あんな大きいと一辺にはかかりません」
「四肢だけでいい」
「分かりました、フィジカルカース!」

エド君から黒い靄が4つ放たれそれぞれ火龍の両手両足に吸い込まれる。
これは相手の筋肉を僅かに弛緩させ、身体能力を下げる魔術だ。

大きな相手には効果が弱いが、少しでもタンクであるアディの負担を減らしたい。

「飛ばれたら厄介だ。翼から削るぞ、グレン左の翼だ」
「了解だ、ブースト」

グレンが身体能力を強化しながら大きくジャンプする。
重い鎧を着けながらも、ふわりと浮き上がり翼に切りつける。

しかし、さすが火龍の翼。
表面に傷をつけただけに終わった。
グレンは岩を余裕で両断するくらい、攻撃力あるんだけどなあ。

「リック、頼んだ。魔力7割くらい使っていい」
「おう!マジックエンチャント、エクスプロード」

リックが弓を構え、矢に魔術を付与する。
そして放つと、矢は風切り音を上げながら高速で翼に命中した。

寸分違わず着弾したのは先ほどグレンがつけた傷の部分だ。
矢はその傷に僅かに刺さるとーーー轟音を上げ爆発した。

ーーーギャァァァアアアアアア

火龍の片翼に大穴が開いた。
これでもう飛ぶことはできない。

火龍は唸りながらリックに目を向ける。
より危険な者に狙いを変える気だ。
だが、

「どこに目を向けている!」

またアディが魔力を乗せた声を放った。
さらに跳躍し顔を切りつけ、敵意を自分に向けさせる。

火龍はまたアディに注意を向け、鋭い爪で引っ掻き攻撃を放つ。

「くっ!」

アディは大盾で受け止めながら、その場に踏ん張る。

「アドルバート!ヒール」
「助かる」

すぐさまダグが体に伝わったダメージを回復させる。

リックも魔力の大半を使ってしまったし、ここからは地道に削っていくしかないな

「アディは側面に回り込みながら敵意を引け!ダグとレイはアディのサポート!」
「ああ」
「分かった」
「りょうかい」

アディが敵の攻撃しにくい側面に回り込みながら敵意を引き付ける。
ダグはアディを回復し、レイは顔など急所を狙いながら火龍の攻撃を妨害する。

「さっきの突進は何度も食らいたくないな。脚から潰そう。エド君」
「はい。アーマーブレイク」

エド君から黒い光が放たれると火龍の左脚に当たる。
これは当たった物体を脆くして防御力を下げる魔術だ。

「あそこだ、グレン、リック」
「了解」
「おう!」

グレンが素早い動きで近づいて、脆くなった鱗を切りつける。
すると鉄より硬い火龍の鱗は硬質な音を立ててひしゃげた。

「マジックエンチャント、ファイアーボール」

そこに火魔術が付与されたリックの矢が着弾し、爆発した。
その爆発は先程翼に穴を開けたときとは比べ物にならないほど小さいが、威力は十分だったようだ。
ひしゃげていた鱗が弾け飛んだ。

「エアスラスト」

鱗が禿げ、中身がむき出しになった部分に俺が風の魔術を当て、筋繊維を断ち切っていく。

「リック、魔力のペース配分に気をつけろよ」
「ああ、分かってる」

こうしてアディが火龍の注意を引き付けている間に、少しずつ足を削っていった。


▽▽


30分かけ脚を1本潰し、楽になるかと思いきや、パーティは危険な状態だ。

一人で火龍の攻撃を引き付けていたアディの疲労が蓄積し、崩れかけている。

「グレン、アディと変わってやってくれ。5分で良い。リックはそのサポート。ダグはきついようなら魔力ポーションを飲んでくれ」
「了解だ」
「おう」
「わかった」

グレンはアディのように攻撃を受け止めることはできないが、直撃しないように受け流しながら耐えることはできる。
ダグの補助があれば何とか持つだろう。

「すまない」

アディがグレンと入れ替わる。

「アクアヒーリング」

俺はアディの体内の水分に干渉し、疲労回復の魔術をかける。

5分後

アディは傷だらけになったグレンと入れ替わる。
ダグの回復が追い付かなかったようだ。

「大丈夫か?」
「なんとかな」
「はい、ポーションで回復してくれ。ダグはアディについてるから手が離せない」
「ありがとう」

グレンはポーションを飲み傷を回復させていく。
俺はそれを確認すると、

「次は腕だな」

また攻撃を再開した。


▽▽


2時間後。

時折アディを休ませながら、総出で削った結果。
火龍は片脚と両腕を潰され、もはや立つことも出来ずに地に伏している。
血を流しすぎたせいか、虫の息だ。

「グレン」
「了解」

グレンは集中して魔力を大剣に集める。
隙だらけになるから戦闘中にはできないが、攻撃力は群を抜いている。

「はあっ!」

グレンが大剣を振り下ろすと、火龍の首が地に転がった。

俺たちはそれを見てふうと息を吐く。

「勝ったー」

喜びの声を上げながらお互いにハイタッチを交わす。
そしてたまった疲労からその場に倒れこんだ。

「まさか龍を倒せるとはな」
「まあ、勝つまでに10回以上全滅してるんだけどね」

グレンが声を上げ、俺が返した。

そう、俺たちは10回以上火龍に殺されているのだ。
此処にいるのは皆コピーの体で、本体は別の場所で眠っている。
だから死んでも新しいコピーを作ってやり直すことができる。
火龍もそうやって13回の全滅を乗り越えて討伐することができた。


ーーーそろそろ良いのではないだろうか。

「みんなに話がある」

まだ喜びの声を上げている皆の注意を集める。

「そろそろダンジョンの外の世界に出ようと思う」

一瞬静けさが広がった。
そして、それぞれ口を開く。

「もう・・・100年になるのか・・・」
「いいんじゃないか?」
「修行はもう十分すぎるだろ」
「1パーティで龍討伐なんてSランク並みだしな」

リックとレイが賛同する。

「・・・外、懐かしいなぁ」
「皆、中で過ごした時間の方が長いからな」

エド君とダグが懐かしむ。

「100年もたっていると常識も色々変わっているかもしれないから注意が必要だな」

グレンが注意を促す。

「外に出たら何をするんだ?」

アディが俺に尋ねてくる。

「旅だな」

俺は率直に答える。

「冒険者登録して、あちこち旅して、この世界を満喫したい」

折角この世界に来たんだからな。

「じゃあ、今日はダンジョン内最後の夜だし、宴会でもするか」
「「「賛成!」」」

「その後は皆でヤルか」
「「「休ませろ!」」」

怒られた。

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