44.集合した

今日も弓の訓練をした後、部屋に戻ったらなんだか広くなっていた。

元々広かった居間に談話室のようなスペースが増えている。
食卓も大きくなり、8人掛けになっている。

「おう、お帰り」
「ミノー?」

増えたスペースにローテーブルを囲むソファが有り、そこにミノーが座っていた。
後ろを振り向く。
そこにも今まで一緒に訓練していたミノーがいる。

「ミノーが二人いる!」
「今まで言ってなかったけど、俺分身出来るから何人もいるんだ。奴隷一人に付き一人の俺が着いているから」

後ろのミノーが説明してきた。

「意識はリアルタイムで共有しているから同一人物だと思ってもらっていいぞ」

前のミノーが話しかけてきた。

「交互に喋るなややこしい!」
「じゃあ俺は先に部屋に戻っているから。後はあっちの俺に任せる」

後ろのミノーが居間から続く寝室に消えていった。
そして今気付いたが、扉が増えている

「まあ座れよ」
「ああ」

色々聞きたいことはあったが、取り合えず促された通りにソファに腰かけた。

「まあ、説明は全員がそろってからな」
「は?」

その時背後から扉が開く音がした。

腰に剣を携えたミノーを伴い、壮年の男が増えていた扉から現れた。

「人がいる!」

思わず叫んでしまった。

「人?」
「よお、グレン」

そのグレンと呼ばれた壮年の男も、俺を見て驚いた表情をしている。
そしてミノーを見て、後ろを振り向いた。
俺と同じようにミノーが何人もいることに困惑しているのだろう。

「後で説明するから、取り合えず座れよ」
「あ、ああ」

男は色々と気になっているだろうに、気持ちを押し殺してソファに座った。
その視線はミノーと俺を交互に写している。


その後
アディと呼ばれた青年、ダグと呼ばれた男、エドと呼ばれた幼い少年、レイと呼ばれた男が現れた。
エドという少年を除き、全員が逞しい肉体の男だった。
ミノーの趣味か・・・。

そして全員がミノー以外に人がいることに驚いていた。


▽▽


ローテーブルを囲むソファに全員が座った。
聞きたいことは沢山あるが、ミノーが説明してくれるというので待っている。

「まずは俺が複数いることからだな」

そう言って、俺に説明した内容を全員に説明した。

「ここにいるのは全員俺の奴隷だ。ダンジョンで死んだところを俺が拾った。そして、このダンジョンを出るときの同行者でもある」

以前に聞いていた他の同行者の存在。
それが此処にいる人間たちということか。

「ここにこうして集めた理由についてだが、外に出たら冒険者としてここに居るメンバーでパーティを組もうと思っている。パーティを組む以上、お互いのことを知っておいた方がいい。それに、今は個別に訓練をしているが、俺以外の人間とペアを組んでお互いに教えあった方が戦闘力の向上につながるだろうと言う狙いもある」

確かに、冒険者としてパーティを組むなら、早いうちから行動を共にした方が連携を取りやすいだろう。
訓練もミノーだけよりも、いろんな相手と行った方が対応力が身に付きそうだ。

「じゃあ、まずお互いに簡単に自己紹介をしてもらおうか。リックから」
「俺?」

いきなり振られて少し焦る。
少しの間考えて口を開く。

「俺の名前はエリックだ。ミノーからはリックと呼ばれているが好きなように呼んでくれ。元冒険者で今は弓を使う。魔法適正は火と地の属性だ」
「好きな体位は対面座位だ」
「おい!」
「抱き着いて密着できるのが好きって言ってただろ」
「言ったけどこんなところで言うなよ!」

最後にミノーがふざけてきたから睨みつけたが笑顔で返されてしまった。

「よろしくお願いします」
「次はグレン」
「ああ」

そう言って立ち上がったのは俺の次にこの部屋に来た男だった。
男盛りと思われる年齢。
短く刈られた髪、此処にいる人間の中でも特に鍛えられていると分かる体躯。
歴戦の勇士であろうと予想される強者のオーラ。
どこか余裕の感じられる態度に、こんな男に成りたいと思わせるような、大人の男にしか出せない色気がある。

「名前はグレンと言う。元冒険者で大剣を使う。魔法適正は地属性だ。あー、好きな体位は・・・」
「言わなくていいから!」
「すまない、よろしくお願いする」

俺に気を使ったのだろう。
言いにくそうに言うから思わず止めてしまった。
そしたらグレンはあからさまに安心した様子で座った。

「えー、俺聞きたいなぁ」
「黙れ」
「しょうがないなぁ、次はアディ」
「分かった」

アディと呼ばれた男が立ち上がる。
俺より少し年上だろうか。
やはり鍛えられた体から、戦いを生業としていたことが伺える。
ややぶっきらぼうな感じの受け答えから、生真面目な印象を受ける。
キリっとした眉毛に意志の強そうな眼が特徴的だ。

「俺はアドルバート。ミノーからはアディと呼ばれている。獲物は片手剣と盾。魔術は身体強化くらいしか使えない。よろしく頼む」

アドルバートはそれだけ言って座ってしまった。

「じゃあ、、次はダグ」
「ああ」

立ち上がったのはこの中で最年長と思われる男だった。
服の上からでも盛り上がっている筋肉が分かるが、来ているのは装備ではなく作業着だ。
恐らく肉体労働系の労働者だったのだろう。
かなりの強面だが、醸し出す空気は穏やかなものだ。
隣の少年との関係が気になる。
後、服に切れ込みが入っているのは何故だろうか。
胸が露出している。股間部分にも切れ込みが入っているようで、今は足を閉じているから大丈夫だが、開いたら大事な部分が見えてしまうのではないだろうか。

「俺の名前はダグラスだ。ミノーはダグと呼んでいるが好きに呼んでくれていい。元は土木工業組合の労働者だった。武器は此処にきてから槌を訓練している。魔法適正は光だが魔力容量は小さいから今増やそうと訓練中だ。よろしく頼む。あと、隣にいるのは息子で、この服はミノーの趣味だ」

他の人間の視線から疑問に思っていたことを察したのだろう、補足を入れてきた。
隣の可愛い少年は息子の様だ。似ていないな。

「今日は脚閉じてるから中が見えないな」
「当たり前だ、いい加減に新しい服をよこせ」
「まあ、そろそろ良いかもな、後であげるよ」
「約束だぞ」
「はいはい、じゃあ次はエド君」
「はい!」

この中で唯一の子供である少年が立ち上がった。
ダグラスの息子であるとは信じられないほど似ていない。
強面のダグラスに対して、少年はクリっとした目のかわいらしい容姿をしている。
子供特有の騒がしさが一切なく、落ち着いた行儀の良い子の様だ。

「僕はエドワードです。パパやミノーお兄さんからはエドって呼ばれてます。武器は短剣を練習中です。魔法適正は闇属性ですが、パパと同じく今は魔力容量が小さくて大した魔術は使えません。よろしくお願いします。」

可愛いなあ。
それにしてもミノーはこんな幼い子にまで手を出しているのか。なんて奴だ。

俺がミノーを鋭い視線を向けると、それに気づいたミノーが手をひらりと振った。

「俺はエド君に手を出してないよ」
「そうなのか?」
「エド君は男役だから」
「は?」

あのかわいい子が抱いているってことか?ミノーを?
いやあいつはそんな奴じゃないな。
じゃあまさか、ダグラスを?あの強面の?

信じられない目でダグラスを見ると。
視線が集まったダグラスは顔を赤くして俯いてしまった。
その反応が俺の予想が当たっていることを物語っていた。

「じゃあ最後はレイ」
「おう」

何とも言えない空気を断ち切ってミノーが次の自己紹介を促した。
立ち上がったのは最後に部屋に来た男だ。
30歳前後と思われる男前だ。
鋭い目付きは野生の肉食獣を思わせる。
ひょうひょうとした雰囲気とニヤニヤと嫌らしい笑い方は、性格の悪さを連想させる。
この顔をどこかで見たことあるような気がするのだが思い出せない。

「名前はレイヴン。双剣使いだ。適正は風だが魔術は使えん。好きな体位は後背位、腰をしっかり掴まれて高速で突かれるのがたまんねぇ。以上だ」

恥ずかしげもなく、好きな体位まで語ったレイヴンに驚きを隠せない。
他の皆も唖然としている。

「レイはバック好きだったの?次のときにまたやってやるよ」

ミノーだけ流してそのままシモの話をしている。
恥という物が無いのかこいつ等は。

「じゃあ自己紹介が終わったところで・・・」
「名前と戦闘スタイルくらいしかわかってないけどな」
「親睦を深めるために宴会でもするか」

それはいい。

ミノーがダイニングテーブルに沢山の豪華な料理とジョッキに入った飲み物を出した。
これはまさか

「酒か!?」
「ビールだけな、一回試しに飲んだことがあるが、美味さは分からなかった。他の酒は飲んだことないから出せない」
「久しぶりの酒だ」

俺以外の皆も酒に喜んでいるようだ。

「そんなに喜んでくれるなら、もっと早くに出しておけばよかったな」
「気にするな、こうやって飲ませてくれるだけでうれしい」
「また出してやるよ」
「ありがたい」

また酒が飲めるようになるとは思わなかった。

「じゃあみんな席について」

ミノーの指示に従いみんな素早い動きで席に座る。
酒が待ちきれないのだろう。

エド君には違う飲み物が出されている。
ミノーがジョッキを掲げて音頭を取る。

「パーティメンバーの出会いを祝して、乾杯!」
「「「乾杯!」」」

全員、飲み物をあおる

「うめぇ、なんだこの酒!こんなの飲んだことねぇ」

みんな口々に酒の美味さを讃えた。
ミノーは苦そうな顔をした。





豪華な料理に酒が進み、皆良い感じに酔っぱらってきている。
視界の端では酔ったレイヴンにダグラスとエド君の親子が絡まれている。
意外にも子供が好きなレイヴンが、エド君を構い倒しているようだ。

俺の目の前にはグレンとアドルバート、横にはミノーがいる。

「酷いと思わないか!」

ジョッキをテーブルに勢いよく置いた音が響く。

「気を失っている間にケツの穴をガバガバにされてたんだぞ!」

酔いに任せ、自分の主人の過去の所業を愚痴る。
他にも変な契約魔術を使われたり、変なスライムの実験台にされたり。

「いや、ガバガバってほど緩くはなかったぞ。いい締まりだった」

この状況でふざけたことを言ってくるミノーにジロリを視線を向ける。
実に自然な動作で目を逸らされた。

「まあ、俺が言うのもなんだけど。リックはマシな方だぞ」
「二人は何をされたんだ?」

グレンとアドルバートに視線を向けた。
二人は少し言いにくそうにしていたが、

「俺は恋人の目の前で抱かれた。後からその恋人は偽物って判ったんだが、あれは恥ずかしかった」
「皆最初は酷い目にあっているんだな」
「そういうグレンは?」
「俺は壁に半身埋められて身動きが取れない状態で、ゴブリンに尻を犯され続けた。時間の感覚が曖昧だったが、数か月くらいの期間かな?」

絶句した。
なんて酷い事をしているんだと、ミノーを睨んだ。

視線に気づいたミノーが舌を出す。

「てへっ」

思わず脳天に拳を振り下ろした。

「ごふ!」



「まあ、命を助けられたのだから、少々の酷い扱いは甘んじて受けよう」
「少々じゃないと思う」

聖人のようなことを言うグレンに思わず言ってしまった。

「それに、何だかんだと今の暮らしも悪くない」

グレンの視線を追うと、そこには殴られた殴られたとダグラスとエド君に慰めてもらいに行っているミノーがいた。

「それは、まあ、俺もかな」

本人には絶対言わないが。

その後も酒が進み、ミノー被害者の会で話は盛り上がった。
そして、ミノーとエド君を除き全員が机に突っ伏して寝た状態で翌朝を迎えた。

酷い頭痛と吐き気に耐え兼ね、ミノーに治してもらうこととなった。




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